表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/51

転移 ①


「早く!早く!」


 クラス委員長である"凛上 宝華"に連れられ俺はクラス全員が待つ観光名所とされている遺跡へと足を運んだ。


 宝華はスタイル抜群で容姿も端麗。赤毛の二つ結びが似合う女の子。実際には知らないがモデルもやったことがあるとか無いとか。

 それに加えて勉強も出来、嫌味の無い性格でクラスの人気者である。誰からも好かれ、俺のような自由奔放な奴にも分け隔てなく接してくる。


「おっ! やっと来たか。なんだなんだ勇者様がお姫様を連れ出したみたいだな、はははははははっ」

「勇者って・・・私が?」

「俺がお姫様かよ」



 腕を組み大爆笑している少し大柄な男"安堂 透"。


 こいつもまた宝華と同じようにクラスの人気者の一人だ。

 野球部の部長で責任感も強く、少し時代錯誤な部分もあるのが情に熱く、昨年の俺達が2年生の頃に後輩をいじめる先輩集団を一人でボコボコにしたことがある熱血漢という言葉良く似合う男だ。



「刻越、もしかして・・・またゲーム?」



 透の陰からひょっこりと顔を出した女"澄原 由子"。

 凛上に負けず劣らずで小柄の容姿を持っているが決定的に違うところは、今も透のシャツをずっと掴んでいる事から基本的に内気な引っ込み思案な女の子。

 透とは家がご近所さんで幼稚園からの幼馴染で本人は透を白馬の王子様か何かだと物心付いた時から思っているらしい。なんだかんだ透から愛の告白をしたとかなんとかで事あるごとにイチャイチャしている。



「いや、これ! どうよ! ようやく俺、いや・・・レジヲさんは一つの壁を越えた! はあ、また俺は、レジヲさん強くなってしまったようだ皆の衆」



 片手に持っていたゲーム機を俺は自慢げに見せるのだった。

 難解と呼ばれたゲームのレベル上限を突破した事を透達に誇らしげに言うのだった。


「藍君って本当にゲームが好きだよね」

「いやいや違うぞ凛上、こいつが好きなのは"エルフ"だよ。マンガ、小説、ゲームにアニメ、"銀髪エルフ"さえ出てくれば何でも良いっていう変態なだけだ」

「あはは・・・ほどほどにしなよ、刻越」


「お前等なぁー!!」


 透の言葉に反論を述べたい。

 エルフとはある意味で俺達人間よりも高位の存在! 神に最も近いとも諸説ある偉大な存在なのだぞ!


 赤子が両親を恋しく思うのと同じように、高嶺の存在を感じるのは当然の事で・・・。


「ってあれ、集合写真始まってないんじゃ・・・」


 俺はふと周囲を見渡すと透と澄原と同じようにクラスのみんなは談笑していたりとこれから集合写真を取る雰囲気でない事を察した。

 睨むように凛上を見ると小悪魔のように片目を瞑り俺に舌を見せ、自身を呼ぶ他の女子のグループの方へと走って行った。


 凛上のお節介。


 その事に俺は溜息が出た。


「睦ましい・・・」

「相変わらず歯痒い関係だな、お前等は」

「うるせぇー! イチャイチャマシーン共に言われたくねぇよ!!」


 ったく、と。俺はその場に座り込み集合場所である遺跡に目をやる。


 遺跡なんて呼ばれているがよくあるRPGのファンタジーダンジョンのような物ではない。

 ただ、巨大な細長い岩が四つ、横並びに並んでいるだけの物だ。

 確かここへ来る前に見たパンフレットだと、どうやらこの岩達は突如として現れた存在のようだ。約70年前の出来事らしい。当然俺達は生まれておらず今のようにスマホやらパソコンやらが無い時代の為突如現れたという現地民たちの言葉の信憑性が低かったが。


 数年前になんやかんやあって観光名所とされ、地元民からは遺跡として崇め奉られているとかなんとか。


 こうやって地面に座ってその遺跡という名のただの岩を眺めているとふと思い浮かべてしまう。

 ファンタジー好きならこういった未知の存在に高揚感を抑えられないのだろう。実際にクラスの一部は興奮して写真をいっぱい撮っている。


 俺もファンタジーは大好きだ。

 現代とは違う世界。


 機械という存在が発展するかしないかくらいの世界。魔法があって、俺達のような人間以外にも多くの種類の人間が居て、モンスターと戦って、そして・・・エルフが居て。


 物心付いた頃から俺は変な夢をよく見る。それは"銀髪の少女"が出る夢だ。

 事あるごとにその少女は俺に語り掛け、共に笑い、時には喧嘩をしながらも一緒に過ごしている。

 子供の頃から俺は何を見せられているのかと疑問に思いながらも、悪夢のような嫌な気持ちにはならなかった。

 それどころか、なんだが心の奥底から湧き出る喜びに笑みを浮かべる日々が続きいつしか俺は現実の"エルフ"と呼ばれる架空の存在に惹かれるようになった。


 実際俺が見ていた少女がエルフなのかどうか知らないが、その存在をカテゴライズするならばエルフだと俺は思ったのだった。

 だが、正確には彼女はエルフの象徴とも呼べる耳が普通の耳と同じ。つまりはハーフエルフという存在なのだと俺は考えていた。


 夢は二人が歩んできた物語をなぞるようにして進行していたようにも感じた。

 お互いがお互いの名前を笑顔で呼び合う。


 彼女の名前は・・・。



「おい藍~、本当に写真撮るぞ~」

「えっ! あ、ごめんごめん。サンキュー」



 ビクッ体が驚いたと同時に俺は立ち上がっていた。

 その光景をクスクスと笑う凛上と澄原。


 状況がわからずあたふたしていると透がはいはいこっち、と手招きしてくれて俺はそれに従うように歩む。



 この時、この瞬間。


 俺という存在、刻越藍は、自分の本当の事を知らないでいたただの高校生だった。

 何故生まれたのか、どうして存在するのか。


 全てを忘却の彼方に留めることで存在し続けることができていたことを・・・。 



「はーいでは・・・"始まりますよ"」



 なんだそれ? カメラマンのその決まり文句、なのか?

 そんな疑問を浮かべカメラマンの方を見た。すると何故だろうか、俺はそのカメラマンと目が合ったような気がした。


 そして、俺を見て・・・笑った?


 始まりますよ。

 その時の俺は、それが最後の言葉になるとは思いもしなかった。

 綺麗に整列したクラスの面々がカメラのシャッター音と同時に光る強烈なフラッシュに全員が目を瞑ってしまった。


 当然俺も目を瞑り瞼の裏側を俺に見せた。

 暗く、一切の光をも通す事のない深淵の闇を覗かせるような感覚に襲われた。俺はそれを一度味わったことがあるようにも思えたが一瞬の出来事過ぎてわからなかった。

 

 一体どれ位そうしていたのだろうか、わからなかった。


 一秒なのか、一分なのか。

 そもそも時間という概念すらも感じていたのかどうかすら怪しかった。


 覚えている事は、真っ暗な場所で静かに目を閉じただけのような感覚。

 五感が全て無くなったようにも思える。



 だが・・・俺は。



(――――――ッッッ!!!)

 


 一人の叫び声。

 何の言葉を発したのかわからないけれど、それは誰かを呼ぶ声だった事だけは理解した。


 誰よりも聞いた声に、愛おしいと感じた声に。



「メリ・・・ス」



 俺は名前を口にした。


 メリス。


 それが彼女の名前だ。俺が見ていた夢に出てくるハーフエルフの少女。必ず一緒にいる・・・そう約束した、大切な人・・・。



「成功だー!!!」



 突然の大声に俺は目を見開いた。


 そこは、見たことのない場所だった。


「なんだ・・・此処は」


 何かの神殿? それこそゲームの中に出てくるような場所だった。たった一つだけわかる事がある。


 ここは、さっき居た場所では無い。


 さっきまで記念撮影をしていた俺達は一体・・・。



「"転使"様だ! 儀式は成功です、大司祭様!!」

「あぁ・・・これで世界は救われる」


 あまりにも広い部屋の中心に俺達はただその光景に驚かされている。

 その場で見上げると俺達をまるで動物園の動物を見ているかのように大きなローブを着ている大勢の人間達が俺達を見下ろし嬉々として声を上げている。状況が一切わからないが、危害を加えるような様子は今の所無い。



 一先ずは、大丈夫なのか・・・と、俺は大きく息を吐いた瞬間だった。



「きゃぁああああああああぁー!!!!」


 俺の背後から悲鳴が響き渡った。

 脳が震える。何度もその悲鳴が再生されているような衝撃が走った。鳥肌が治まる事無く恐怖のあまり体が痺れ上がる。


 それでも、それでもと。俺はゆっくりと体を振り向かせた。


「なんだ・・これ」


 一人の同級生が目の前で・・・血塗れになっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ