裏切り ②
「奴を捕えろ!!! 目的を吐かせる!!」
本倉の号令で一気にクラスメイト達の表情が一変した。
モンスターと対峙していた時と同じように戦闘態勢に入った。
「ふざけやがってー!!!」
「お前のせいで!!」
「畜生がぁ!!!」
俺へ向けられた言葉が飛び交う。
つい先日まで笑顔で修学旅行を楽しんでいたはずのクラスメイト達が豹変した。
本当に・・・みんなをここへ転移させてしまったのか?
きっと司教の連中が召喚したからというのは間違い無い。だがそれで選ばれたのが俺達である必要性は皆無だ。
俺という人間が居たからなのか? あの訳のわからない夢を見ていたからなのか? この世界を知っているからなのか。だとしたら俺だけ転移されるはずなのになんで。
今も俺に刻印の力を発動して駆け寄って来るみんなが考えているのは単純な事だ。
本倉のシナリオ。それは簡単な物だ。
今この場に立っている刻越藍に似た存在は、偽物だと。
そして偽物が自分達を貶めてるいると。
「待てくれ・・・話しを聞いてくれ!」
「偽物が!! 本物の刻越も殺したんだろ!」
「なんでそうなる!」
「みんなにはある刻印が無いのが、その証拠だろ!!」
くそっ! 次々と攻撃を仕掛けてくる。
さっきまでモンスターに向けられていた光の剣達が何度も俺に向けて振られ続ける。
魔法の補助で体を軽くして避けれる時は避け、障壁を作って防御も混ぜながら全員の攻撃を防いでいる。
けれど、駄目だ。
こっちは魔力を消費し続けて対応している。魔力の底が体感できるというのに、刃を振るい続けるみんなは疲れを全く感じさせていない。
「なっ!?」
攻撃が一瞬だけ止んだと思った瞬間俺の足元が揺れる。
「捕まえた!!」
地面から巨大な岩の手が現れ逃げ出そうとする俺の全身を握り潰す様に捕縛しようとした。
そしてまた白昼夢が起きた。
今の俺と同じように男が両手が使えず捕縛されていた。
けれど、すぐに魔法を捕縛している物体にぶつけ対応した。
一瞬でも自らを捕縛する力を弱める魔法だった。それを使い脱出した。
今見たことをすれば抜けられる。
あの男の真似をすれば・・・真似をすれば、また。
「高橋君の・・・仇!!」
高橋・・・。一番最初に死んだ男子。死体をゴブリンに貪られた男子。
岩の手を操っている女子は涙を流しながら俺を睨み付けていた。
仇・・・あの子は確か。
高橋の・・・彼女。
「ぐあぁあああああああああああああ!!!!!」
ただ俺は叫んだ。されるがままに痛みを声に乗せた。
それでも高橋の彼女が刻印の力を弱めることは無い。それどころかメキメキと音を鳴らしながら力が増していく。
仇。
その言葉だけ十二分に伝わった。
俺を殺そうとしている事が。彼氏の仇であると思い込んでいる俺を。
「待って! このままじゃ藍君が死んじゃうよ!! 将弘君止めて!」
「大丈夫さ凛上、そろそろ根を上げて白状するはずさ僕を信じろよ。もっとだ!もっと力を込めろ! あの程度の演技、僕を騙せると思うなよ」
握り締められている俺に本倉が近付く。
なんで・・・コイツ。
さっきもそうだ。
なんでコイツ・・・。
「ふふふふっ・・へへ!」
笑っているんだ。こいつは、そんな奴だったのか。
俺は、こいつの事を。本倉の事を・・・。
知らなかっただけ、ということなのか。
「ぐぅううぅう・・!!!」
なんで・・・俺は。
泣いてるんだ。
なんで俺は悲しんでるんだ。
「泣いてるのか? 泣きたいのは・・こっちなんだよ!!」
「がはぁっ!!」
何かが顔面を殴り付けた。
吹き飛ばされた時と同じ衝撃が直撃した。
オークに吹き飛ばされた時と同じく口から血を噴き出してしまう。
「さっさと吐けよ、おい!! ごら!!」
何発も何発も。
本倉は不敵な笑みを浮かべている。
泣きたいのはこっちだと言っておきながら、他のみんなには見えないように、俺にだけ見えるように笑みを浮かべていた。
それでも・・・俺は。
「はな・・し・を・・聞い・」
このままじゃあ何も変わらない。
その為にも、俺は口を動かした。
「ふ・・・降ろせ」
俺の言葉が届いた。
握られていた手がゆっくりと解ける。だが俺はそのまま地面へとうつ伏せに倒れ込んだ。もう本当に立ち上がる気力さえなくなっていた。
体がもう限界を超えていると、もう自分の身体なのかどうかすらわからない程に感覚が消えている。
それでも、口は動かそうと意識だけは保つように集中させた。
誤解。
それを・・・解かないと、前には進まない。
だから、だから・・・俺は必至に言葉を考えた。
どう話せば本倉や他のみんなに伝わるか。
しっかりと言葉を選んで―――。
「刻越。お前の話なんて聞く気なんてないんだよ、今も昔も。な」
本倉が俺にだけ聞こえる小声で喋った。
俺の耳元で喋った。
笑みを浮かべつつ。
俺に、語った。
「―――っ」
全てが真っ白になった。
白昼夢じゃない。頭の中、脳、見るモノ、聞こえるモノ、感じるモノ、その全てが真っ白になった。
俺は意識を飛ばしそうになっていた。
そして悟った。
コイツは。
本倉将弘という男は・・・俺を・・・。
「ぅうぅ・・うぅうあぁあああああああ!!!!!!」
獣のように、ただ叫ぶ事しか今の俺には出来なかった・・・。