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07 ゴイムって何ですか?~本当に達也じゃないの?~

 場所:タークの屋敷(書斎)

 語り:小鳥遊(たかなし)宮子

 *************



 湯船を出た私は、メイドさんが用意してくれた寝巻を着た。淡いピンクのネグリジェだ。


 サイズがあわず、首元が大きく開いているのを少し気にしながら、私はターク様を探して書斎に戻った。


 彼はデスクに向かい、眉間にしわを寄せながら書類を睨んでいる。『邪魔をしてはいけないかな』と思ったけれど、彼は私に気付くと、待っていたかのように立ち上がった。


 白いブラウス姿の彼は、黒い鎧を着ていたときより三倍はまぶしい。


 バスルームでは恥ずかしくて直視できなかったけれど、いまは眩しくて直視できなかった。


 私が目を細めると、「なんだ? 私がまぶしいか?」と、ちょっとナルシストっぽいセリフを吐く彼。



 ――確かにまぶしいですけど、そのセリフ、やばくないですか!?



 幼なじみの達也にそっくりなターク様は、はっきり言って、超が付くイケメンだ。彼もきっと、自分の容姿には自信があるのだろう。


 表情がかたく、達也に比べれば、とっつきにくい印象のターク様。だけど、神秘的な輝きを放つ彼は、どこにいても、間違いなく目立つはずだった。



 ――なんて綺麗なんだろう。神様だって言われたら信じちゃうわ。



 ターク様に治療してもらったとはいえ、まだまだアザだらけの自分が悲しくなって、少し気分が沈む。



「傷むのか……?」



 ターク様は、立ちつくしている私を、書斎入り口近くのソファに座らせた。それはさっき、ターク様に()()を受けたソファだった。


 私の背中を、妙な緊張が走り抜けていく。



「なにか思い出したか?」



 彼は私の隣に座ると、まだ大きな傷のあるおでこに手を触れた。痛がる私を見て、ターク様はニヤリと笑う。



「お前、少しもゴイムらしくないな」


「……ゴイムって、なんですか?」



 思い切って尋ねてみると、ターク様は驚いたように眉を持ちあげた。


「なんだ? 幻術にかかってるのかと思ったら、記憶喪失か? そんなことまで忘れるとはな」



 ――忘れているわけじゃなくて、もともと知らないんですけど……?



 そう思いながらも、「すみません……」と肩を落としてみせる。


 不思議そうに腕組みして、首をかしげるターク様。



「ゴイムはな……」



 そう言いかけた彼は、そのまましばらく言い(よど)んだかと思うと、ふいっと視線を横に投げた。



「……まぁ、忘れたならしばらく忘れておけ」


「えぇ!? そんなこと言わず、教えてください……!」



 横を向いてしまったターク様の顔を、私は必死に覗き込んだ。


 私があんな痛い目に遭ったのは、きっと、自分が()()()になってしまったからだ。


 ゴイムがなんなのか、わからないままでは、この世界で安心して、過ごすことはできない。


 だけど彼は、「面倒だ」という顔をして、どんどん横を向いてしまう。



「今日は疲れただろ。さっさと寝よう」


「でも……」



 ――どうしてはぐらかすのかな?



 納得がいかず、じとっとした目でターク様を見ていると、彼はひょいっと私を抱きあげた。



「私が言わなくても、一緒に寝ていればそのうち思い出すはずだ」


「え? 一緒に……!?」



 慌てる私を抱えたまま、ターク様はベッドルームに移動し、私をそっとベッドに降ろした。


 金の装飾が見事な天蓋(てんがい)付きの大きなベッドに、細かな刺繍が施された鮮やかな赤いシーツが目に痛い。


 さっきバスルームに向かうときにも、チラリと見て思っていたけれど、あらためてよく見るとこれは……。



 ――派手すぎる……!



 こんな豪華ベッドで、キラキラのターク様と一緒になんて、全然眠れる気がしなかった。


 うえを向いて唖然としている私の隣に、ターク様が横になった。



「私の身体からは常に癒しの光が出ている。魔力は消費しないから遠慮は要らない」



 そう言って、ぐいっと私を引き寄せたかと思うと、私の腫れたおでこにそっと唇を付ける。



「ひゃ……ターク様……」


「治療中だ。ジタバタするな」


「ひゃい……」



 全身が癒しの光に包まれると、とにかく眩しくてくすぐったい。



 ――こんな癒しの光が、絶えず身体からあふれ出ているんだもの。ターク様は本当に不死身なのかも……。


 ――だけど、いくら使用人がケガさせたからって、初対面の私にどうしてここまで?



 額に熱い吐息を感じながら、そんなことを考えていた私は、ふと目の前にある、ターク様の首に目をやった。


 鎖骨(さこつ)の少しうえの(くぼ)みに、ハート型の見慣れたホクロがある。


 幼いころから何度も見たそれに、私の目線は釘付けになった。



「このホクロは……!」



 思わす手を伸ばし、指先でそれを突いてみる。触ると消えたりするのかと思ったけれど、それは確かにそこにあった。


 突然私に首筋を突かれたターク様は、ビクッとして首をおさえると、顔を真っ赤にして後退りした。



「わ、なんだ? なにしてる?」


「やっぱり、あなた、達也でしょ!? どうしてずっと知らん顔してるの?」


「はぁ……?」



 ターク様は少し目を丸くしていたけれど、すぐにムッとした顔をして私を睨んだ。



「私はタークだと言ったはずだ」


「だけど……ホクロまで同じだなんて」


「それでも、そんなヤツは知らない」



 ターク様の苛立った口調に、またガッカリしてしまった私。


 小さな声で「ごめんなさい」と謝ると、ターク様は「うっ……」と小さく呻いて、苦しそうに顔を歪めた。



「あの……大丈夫ですか?」


「く……。あぁ、もう寝よう」



 優しい光の漏れる手が、私の頭をポンポンと撫でる。



「はい、おやすみなさい、ターク様」


「そうだ。それでいい」



 私が名前を呼ぶと、彼は満足したように、ほんの少しだけ微笑んだ。



 ――笑うとますます達也っぽいわ。なんだかホッとする。



 一日中驚きすぎて疲れていた私は、ゆっくりと目を閉じ、そのまま深い眠りに落ちた。



ゴイムって何ですか?ずっと気になっていたことを聞いてみたものの、ターク様にはぐらかされてしまう宮子。ド派手なベッドで治療を受けるうち、ターク様に達也と全く同じホクロがあることに気付きます。達也とターク様は本当に別人なのか。疑問に思いつつも深く聞けない宮子。


次回宮子はターク様の優しさに気付きます。


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 私が眩しいか?という台詞は、決め台詞とかにもなりそうで笑いました。 ゴイム関連は気になるところですが、ターク様が放置している当たり即時実害はないのでしょう。 しかし宮子の過去や事情を探る…
[一言] ゴイムってなんでしょう? 気になって夜しか寝られません!
2023/05/08 20:00 退会済み
管理
[良い点] ゴイムってなんですかー(;ω;)!! 達也様、じゃなかった、ターク様! お預けはひどいですー!! なのにキュンとさせる貴方は罪深いですターク様! [一言] むずキュン展開にいつも以上に語…
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