転移 ③
「っ!!」
地面に激しく擦り下ろされる。
受け身を取る暇も無く地面に叩き付けられた。
グオォォオオオォー!!!
俺を吹き飛ばし喜んでいるのだろうか。高々と叫び散らすオーク。
その光景にクラスメイト達は全員腰を抜かし、絶望していた。
誰もが今度こそ終わりだと諦めかけていた。
「藍、大丈夫か!?」
「藍君!!しっかりして!」
「刻越!死んじゃ嫌だよ!!」
熱烈な応援ありがとうございます。
透と凛上に澄原という、いつもの3人に起こされるように俺は激痛が走り続ける身体を起こす。それを見た3人はホッと胸を撫で下したが、すぐに視線をオーガに向ける。
重い巨体を震わせながら固まっているみんなへ向けて前進していく。幸いにもまだ距離はある。
だから俺は悲鳴を上げている体に鞭を入れ叫んだ。
「みんな動け!! オークは足が遅い! まだ逃げ回れる!!だから動っ・・ぐぅ!」
駄目だ。痛みがヤバい。叫ぶだけでこれかよ。俺が軟だからとかそんな問題じゃないだろう。
だけど、そのおかげか、俺の言葉はみんなに届いた。
「こ、こっちだ化け物!!」
「俺達が囮になる! その内に動けない奴等を端に寄せるんだ!!」
「に、逃げろーー!!!」
各自が散らばるようにして動き出した。
まだまだ恐怖が拭い切れていない。それでも怯えるのは終わったのだと、自らを奮い立たせながらとにかく速く、と足を動かし出した。
「これも藍君と透君のおかげ、二人がみんなに勇気をくれたんだよ」
「いや、俺なんかよりも藍だろ。こいつが凛上を助けたから動けたんだよ」
「はいはい、透は本当に刻越が好きなんですねー」
なんだこの臭い会話は。こいつ等状況わかってるのか? だけど嫌いじゃない。
こんな状況だからこそ必要なんだってよくゲームとかで聞く。実際にそんな状況無いだろなんて思ったがそんな事はなかった、本当にありました。
なら。ここでただ地べたにケツ付けてるわけにはいかないな、もっと根性見せていかないとカッコ悪いから・・・。
「んっ・・・!」
まただ。
ゴブリンやオークがわかったように、また一瞬だけ白昼夢を見る。たった数分だけで3回も見るなんて普通はあり得ないだろ。
けれど3回もなると不思議な感覚を覚える。というよりも何かの違和感に気付いた。
俺は・・・一度見たことがある?
確かこれは・・・そうだ、あの夢だ。
メリスが出てきていたあの夢にこの違和感は似ているような気がした。元々変な夢だと感じていた物がまさかここに来て関係してくるなんて想いもしなかった。
「出来るのか・・・俺に・・」
右手に意識を集中させてそれをそっと胸に当てる。
白昼夢で見た事を実際にやってみると不思議な感覚に見舞われた。
体の芯から何か温かくもあり涼しさもある何かが体中を包み込む。痛みという痛みが次々と治療されていく、回復しているのがよくわかる。
これが今白昼夢で見た"魔法"だ。
この世界には魔法が存在する、つまりは・・・異世界。
「あ、藍・・・今の光って何だ・・」
「詳しくは俺もわからないんだけど、魔法みたいなんだ」
「魔法!?」
俺の発言に凛上と澄原は声を上げた。透はなんだそれ馬鹿みたいという表情をしている。全員俺が冗談を言っていると思われている。
ならば、と俺は立ち上がりそれを証明するようにしっかりと足で立ち上がる。
実際にこの時にはもう驚くほどに完治していた。オークに殴り飛ばされたのが嘘のようだ。
「魔法って・・・嘘だろお前」
「俺も信じたくないが・・・事実ぽい」
とは言え、簡易的な治癒魔法が出来るからと言って今もみんなを追い掛けているオークをどうにか出来る訳では無い。
なんでこういう時に白昼夢は起きないんだ。出来るなら攻撃魔法の一つや二つ教えてくれたっていいじゃないか。
「へへへ、こっちだ化け物!!」
「手の鳴る方へー!!」
一先ずは何とかなりそうではある。
ただ、ここで懸念する事があまりにも多い。
あのオーク、オークだけじゃない、ゴブリンもそうだ。
奴等は一体何処から出てきたんだ。ゴブリンは紛れていた可能性がもしあったとしてもあの巨体のオークはあり得ない。突然とそこに現れたんだ。
だとしたら・・・まさか俺達と同じ!?
「こっちまで追い―――」
オークから逃げ回っていた一人がその場で倒れ込んだ。
倒れ込んだ男はその場で小刻みに痙攣したかのように痺れ出した。
「な、がぁ・・ぁぁ・・ぇっ!!!?」
「まずい!!」
倒れたクラスメイトにオークが接近していた。もはや獲物は目の前だ。そう言いたげにゆっくりと地面を噛み締めながら歩いている。
ドゴォォオオオーーンッ!!!!
地砕きの如くとてつもない轟音が響く。
倒れ込んだクラスメイトが居た場所がオークの拳により吹き飛んだ。
土煙りで状況がわからないが誰もがその安否を絶望したが。
「なんとか・・・セーフか」
ふぅー、ギリギリセーフ・・・では、無かった。
俺は抱きかかえている者を見て言葉を失った。
助けたクラスメイトの顔を見ると口から血の泡を吹き出しピクリとも動かない状態だった。
そんな死体になってしまった横腹には、俺がゴブリンを倒した時と似たナイフが突き刺さっていた。彼の動きを止めそして命落とさせたのはこれが原因か。
「うわぁぁあああああぁー!!!」
助けることの出来なかった事に悔やむ時間を与えまいと悲鳴が再び耳に入る。
やはり・・・最悪な事態になった。モンスターが湧き出してるんだ。
ここへ連れて来られたのは俺達だけじゃないという事だ。
悲鳴の方角へ目線を向けるとクラスメイトの殆どが複数のゴブリンに追いかけ回されている。
逃げてもその先にオークが待ち受け他のゴブリンと遭遇ともはや俺達に逃げ道はなかった。
「澄原さん下がって!!」
「くそ!
遠くで比較的に安全だと思っていた俺の友達もゴブリンの襲撃に会っている。
それだけじゃない、凛上と澄原が動けない事を知ってかオークも足を進め出す。
とにかく透達の所に行かないと。
「っ! なんだコイツ!! 離れろ!!」
数匹の小柄のゴブリンが俺の脚に絡み付き噛み付いてくる。
痛みはそこまで無い、ただ完全に足が取られ転倒してしまう。
このままじゃ、3人が!
「お前等!! 逃げろーー!!!」
必死に叫ぶも意味は無く、悲鳴と助けを求める声が響き続ける中に消えていくだけだった。
駄目だ、結局何も出来ないのか俺は。
白昼夢もここにきて一切見ることが出来ない。俺は特別なのかもしれない、物語の主人公のように特別な力が自分にはあるのだと口には出さなくとも思っていた。
今はただ現実を見せ付けられている。
ただ地べたに体を擦り付けられながら、友達が殺されるのを黙って見ているしか・・・。
もはや諦めかけてしまったその時だった。
バゴンッ!!!!
何かを吹き飛ばした音が響いた。何が起きたのか全くわからなかった。
ただわかる事は、吹き飛んだ何かの正体がオークだった事だ。
「由子達から離れろー!!!」
「透・・・? 透がやったのか!?」
透の両腕と両足が何かの光を帯びていた。
俺はその存在が何かすぐにわかった。あれは魔法だ。
魔法の力を見に纏い次々とゴブリン達を殴り飛ばしていく透の姿があった。
ゴブリン達もオークが吹き飛ばされた事に驚き動きを止め、動かなくなったオークを見て驚愕していた様子だった。
その隙を付くように素早い動きで透は次々とゴブリンを撃退していった。
「透すごっ・・・ってこんな事してる暇ねぇっての、離れろ!!」
何処かの抱っこ人形みたいにくっ付くゴブリンを蹴り離して透に合流するのだった。