思惑 ②
そこは教会騎士の本部。ここには転使達、藍のクラスメイト達が根城として使われている場所。
先ほど撤退してきた本倉将弘がボロボロになって帰還した。
その姿を、教会騎士だけではなく転使達にも見られすぐに知れ渡るのは当然だった。
「本倉がやられたって」
「嘘、あんな力があったのに!?」
「騎士の連中に聞いたが、どうやら俺達と同じ転使にやられたって」
「もしかしたら、刻越じゃね!?」
「え、死んだんじゃないの」
そんな噂が本部全体に知れ渡っている中、将弘は一人猛り狂っていた。
敗北を。藍に負けたという紛れも無い事実に。
「くそがぁあああああああああ!!!!!」
治療室で回復を済ませた途端に暴れ出す。
刻印の力で物という物に辺り散らかす。
「くそが!!くそが!!くそが!!くそが!!くそが!!くそ野郎がぁあああああああああ!!!!」
回復魔法を掛けた者達はすぐさま逃げるように部屋を出て行く。
そんな中、一人部屋の出入り口で将弘の怒りが収まるのを待つ女子が居た。
「もう噂になってみんな動揺してるわ。あなたが藍君に負けたって」
「俺は負けてねぇええええええ!!!! あいつが!! あいつがズルをしたんだよ!! チートだ、そうだ!! チートを使ったに決まってる!! この僕が負けるはずがないんだよぉおぉおー!!!」
ガシャンと大きな鏡を破壊した将弘。その姿を冷めた目で見る凛上宝華。
彼女は将弘の言葉に多くの感情を持っていた。
藍が生きていた。その事実に。
「おい凛上!! お前が奴を殺せ! お前ならあいつに近付ける、油断するに決まってる。何ならお前の"身体"を使ってところで殺せ!!」
「彼はそんな不純、すぐに見抜くに決まって―――っ!!」
顔面に投げ付けられたコップを寸前で手で防ぐ。
「口応えすんじゃねーよ!! いいか? お前は、僕の女だ。わかってるんだろうな? ここに転移させられて、お前が最前線に送られないのは僕の配慮があってこそなんだ。その事を忘れるんじゃねぇーよ」
「・・・・・・」
教会騎士の本部に連れて来られた転使達。
その転使達の先導を仕切ったのは紛れも無く将弘だった。誰が決めたのでも無く、将弘はその刻印の力で優劣を決めた。自分の刻印が強い事を良い事に。
宝華は、そんな将弘のいいなりになるしかなかった。
「そうだ・・・良い事思い付いた。凛上、お前はあのガキの面倒見てろ」
「ガキ・・・?」
「刻越の手下だよ!! あいつ証拠にも無くこんな世界に来ても友達作りしてやがったんだよ、そのガキはここへ連れてきた。どうせあいつは助けに来る。その時だ・・・」
邪悪な顔とはまさにこの事だと、宝華は将弘の顔から何を今言われ様としているのか感付いていた。
だが口に出すのもくだらない、そんな気持ちでいっぱいだった。
「ガキと刻越を一緒に殺してやれ。あははははは!! なんて優しいんだろうな俺は! 最後のお友達と一緒に最後を迎える事が出来るなんて粋な計らい、簡単に思いつく事じゃないよな!?」
「・・・そうね」
くだらなさ過ぎて誰も思い付かない。
そう心の中で思いながらも宝華は適当に相槌を打った。
心無しの相槌。
それに将弘は満足気だった。ただ単に同意を得られての満足なのか、それとも今自分は、宝華を服従させているという優越感から来た物なのか。
誰にもわからない。だが将弘は一応は落ち着きを取り戻し部屋を後にしようとする。
「何処へ行くの?」
「大司教の所に決まってるだろ。あのおやじ、絶対に何か隠してるんだよ。でないと刻越の雑魚があんな力使えるわけねぇーだろうが」
吐き捨てるように将弘は告げて出て行った。
宝華は一人目を閉じ頭に手を当てるのであった・・・。
将弘が向かった先。
大司教がいつも居ると言われる特別な礼拝堂。
藍達の世界では結婚式などでも目に掛かるような場所を巨大にしたような所だった。
そこは大司教以外の許可が無くては決して入る事の許されない場所。
そんな場所に、将弘は踏み込もうとしていた。出入り口の護衛騎士の静止を振り払い、何重にも閉ざされている扉を開け進む。
そして最後の扉を開こうと触れた時だ、将弘は急に動きを止めた。
「やめて下さい!!!」
先客。扉を微かに開け中を覗き見る。
将弘が向かおうとした礼拝堂には目的の大司教の姿。
そして、藍と戦った目黒の姿があったのだった。
「恐れる事はありません。先ほど見たでしょう? あなたのお友達の様子を、同じ様にするだけですから」
友達?
それは、あの取り巻き二人の事か? 将弘はキョロキョロと中を覗ける範囲で確認する。
だが、あの取り巻き二人。その姿が全く見当たらなかったのだった。
「いけない子だ。透明化を使ってここを調べたなんて、本当にいけない子だ。その力は、神が君達に与えた慈悲だというのに」
「お願い・・します!! なんでもしますからぁああ!! やめて下さい!!!」
礼拝堂最奥の段差の上に立つ大司教。その下で地べたに這いずるのは目黒。
本当に神に祈りを捧げるかの様に、目黒は大司教という存在に命乞いをしていた。
形振り構わず、ただ声を上げ続けていた。
そんな光景を将弘は当然のように不審に思った。
多くを考えたが、まず第一に。
何故目黒は、刻印の力を使って捻じ伏せないのだろうか。ということだった。
目黒の物体を自由に扱う能力を使えばいいはず。大司教がどれほどの強さはわからないが、ここから逃げ出す事くらいは可能なのではと。
「懺悔は・・・済みましたか?」
笑みをただ浮かべた。
罪人の悔いを受け止めた聖職者。その仕事を全うした表情で目黒の頭に優しく手を置いた。
そして目黒は言葉を失った。
もう助からないんだと・・・諦めたてしまったのだった。
「いやぁあああああああああああああああ!!!!!!!」




