発端 ①
「今さら戻ってきても・・・遅いんだよ」
「ぁ・・・とお・・る」
殴り飽きたのか、俺はそのまま遠くへ投げ捨てられた。
受け身を取る事も出来ず地面にゴロゴロと転がる。
だがそれでも、俺は立ち上がる。
殴られ続けて意識がぶっとんでもおかしくない。
それでも俺は透に向けた。
視線を。
あの時逸らしてしまった物を。もう遅いとわかっていても今俺が出来ることなんて・・・。
出来ることなんて・・・!!
「うぅぅうあぁあああ!!!!」
「えっ!!? 刻越・・・!?」
ふざけてる。
何が出来る事だ。
俺は最初の最初から出来ることなんてほとんど無かったじゃないか。
今も透に殴られるだけのサンドバックになればいいなんて、そんな甘っちょろい考えでいた。
体がボロボロ? 刻印の力?
そんな関係ない。今の俺はあの時とは違うに決まってる。
もう、逸らさない。
「はぁ・・! はぁ、はぁ・・・透!!!!」
「――!?」
「お前が聞こえないかどうかなんて関係ない!! お前が見えないかどうかなんか関係ない!!!」
もう、何も出来ないなんて。
親友のお前にだけは、いや、安堂透という俺が最初で最後に認めた男相手に。
そんな弱音を吐く訳にはいかない。
「何度だって殴ってやる!! お前がわかるまで、何度だって殴ってわからせる!! そうだよな! お前が今そうしたようになぁあ!!!」
「藍!! これを!!」
リットが俺に向けて回復薬を投げて来た。前を向いたままそれを受け取る。
やっぱりそうだ・・・透お前。
「サンキューリット」
すぐさま飲み干して開き瓶を投げ捨てる。傷の治りは遅い。だが回復薬以上の物を俺は受け取った。それだけで完治したと言っても過言では無い。
気持ちが高ぶる。
刃の無い剣を握り締め再び魔力を剣に通す。
「第2ラウンドだ透。殺す気でこねぇーと殺すからな!」
「ぅぅぅぅ・ぁ・ぃ・・おぁあああああああああああああ!!!!」
獣の様な雄叫びを上げ目にも止まらぬ速さで突撃してくる。
それでも、それでも目を閉じるな。
「ぐぅう!!!!」
「おぉぉお!!!」
見続けろ、透を、俺を殺しに来る相手を。
強靭の拳を剣で受け止めろ、隙を見せても隙を見逃すな。
「そこ!!!」
バギンッ!!!
魔力の刃が透に触れた瞬間に破壊された。
こっちの攻撃が入らないならもっとだ。もっと強い攻撃を叩きこめ。
一撃一撃、殺す気でやらないと意味が無い、届かない。
必ず・・・透に届かせる為に。
『それが・・・あなたの決めた事なら』
「っ!!!」
魅せたか。
また俺に・・・メリスがまた微笑んだのか。
使わせてもらうさ。なんだって使うさ、そうでないと透には、届かない!!
「っ! 透避けて!!」
澄原が透に警告した瞬間透が体勢を変える為に俺から距離を取った。
未来視で見えたか。つまりこれが突破口である事に間違いないって事でいいみたいだな。
「天上の標せ 精霊の歌」
剣を高く掲げ魔力を増幅していく。
目黒の時のように広く巨大にするでは無く、色濃く。掲げる剣にこの場全ての魔力を結集させる。
強く、ただ強く。
それだけを求め、それだけが今の願いだ。
「なんだよあの魔法・・・あいつ大丈夫かよ」
「透! 逃げて!! ここから・・・っ!!?」
澄原の言葉は・・・透には届いていなかった。
「おぉあああああああああ!!!!」
雄叫びと共に透の右腕、刻印が光り輝く。
右手に作る拳は血が出る程に力強く握られていた。
透・・・やっぱりお前。
「勝負だ透!」
最後の一節を口ずさむ。
それでこの魔法は完成し透を消し炭にするだろう。
迷いは無い、迷う暇は・・・今の俺には与えられていない。
この剣を・・・剣を振るうだけだ!!
「捧げろ!!! その因――」
俺は剣を振るった。
振るったつもりだった。
バリンッ!!!
振るったはずの剣は、俺の手には無くなっていた。
握られていた物はただの鉄屑と化し地面に零れ落ちて行った・・・。
「おぁぉぉおああああああああああ!!!!!!」
轟音が耳に叩きつけれるように聞こえる。
透が放った衝撃波。振るわれた拳から巨大な砲撃のような物がこちらに迫ってくる。
俺は・・・粉々になった剣だった物を一瞬見た。
「駄目か・・・」
これが結果だった・・・。
「藍いいいいいー!!!!!」
俺が最後に聞いた言葉は、リットが俺の名を叫ぶ声だった。




