裏切り ①
手を払われた直後、俺は蹴り飛ばされた。
当然モンスターにではない。
手を差し伸ばしたはずの本倉にだ。
「な、なん・・で」
「はぁー? しらばっくれんじゃねーよ、偽物」
「に、偽物・・・って、お前急に何言ってるんだよ!!」
本倉の言っている意味の理解が一切出来なかった。俺の脳が止まってるのかと疑いたくなる。
頭が上手く動かないならと、さっきまでピクリともしなかった体に力を入れる。
ヨロヨロと酔っぱらいのように千鳥足ではあるが何とか立ち上がる事は出来たが。
「本倉! お前何してんだよ!」
「安堂!! お前なら何となくわかるんじゃないのか!? 僕が言っている意味を!」
本倉の言葉に透は言葉を詰まらせた。
本倉の言っている事ってどうゆうことだよ、何がどうなれば俺が偽物なんて言葉が出るんだ。
駄目だ、疲労からか全く頭が回らない。
「おい偽物、お前さ。僕達の力の事、なんで隠してたんだよ」
「隠してた!? ふざけんな、そんなの知るわけ」
「じゃあなんでモンスターの事は知ってたんだ? 魔法とやらも、なんでお前は知ってたんだよ?」
「それは・・・!!」
俺はこの瞬間ゾッとした。
「おかしいよな? モンスターは知ってる、魔法は知ってる。けどこんな大事な力の事は知らないってか? なんで一人だけそんなにボロボロなんだよ、溶け込むのに必死だったみたいだが、バレないとでも思ったか?」
「将弘君それは、藍君の力は、きっと戦闘向けじゃ」
「そうなのか偽物?、じゃあお前の刻印の力ってなんだよ」
俺の・・・刻印。
生き残ったクラスメイト達が一斉にこちらを見始める。
「なぁ司教さん達さ、あんた等言ったよな? この刻印はこの世界を救う為にあるってさ」
本倉が話しを振った途端、バリンッと音を立て辺り一面に張られていたであろう結界が消えて行った。
そして本倉の質問を返す為にと一歩前に司教の一人が踏み寄った。
「左様、そなた達の刻印は、文献の記述通り。この世界を"邪災"よりお救いする為の物で間違いないでしょう」
「ならさ、このクラス全員にその刻印があるってことでいいんだよな? みんなどうなんだよ?」
本倉の言葉でみなが右手を捲り出した。
全員が完全に察していた。今本倉が何を言っているのか。
そして俺に向けられるモノが何なのかを。
「間違い無いみたいだなー!」
「本倉!!」
大声を上げ透が一人本倉に詰め寄ろうとした瞬間、透が俺と同じように吹き飛ばされた。
何の手振りも無く、ただ透を見ただけで吹き飛ばした。
本倉の刻印の力か。
俺は蹴り飛ばされたと思っていたが。
「藍が偽物とかめちゃくちゃな事を!お前何を言い出すんだよ!」
「何って・・・言葉通りだ。今目の前に居るのは刻越藍じゃない。よく小説とかであるだろう? 紛れ込んでる、気が付いたら感染してた、騒動の原因、諸悪の根源。その正体・・・」
息をゆっくりと吸う本倉。
誰もが想像していることを今、口にしようとしている。
透だけが本倉を止めようとする。
もしそれが口にされた瞬間どうなるのかわかっているからだ。
真偽なんて関係ない。ただその可能性を示した時点で、それは意味を為す。
こんな訳のわからない世界に転移させられ誰もが理解出来ない状況。
一丸になって目に見えてわかる敵であるモンスターをやっと撃退した。
誰もが無意識に欲している物、モンスターというわかり易い敵を。
そう、モンスターを撃退し終えた今のみんなに必要なのは・・・。
「お前が僕達を転移させた・・・"犯人"だ!!」
指を刺された瞬間だった。
白昼夢。
これは・・・戦闘。
男が、今戦ってる。あのメリスと一緒に?
『大丈夫! まだ魔力は残っている!』
そこが何処なのかわからない。けれど男は魔法を巧みに使い敵から攻撃を受けながらも体勢を立て直している。
「ぐはぁっ!!」
白昼夢を見終えた瞬間、また俺は吹き飛ばされていた。
地面が眼前に迫る。
「やっぱりな」
俺はたった今見た白昼夢と同じように動いた。魔法を発動させ自らの身体の柔軟性を高め、着地に備える。
不思議と体が勝手に動いた、おかげで上手く激突を免れた。
「良い動きだ。けど今になって、どうしてそんな動きが出来るんだ? 刻越偽物?」
「違う! これは・・!」
「おい! 奴を撃て、早く!!」
本倉が巨大な火球を撃つ事が出来る者を睨み付ける。
睨まれた者は一瞬だけ戸惑いはしたが本倉の危機迫るような命令に従い、俺に目掛けて火球を撃ち込んできた。
そして再び白昼夢が俺の意識を飛ばせる。
「藍!!!」
火球は直撃し爆発した。
爆破した場所は煙が辺りを覆い、どうなったかの皆が固唾を飲んで見守った。
火球を撃った者本人も撃ってから自分が仕出かした事を自覚し震え出した。
だが、その震えはすぐに止まるのであった。
「おいおいおい、なんで防げるんだよ? 大型モンスターを一発で消滅させるほどの威力だよなー? お前さー、その力なんで今まで使わなかったんだ?」
俺は、魔法の障壁を作り出し火球を受け止めた。
とは、言っても障壁は一撃で砕け散り、防御態勢で構えていた両腕の袖が焦げ散った。
おまけに衝撃で腕が痺れ出した。白昼夢で見たように上手くはいっていないという事か。
いや・・・俺は何をやってるんだ。
あの白昼夢で見る男の真似なんてしてどうするんだ。体が勝手に動いたとしても、それをすればするほど本倉の思うつぼだ。
「おやー? 聞く手間が省けた。いや破けたって言った方がいいのか?」
「しまっ、・・っ!」
やってしまった。
もう正常に頭が回っていない。
燃え散った袖、俺の右腕が露呈してしまった。
それだけじゃない。
なんで俺は・・・隠してしまったんだ。
右腕を引っ込め、見えないようにしてしまったんだ。
「ふふふふふへ」
思い通りに行っている。そう本倉は不敵な笑みを浮かべ出した。
まさに犯人を追い詰める探偵のように。
俺という犯人を追い詰めていった。
「安堂・・・お前が確認しろよ」
「・・・・・・」
「親友なんだろう? お前達さ」
「・・・藍」
透が、こちらにゆっくりと近寄ってくる。
俺に目線は合っていない、下を向きながらゆっくりと。
それだけで、透が今抱いている考えがわかってしまい俺は震え出した。
透だけじゃない。
他のクラスメイト達もまた、その結果を、答えを待っていた。
「藍・・・。本物・・なんだよな。嘘だよな、ぁ、あるよなぁ。だってみんなあるんだぜ? お前が・・・お前だけが!」
透は今にもどうかしてしまうかのように声で俺に聞く。
駄目だ。
透の震える声が耳に入る度に震えが抑えられなくなる。
駄目だ。
今もきっと、透は俺以上に葛藤しているに違い無い。
駄目だ。
唯一無二の親友の透にこれ以上・・・。
「俺に刻印・・・は」
駄目だ・・・駄目・・・なのか。
誤魔化す事は出来ない? いや、なんで俺は誤魔化そうなんて考えてしまったんだ。
命乞い。
ただそれだけだ。
俺だって・・・俺だって・・・。
「・・・無い」
俺だって・・・みんなと同じなはずなのに・・・。
なんで・・だよ。




