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出会い ①


『私は大丈夫です・・・だって、あなたが一緒ですから』


 夢・・・。

 広い草原の上に二人が座り込んでいる。俺はそれをただ眺めている。

 メリスと男は手を重ね合い互いに思い出話に耽っている。


 初めて出会ったのが彼女の出身であるエルフの村、それを覆う森に男が迷子になっていた事。

 男が森に来た目的が、その森の守護神に出会う事。初めて出会った時のメリスは好戦的で男をよく思って無かった。だが、村長からの指示で渋々協力する事になった事。


 それからの二人はこの世界を救う為にと冒険を始めた。


 多くの事を学びながら、多くの出来事があり、多くの仲間も出来た。

 その度に二人の距離が縮んでいったのは必然だった。


(なんで・・・こんなものを、俺に見せる)


 最初の頃は何か映画を見せられている気分で見ていた。

 それからメリスというエルフに惹かれて行った。


 けれど、今の俺にはもう・・・そうは見えなくなっていた。


『そうですか、ならこれから楽しみです・・・あなたが言っていた事全部、たくさんしてみたいです』


 過去の話を終えたら次は未来の話だった。

 この戦いが終わった後、これがしたいあれがしたい。

 男が経験した事、経験してみたい事。それを全てメリスと共にやりたい、二人で出来ることをもっとやっていきたい。


 エルフの村で殆どの人生を過ごしていたメリスにとってはどの提案も素直に受け取っていた。全てが楽しそうだと、やってみたいと頷いていた。


 男が一緒なら、きっと何をしても楽しいに決まっている。

 それは男も一緒だった。メリスと一緒なら何でも楽しく思えるに決まっていると。


 お互いがお互いが居たからここまで戦って来れた。


「っ!?」


 夢の中での白昼夢が過ぎった。

 それは今までのブツ切りのような物じゃなかった。

 まるで男の戦闘総集編のような物が一瞬で過ぎった。いずれもこの世界で戦ったのだろう物だった。

 当然、それにはメリスの姿もあり、仲間達の姿もあった。


 みな、男とメリスと共に巨大な敵と戦っていた。時には同じ人間同士とも戦っていた。

 まるでその男が主人公のように映るそれに何か込み上げるモノがあった。


 映る物は男仲間とその主人公が仲良くしている物。

 時には笑い合い、時には助け合い、時には喧嘩をしている。

 人を殺してしまった事に悩んだ主人公に喝を入れたり、迷う主人公の悩みを聞き一緒に悩んでくれていたりと。


 俺はその姿を光景を見て・・・見て。


「なん・・・で」


 涙が流れた。

 重なってしまった。


 馬鹿みたいに一緒に騒ぐ仲間達。

 しょうも無い事で仲間と喧嘩したり。

 

 ただ、一緒に飯を食っていたり。


 そして、笑い合ったり・・・。


「ぁ・・ぁぁあ・・・!!」


 男の隣には、笑い合っている仲間がいる。


 俺は、首を横に向けた。

 何も無い、誰も居ない虚空をただ見つめた。

 本当なら・・・本当ならここには居たはず。居て欲しいと思える人間はいるのに。

 主人公の男以上に、思える奴はいるのに。


 なんで、こんな事に・・・。


 なんで・・・!!


「なんでこんな物見せるんだ!!!!」


 俺は叫んだ。

 男に詰め寄り、襟を掴んだ。

 触れられた。けれど男はこちらに目線を送る事はなかった。


「何の説明も無くて! 何の意味があるんだよ!! 教えろよ! お前なんだろこれを見せてるの!! これのおかげで滅茶苦茶だ!!ふざけんなよ・・・」


 ただ怒り狂っていた。

 自分が子供のようにただ叫んでいるだけなのはわかってる。


「元に戻せよ! なぁ! 何をすれば戻れるんだ!? どうすればいいんだ!!?どうすれば・・どうすれば!!」


 駄々を捏ねるように追い縋った。

 言葉が返ってくることは無いまま、ただ俺は涙を流しながら叫んでいた。


「何すれば・・いいん・・だよ!! 凛上や澄原・・・透達、みんなの所に・・何すれば・・・戻してくれんだよ・・!」


 届くことの無い。

 誰も留めてくれるはず無い。


「頼むよ! 頼むって・・・!!」


 ゆっくり崩れ落ち、俺は両手を地面に付け泣き続ける。

 もう何をしていいのかもわからない。


 多くの人々や仲間達を導いてきた男に俺はただ頼み続けた。

 一人だ、今お前の目の前に居る俺を導いてくれよ。

 何で俺は仲間だと思っていた人達から白い目で見られないといけない、指を差されないといけなかったんだ。


 教えてくれ。

 お願いだから、教えてくれ。


『きっと、これがあなたの言う"必然"だったのですね』


 隣いるメリスが口を開いた。


 必然。

 自分がハーフエルフとして生まれた事を不幸に思い長い日を生きてきた。

 エルフからも迫害を受け、人間からも忌み嫌われる日々。誰も信用出来ない、一人で生きていく事が自分の幸せ。他人という存在を受け入れてしまうと必ず不幸を呼んでしまう。

 心を閉ざし干渉する事を拒む事で、自分と相手を守ってきた。


 けれど、それは違った。


『みんなや、あなたとこうやって笑い合う為に生まれた、ハーフエルフだったからこうして出会えたんだって』


 メリスが満面の笑みを浮かべていた。

 吸い込まれるようにその表情に見入った。


 必然。

 自分がこうしていられるのは必然が巻き起こした事だと。理解できない期間は長かった、けれどそれがわかり解放された。

 

 ようやく一歩を踏み出せた、と。


 そう、彼女は笑みを浮かべ続けた。


『これからも、よろしくね―――』












 最後に男の名前を呼んだ。

 けれど、それは聞こえなかった。


 メリスの感謝の言葉と同時に、夢が覚めていったからだった・・・。




「・・・ぁ」


 痛い。


 ありとあらゆるモノが痛い。


「おっ、起きた」


 声が聞こえた。誰かが居る。

 それを確認しようと目をゆっくりと開ける。


 目が合った。

 幼い顔立ちの綺麗な銀髪が揺れ淡く青い瞳が俺を覗き込んでいた。


 人間・・・じゃないのか。

 何故か瞬間的にそう思った。

 エルフのように耳が尖ってない普通の人間と似た形をしている。


 まさか、ハーフエルフなのか・・・。

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