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05 ターク様の治療。~全く、仕方ないな~[挿絵あり]

 場所:タークの屋敷(書斎)

 語り:小鳥遊(たかなし)宮子

 *************



 不死身の彼……ターク様に抱きあげられた私は、彼の書斎と思われる場所に運ばれた。そこは、さっきの牢屋とはうって変わって、天井が高く、広々とした立派な部屋だった。



「アンナ。彼女に着替えを用意してくれ」



 アンナと呼ばれた女性は、どうやらメイドさんのようだ。フリフリした黒いワンピースに、それらしい白いエプロンをつけている。頭に揺れるフワフワのブリムも可愛いらしい。


 だけど、生真面目にしっかり結ばれた薄紫の三つ編みが、どこか少し、近づきがたい雰囲気を醸し出していた。


 マントを被ったボロ布のような私を、困惑顔で眺める彼女。だれだって、こんな状態の人を見れば、困惑くらいするだろう。


 自分の顔面がひどく腫れているらしいことは、見なくてもわかる。そのうえ全身血まみれで、マントからはみ出た腕には、黒々とした怪しい刻印が刻まれているのだ。



「医務室へ運ばせましょうか?」と、彼女が言うと、ターク様は首を横にふった。


「あそこに治癒魔導師はいない。彼女はここで治療する」


「……では、バスルームにご用意致します」


 アンナさんは、頭をさげると、いそいそと部屋を出ていった。ターク様の腕のなかで、不思議な光に包まれていた私は、見た目のひどさの割りには、心地よい感覚だった。頭がぼーっとしているせいか、痛みをあまり感じない。


 ――眩しいしくすぐったい……。やっぱり私、もう死んでるのかも……。


 そんなことを考えていると、「降ろすぞ」と突然ソファに降ろされた。途端に全身に激痛が蘇り、油断していた私は「う、あぁ……!」と、うなり声をあげた。



 ――痛い! 痛い! 全身痛い!



 さっきまで夢見心地だったのがウソのように、身体中が地獄のように痛い。それはもう、指先ひとつ動かせないほどの痛みだった。私はそれ以上うなることもできないまま、目の前の彼を期待を込めて見詰めた。



 ――お願いします、さっきの魔法で、パパっと治してもらえませんか……?



 この最悪の日に、私の希望はこの人だけだ。


 見知らぬ場所に飛ばされ、出会った人たちは、だれもかれも皆ひどかった。最初から死体扱いされ、ゴイムとかいう謎の言葉で(さげす)まれ、問答無用で痛めつけられて。



 ――だけど、あなただけは、私を助けてくれた。


 ――少し来るのが遅かったけど、あなたこそ、私のヒーローです。



 ターク様は「あいつら……」と、つぶやくと、無表情のまま私に被せていたマントをまくった。


 血まみれのワンピースはナイフで裂かれ、ぼろぼろにもほどがある状態だった。


「ひぇっ」と思うものの、身体中が痛くて大した反応もできない。


裂傷(れっしょう)多数……打撲に……骨折……?」


 彼は、ぶつぶつ言いながらケガの様子を調べると、落胆したように大きなため息をついた。



「さっき治療したばかりなのに、なんなんだこれは……。ゴイムなんて……これだから……」



 いらだった様子の彼を見上げて、私はビクッと身をちぢめた。



 ――せっかく治してもらったのに、さっきよりひどいことになってしまったから、怒ってるのかな?


 ――私だって一応、申し訳ないとは思ってるんですけど……。


 ――だけど、あんな大男相手では、私にはどうしようもなかったんです……。



「ごめんなさい」と、(かす)れた声で謝る私を見て、「(あわ)れだな」と、つぶやいた彼。



「骨折だけでも先に治すか」



 そう言って、私の折れた(あし)に両手をかざすと、さっきと同じように「ヒール」と、唱えた。


 彼の手から緑の光が溢れだし、みるみる骨折が治っていく。



 ――おお! ありがとうございます!



 だけど、緑の光はすぐに消えてしまった。



「あー。……もう魔力がつきた」



 まだまだ色々とひどい状態の私を前に、ため息まじりにそう呟いたターク様。すがるように自分を見上げている私から目を逸らし、少し困った顔をした。



「まったく、仕方ないな」



 彼は着ていた鎧や肩当てを外し、黒いシャツ一枚になると、無言でソファにあがってきた。


 鎧を脱いだ彼は、急に輝きが増し、あまりの眩しさに、目を細めずにはいられない。


 そのままゆっくり、のそのそと、ターク様は私に覆い被さった。私はただただ、ポカンとしながらそれを眺めていた。



 ――いったいなにしてるの……? 痛いんですけど!?



 今日はいろいろと、おかしなことがあったけれど、今の状況が、一番よくわからない。


 ギュッと目を閉じ耐えていると、ターク様は私の両脇に(ひじ)をついた。


 そして、血まみれの傷口に唇をつけ、「はぁ」と当てつけるように吐息を吹きかける。


 その吐息と一緒に、濃い金の光が口から吐き出され、肌に触れるとすうっと体に入り込んだ。



「さっきのは、お前に言ったわけじゃないぞ……」



 耳元で、(ささや)かれたその声が、悲しげに(ひび)く。だけど、なんのことを言われているのか、私にはよくわからなかった。


 「え?」と声を上げてみたけれど、彼はおし黙ったまま、ゆっくり、ゆっくりと私に密着していった。


 ターク様の身体から、あふれ出す不思議な光が、彼が私に触れている場所から、どんどん身体に入り込んでくる。それは、ヒールのときの暖かく穏やかな光とは違って、ゾクゾクソワソワとして、本当にくすぐったかった。


 サワサワと光が肌に当たる音が聞こえる。


 彼の熱い唇が肌に触れるたび、思わず「ひゃん……」と小さな声がもれた。あまりにも恥ずかしくて、逃げ出したくなってくる。


 力の入らない腕でその肩を押しかえしてみたけれど、彼の身体は、ピクリともしない。



「治療中だ。じっとしていろ。その肩、外れてるぞ」


 ――これが、治療……?



 そっと目を開いてみると、達也にそっくりな顔が目の前にあった。


 見慣れていても、ついつい見惚(みほ)れてしまうほどの端正(たんせい)な顔立ち。


 キリリと整った眉、切れ長の大きな目には、輪郭(りんかく)のはっきりとした黒い瞳。形のよい鼻と唇、きめ細かい白い肌、少しクセのある黒くてフワフワの髪。なにもかもが達也と同じ。


 だけど、いつもニコニコフワフワしていた達也とは、やっぱりずいぶんと雰囲気が違う。凛々(りり)しくて、でもどこか少し悲しそうで……。


 ターク様は、パックリと開いた私のおでこの傷を睨むと、「(らち)があかないな」と、(つぶや)いた。そして、また一つ、唸るように息を吐く。



「もういい。口を開けろ」



 そう言うと彼は、その光る指先で、戸惑う私の(あご)をぐいっと押し下げた。そして、否応(ひおう)なく開いた口を躊躇(ちゅうちょ)なく唇でふさぐ。


 彼の口から溢れ出した光が、束になって私に注ぎ込まれた。



 ――あーあ……。もう、はじめてなのに……。



 赤く腫れあがった顔が、さらに赤くなって、頭がぼーっとした。


 こんなズタボロ状態で、突然唇を(うば)われたにも関わらず、抵抗どころか反応すら出来ない。あまりのゾクゾクに、頭が(しび)れてしまったようだ。


 だけどしだいに、ズキズキとした体中の(うず)きが消え、傷口がゆっくり、本当にゆっくりと小さくなっていく。



 ――きっと、不死身の彼のこの光は、癒しの光なんだわ。


 ――ということはこれ、人工呼吸的なやつね。つまり、ノーカンだわ!



 とは思うものの、あまりにも長いキスが、息継(いきつ)ぎを挟みながら、何度も何度もふってくると、身体がだんだん熱くなってくる。



 ――さすがにノーカンじゃないかも……。もう無理。なにも考えられない……。



 私はそのまま、気を失ったように眠ってしまった。



 挿絵(By みてみん)


 ついさっきヒールで治療したはずの宮子が、またズタボロになっていることに、少し苛立つターク様。


 彼がついイライラしてしまったのには、とある深い事情がありました。初対面の宮子に、とんでもない治療を施した彼の真意とは……?


 次回、宮子はターク様にお風呂を覗かれます!


 挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 哀れな宮子はとんでもなく苦難な序盤ですね。 ターク様がいなければどうなっていたことやら。 彼がいることで精神的にも安定していることも、救われる要素です。 しかし彼もゴイム差別主義者なので…
[良い点] ボロボロの宮子、次にぽちっとしようとしたら後書きに次回予告が(吃驚)……いいですね~この次回予告。勉強になります。 [一言] まだまだ読者には伏せてる部分が多く、謎にしている部分が多い回だ…
2022/07/19 18:04 退会済み
管理
[良い点] 宮子たん(;ω;)ううう ターク様、心も体もボロボロな宮子たんを癒やしてあげてくださいね(´;ω;`) ……と思ったら、、 ちゃんとした説明もなしに治療とはいえ、宮子たんに手を出したらアカ…
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