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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第6章 アーシラの森で

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13 達也の音。~マリルより厄介だぞ~[挿絵あり]

 場所:タークの屋敷

 語り:小鳥遊宮子

 *************



 ターク様の書斎のソファーテーブルに、今日もアンナさんが朝食を並べてくれる。


 以前はベッドルームのテーブルで食事をとっていた私だけど、書庫で寝るようになってからは、書斎で食べることが増えていた。


 焼きたてのパンが沢山入ったカゴが、テーブルの真ん中に据えられている。以前はワゴンに乗せられたままだったけれど、ベッドルームよりテーブルが広いので、ゆったりと配膳できるようになったのだ。


 最近また、食事をとる様子のなかったターク様も、私の向かいに座り、パンを前に紅茶を飲んでいる。よく眠れたからか、少し食欲が湧いたらしい。


 昨夜、ターク様が眠ったのを確認した後、書庫に戻った私だけれど、自分自身は全く眠れなかった。


 昨日森で見たミレーヌの記憶を、何度も何度も思い出してしまったのだ。


 蛇のように冷たい目、容赦なく振り下ろされる鞭、執拗なサキュラル……その全てが想像を絶するものだった。


 達也に会えた喜びで、しばらくは浮かれていた私だけれど、あれが自分の未来だと思うと、背中がゾッと冷たくなる。


『ここを出て所有者の元へ行っても、退屈さえ我慢すれば、なんとかやっていけるんじゃないかな』


 私はずっと、そんなふうに楽観的に考えていた。あのひどすぎる光景を、目の当たりにするまでは。



 ――まさか、あんなに壮絶だなんて……。


「ミヤコ? パンが潰れてるぞ?」


「え!?」



 ターク様の綺麗な黒い瞳が、心配そうに私をのぞき込んでいることに気づいて、私はハッと顔を上げた。



「何度も呼んだぞ」


「す、すみません」



 フワフワだったパンが、私の手の中ですっかり小さくなってしまっている。考え込みすぎて、ターク様の声も全く聞こえていなかったようだ。


 震える手でパンをお皿に戻すと、バターナイフがガチャガチャと音を立てた。



「なんだか食欲がなくて……。すみません、書庫に戻ります」



 そう言って立ち上がった私を、ターク様は慌てた顔で呼び止めた。



「ミヤコ、まて、私は……」


「は……はい?」


「私は、お前を、所有者に返すつもりはないぞ……」



 ターク様は絞り出すようにそう言うと、「いいからここに座れ」と、私を引っ張ってとなりに座らせた。



「せっかく治療したお前を、私がまた、傷つける奴のところに、戻すと思うのか?」



 そう言って、じっと私を見つめるターク様。その瞳は、不安に揺れる私の気持ちを見透かしてしまっているようだった。



「だけど、ターク様やマリルさんに、これ以上ご迷惑はかけられません……」


「だからってお前、魔力タンクになるつもりなのか?」


「でも、私……他に行くところが……」



 私の瞳から涙が溢れはじめると、ターク様は「くっ」と小さく呻いた。


「あー、また……。泣くのはよせ。お前が泣くとタツヤがうるさいんだ。これを聞いてみろ」


 彼はそう言うと、また強引に私を引き寄せ、自分の胸に私の耳を押し当てた。



「達也の声が聞こえるか? 私に言えないなら、タツヤに言えばいい。お前は、どうしたいんだ?」



 ターク様の胸から、ドキドキと心臓の鳴っている音が聞こえる。まるでグラウンドを十周走った後みたいに、大きくて早い鼓動だった。



 ――なんだか、本当に、達也の心配する声が聞こえてくるみたい……。



 急に力が抜けた私は、ターク様の胸に手を当て、囁くように達也に話しかけた。



「達也……私、魔力タンクにはなりたくないよ……」


「分かっている……心配するな」



 ターク様の長い指が、まるでガラスの置物を扱うように、慎重に私の髪をなでている。なんて心地よくて、気持ちが落ち着くんだろう。



「……まぁ……マリルはまた怒るかもしれないがな……分かっただろ? お前を魔力タンクなんかにすれば、私はタツヤにいびり殺される。自分の中にいる分、タツヤはマリルより厄介だぞ」



 ターク様のついたため息が、私のつむじをくすぐった。確かにそれは、とても厄介だという気がして、私は「なるほど」と返事をした。



「達也……なんて言ってますか?」


「お前を泣かせるなと……」


「そっか……達也、心配ありがとう」



 私がまた、ターク様の胸に向かって話しかけると、彼は私の肩を押し、ふいっと自分から遠ざけた。


 キョトンとする私を見て、彼はまた、深いため息をつく。



「……はぁ、今度はお前に触るなと言っているぞ」


「た、達也……」



 達也の気持ちが、こんなにもターク様を動かしていたなんて、やっぱり少し、呆気にとられてしまう。


 ターク様はずっと、どんな気持ちで私を守ってくれていたのだろう。私が彼を見上げると、彼は真剣な目をして言った。



「……とにかく、お前の所有者が見つかったら、私が交渉して、なんとしてもその契約を破棄させるつもりだ。お前はこれ以上、心配するな」


「でも、ターク様がマリルさんに、怒られたりしませんか?」


「マリルは私の婚約者だ。話せば分かってくれるはずだ」



 キリリとした顔で、「まかせておけ」と言うターク様。本当に、甘えてしまっていいのだろうか。



「ターク様、ありがとうございます」


「あぁ。落ち着いたなら、自分の席に戻って残さずたべろ」



 私はまだ、少しグスグズいう鼻をすすりながら、潰れたパンを頬張った。


 達也が勝手ばかり言って、ターク様を困らせているのが、なんだかとても心苦しい。



 ――どうか、ターク様とマリルさんが、喧嘩になりませんように……。



 まだ少し警戒した顔で、私の様子をチラチラと窺がうターク様を見ながら、私はその時、そんなことを願っていた。



 挿絵(By みてみん)



ゴイムの虐待の記憶に怯える宮子を見て、ターク様は「お前を所有者に返す気はない」と言いますが、自分がここに居ては迷惑になると思い詰める宮子。そんな宮子にターク様は自分の胸の音を聞かせました。


ターク様とマリルさんの幸せを祈る宮子です。


今回で六章は終わりです。七章ではまた新しい展開になっています。まずはターク様、宮子を引き続き部屋に置く事を伝えるため、マリルさんに会いに行きますが……。

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― 新着の感想 ―
タークさま!!! 所有者に返すつもりはないと言質ありがとうございます(>_<)これで不安なことは一つ消えましたね! 達也とのやり取りも和みますね。 達也は宮子ちゃんのナイトですね! それにしても…マリ…
よかった。 あの主人のゴイム扱いとターク様の安眠を考えればこうなりますよね。 すこし気がかりなのはマリル嬢の心労です。 上手く説得できるでしょうか。
[良い点] 宮子だけ簡単に幸せなゴイムに成れるなんて甘い話は、案の定なかったですね。 主人公として不幸体質の彼女は、過酷な運命に巻き込まれていくのでしょうが…… しかしターク様というヒーローが助けてく…
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