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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第1章 不死身の大剣士

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12 戦火のポルール。~あの日見た最後の笑顔~

 場所:ポルール

 語り:ターク・メルローズ

 *************



 五年前、当時十二歳だった私、ターク・メルローズは、鉱山の街ポルールに来ていた。


 コルク色の岩山に囲まれたこの町は、国一番の鉱石の産出量を誇り、労働者たちで賑わっている。


 冬は極寒になるきわめて過酷な環境で、とても暮らしやすいとはいえない場所だ。しかし、ここの人々は、少しもくじける様子がなかった。


 鉱夫やその家族はもちろん、たくさんの商売人たちも、各地からどんどん集まってくる。


 この街の活気に満ちた様子は、子供だった私の目にも、とても魅力的に映った。



      △



 魔道研究家で、道具職人でもある私の父は、元々は王都にある屋敷で、私や母と一緒に暮らしていた。しかし、ここ数年は、ずっと一人、鉱山に入り浸っている。


 昔から材料調達のため、頻繁にこの町を訪れてはいたのだが、最近は本当に、王都の屋敷に戻らなかった。


 私がこの街に来たのは、ほぼ二年ぶりだっただろうか。父に呼び出された私は、王都から転送ゲートを抜け、街の東の端に出た。


 ここから岩山に刻まれた急な階段を少し登っていくと、斜面に建てられた粗末(そまつ)な小屋に、父はいた。



「おお、ターク、よく来たな!」



 久々に会った父は、白い歯を見せ、笑顔で私を迎えてくれた。しかし、その印象は、王都にいたころとは、大きく変わっている。


 王都では研究用の白い白衣姿でいることが多かった父が、その日はまるで、鉱夫(こうふ)のように全身真っ黒だったのだ。


「父さん、仕事ははかどっていますか? 父さんがなかなか戻らないと、母さんが寂しがっていますよ」


「あぁ、もうすぐだ。もうすぐ帰るよ、ターク」


「よかった。母さんが喜びます。ところで、僕に見せたいものってなんですか?」


「あぁ、いろいろあるぞ。ついてこい。まずは街を見て回ろう。それから砦に登って、上から湖を見るんだ。坑道も見せてやる。プレゼントもあるぞ。だが、お楽しみは一番最後だ」



      △



 鉱山の街を歩き回ると、たくさんの精錬所(せいれんじょ)や、武器や防具職人たちの店が出ていた。父さんは防具店に入ると、そこの店主に声をかけた。



「頼んでいたものはできているか?」


「おぉ! いらっしゃいませ。その坊ちゃんが話に聞いた自慢の息子さんですね」



 父さんは私に、鎧の胸当てと肩当てを用意してくれていた。黒くてシンプルなデザインだが、金の魔道具が埋め込まれている。複雑に組み立てられた歯車が静かに回っていて、父が作ったものだとすぐにわかった。


「ターク、お前は不死身だが弱点も多い。これを着ていろ。成長にあわせてサイズも変えられる。長く使えるぞ」


 父さんがくれたこの鎧は、私の身体からあふれる癒しの加護を吸収し、不意な魔法攻撃を跳ね返すことができるものだった。


「癒しの加護では治らない状態異常攻撃を防げるからな」


「ありがとうございます、父さん」



      △



 それから私たちは、ポルールの北にある第一砦に登った。冬が近づき、冷たい空気は澄み渡って、どこまでも遠くまでよく見える。


 隣国クラスタルとの境界でもあるこの砦からは、広々としたルカラ平原が一望できた。


 緑の短い草が風にサワサワと音をたて、隣国の街へとつながる茶色い道が、ずっと向こうまでつづいている。


 そして、青々とした森の手前に、キラキラと美しく輝く大きな湖が見えた。



「どうだ? ポルールは。小さい街だが活気があるだろう。ここから見る湖は最高だと思わないか? 本格的な冬がくる前にお前に見せておきたかったんだ」


 私の頭を撫でながら、やさしい微笑みを浮かべ、いつもよりよく話す父。


 いま思えばこれが、父が私に向けた最後の笑顔だった。



      △



「父さん、なにか黒いものが湖からあふれてきます」



 私たちが第一砦に登り、しばらくしたころ、私はその異変に気づいた。


 突然もくもくと黒いモヤを吐き出しはじめたルカラ湖が、みるみるうちに茶色い泥水に変わってしまったのだ。泥は湖からあふれ出て、緑の草原を沼地に変えていく。



「なんだ? いったい、どうなってる……!?」


「父さん……! すごく大きい魔物が、モヤのなかからどんどん湧いてます!」



 真っ黒な雲のようなモヤのなかから、巨大な魔獣が次々に姿を現し、一斉に第一砦に向かって歩きはじめた。



「なんて大きさだ……。体長六メートルはありそうだな……。皆を非難させなくては」


「僕も手伝います!」


「ダメだターク、お前は転送ゲートに向かえ! 王都へ帰ってイーヴに知らせてこい」


「わ、わかりました」



 皆が恐怖に震え逃げまどうなか、私は父に言われるまま王都に帰り、剣の師匠であるイーヴ先生を呼びに走った。子供だった私には、そのとき、それ以上にできることがなかった。


 そして、いまにつづく、ポルールの戦いが始まったのだった。



 父親に呼ばれポルールに出向いた十二歳のターク様は、久しぶりに会ったお父さんと、思い出深いひと時を過ごします。


 ターク様の弱点をカバーする鎧を用意してくれる優しいお父さん。しかし、突然起こった異変により、ポルールに危機が迫ります。


 次回からはいよいよ第二章になります。ターク様の部屋で退屈に苦しむ宮子のお話です。


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] ターク様の父は研究者でしたか。 昔からしっかりしているターク様は昔から不死身でのご様子。 キラキラもそうですかね? という事はターク様と達也は別人。 色々複雑な事情でしょうが、ひとまずそ…
[一言] 花車様こんにちは! ターク様の過去。 ポルールでの父との思い出ときっと悲劇がある事でしょうか? そして第一章お疲れ様です! 引き続き楽しく拝読させていただきますね(o^-^o)
[良い点] 回想話、黒い鎧のルーツいいですね~、あっと魔獣の出現……次話が気になります(^^♪ 
2022/07/27 18:14 退会済み
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