魅力的な食べ物
奇妙な世界へ…
私は坂原芳雄。『株式会社サカハライート』の社長だ。
私には我社の命運を賭けた悩みがある。それは新しい商品作りだ。我社はレトルト食品に冷凍食品、更に調味料まで作っている。しかし、我社の食品は売れないのだ。それは何故か?それは私も理解していた。それはもう既に似たような食品が出ているからだ。そして、食品が売れないおかげで、今はまだギリギリ黒字だが、このままでは赤字一直線だ。私はいつもそんな事を考えていた。
ある日の事、私は例の事を考えながら人気の無い道を歩いていた。その時だった。目の前に紫のだいたい30センチの大きさの球体が落ちて来たのだ。
「うわっ!」
驚いた私は、うっかり尻もちをついてしまった。しかし、それ以上に驚くことがあった。それは、その球体からいい匂いがするのだ。例えるならば、カレーやフルーツ、焼肉等の匂いが別々に匂っていた。私は辺りを見回し、それをエコバッグに入れた。人に聞かれた時はスイカといえばいいだろう。
私は家につき、テーブルに球体を出した。ちょうど妻の恵と息子の雄馬は実家に行っているのでいない。それは何を意味するか?それはこれを自分だけで味わえるのだ。
私は試しに、それを舐めた。なかなか美味しい味だ。それは文で表現できない様な味だった。私はナイフを使い、一部を小さく切った。そして、それを口に入れた。味は勿論、食感はパリパリしているようで、トロトロしているようでジュワ~としているようで、まぁ要は色んな感じだ。温度の方は熱くもなく冷たくもない。いわゆる普通だった。
私はまた球体を見た。私は驚いた。なんと、切った所が元に戻っていたのだ。そう、この球体、いや、食材は、無限に食べれるのだ。勿論腹も膨れる。
私は画期的な事を思いついた。これを食品化すればいいのだ。
次の日、私は球体の一部をパウダー化した物を会社の開発部に持っていった。
「梅田、いい商品が出来たぞ!」
「わぁっ!何ですか、社長。急にいい商品だなんて」
この男は梅田徹。開発部の部長だ。
「フフ、これを見ろ」
私はバックからこしょうの入れ物に入ったパウダー化した物を出した。
「何ですか、それ?」
「まぁまぁ、まずは何も言わずに舐めてみてくれ」
私はパウダー化したそれを梅田の手のひらにかけた。
「こんな紫の物体、大丈夫ですかね?」
「なぁに、大丈夫だ。私が既に舐めたからな」
私は安全さを表すかの様に胸を叩いた。
「で、では…」
梅田は手のひらにのったそれを一口舐めた。
「う、うまい!」
「だろう!」
「こ、これは商品間違いないですね!」
「あぁ、コイツで有名大企業の仲間入りだ!」
そして、我社が売り出した新商品、『魔法の粉 ミリョー』は、すぐに売れ始めた。レビューでは、『うまい!コレはそのままでも、食べ物にかけてもうますぎ!』『おいしすぎて、涙が出ました!』『コイツはトブぞぉ!』と、高評価の嵐だった。
そして、最終的には、他の食品会社が、コイツを欲しがるほどだった。しかし、私はそれを他の会社に売ろうしなかった。中には数十億で買い取ろうとした者もいた。勿論それも断った。何せ、我社の稼ぎ頭を他の所に渡したら、我社は赤字になってしまうのかもしれない。
こうして、株式会社サカハライートは、有名大企業の仲間入りとなった。
ある日の事、私は少しホコリがかぶった球体を拭いていた。
「ただいま~」
「おぉ、お帰り、恵」
妻の恵が買い物から帰ってきた。
「ん、また拭いてるの、それ?」
「あぁ、そうだな。コイツは稼ぎ頭だからな、ホコリが被ってたら価値が下がるし、会社の評価も下がるからな」
「そんなもんですか」
「まぁ、そ…うだ…な…」
その瞬間、背中に痛みが走った。何が起こったのか私は後ろを向いた。なんと背中には包丁が刺さっていた。その後ろには恵がいた。
「め、恵ぃ…」
「悪いわね、アナタ、他の会社がその球体が欲しがってるのよ。まぁ、寝返るのも仕方ないわよ。なぜなら、100億なんて大金、そんなに積まれたら私も裏切るわよ」
意識が途切れるその刹那。私はこう思った。
(あぁ、最期までコイツと一緒にいれて良かったよ…)
そして、私はそのまま逝った。
数カ月後、食品会社メイドイート㈱は、新商品『謎の粉 クーリョーミ』が発売された。しかし、後にこの商品もとい、ミリョーに、麻薬と同じ成分が含まれている事がわかり、発売が禁止された。しかし、ある意味での合法麻薬であるこの商品が禁止となると、一部の人は、当たり前かのようにブラックゾーンの沼に入った。
とある路地裏。手が少し震えている梅田がいた。梅田は何か欲しそうだ。すると、黒パーカーを着た売人らしき男が現れた。
「よう」
「ぐ…うるせぇ!はやく…はやくくれぇ!」
「はいはい。『ミリョー』、百グラム千円ね」
「あぁ…これだよ、これなんだよ…コイツを吸ったら、気持ちいいのなんの」
梅田は何か嬉しそうだった。
こうして、世界は『ミリョー』の魅力に依存し、中にはこれの為に戦争を起こす国もあった。そして、最終的に、全ての国民を巻き込む核が発射され、人類は全ていなくなった。地球の地は、全て灰となった。
そんな地球を見ている宇宙人達が乗ったUFOがいた。彼らはドディマット星人。そして、あの球体を落とした張本人でもあった。
「ただいま、地球人が滅びました」
調査隊の一人が長の男に言った。
「うむ…コレでまた我が国が支配する星が一つ増えたな」
「えぇ、やっぱり凄いですね。これは」
調査隊の一人が地球から回収した球体、ゼウス・イートを眺めていた。
「ふむ、やっぱり、コイツは凄いぞ、まさか、他の星の人間がコイツを使うと、その種族は滅びるのだからな」
「えぇ、そうですね」
「では、次の星へ行くぞ」
そう言うと、彼らが乗ったUFOは、何処か彼方に飛んでいった。
読んでいただき、ありがとうございました……