反撃 ③
俺が魅た白昼夢は今まで魅せられていたモノとは一線を超える物だと瞬時に理解した。
握り締める剣は原型を無視し魔力で巨大に膨れ上がり目黒が放った瓦礫に匹敵する程までに大きく、そして輝き見せている。
ただ力いっぱいに振るった。
目に見えない瓦礫、だが感じ取れていた。リットに掛けた障害物探知魔法で大体の場所は把握していた。
だから思いっきり振り下ろす。
「き・・切りやがったのか・・・!?」
真っ二つ、一刀両断。そんな言葉が相応しい程にぶった斬った。
斬られた瓦礫は透明化の能力を失ったのか姿を現し、そのまま地面へと落されていった。
「だから・・・言っただろ。お前の刻印・・・弱いなって」
「ふ、ふざけんな! ふざけんな刻越!!! てめぇ、刻印も無ければ"未来視"だって・・・!!」
未来視。
今目黒は未来視って言ったのか? ハッとなってすぐに口を抑えた素振りを見せた。
なるほど、そうゆう事か。
「くそ!!! くそ!!! 死ねぇええー!!!」
馬鹿の一つ覚えのように適当に俺に向けて攻撃を始める。
一つ一つはあまりに小さく、俺へのトドメに使った瓦礫とは比べられない程に、剣を軽く一振りすれば斬れるようなひ弱な物だった。
「視えない!? なんで!! おい!ふざけんな!! 視せろよ!! こいつが、刻越が死ぬ姿をよ!! さっき視せたみたいによ!!!」
完全に形勢が逆転した。
刻印の力は確かに無尽蔵で、おまけに未来視なんていう取って付けたような効果まで付与されている正真正銘のふざけた力だ。普通は負けることなんてほぼ無く、実際にここまで来るのに無敗、いや戦いなんて物すら起きていなかったはずだ。
それでも目黒は負けた。
刻印も無ければ、未来視なんて物も持ち合わせていない俺に。
「・・・俺はお前等と違って未来なんか見えない。強いて言うなら魅せられてるのは"過去"っぽいけどな」
「なんだと!!?」
これでようやく納得出来た。あぁ、本当に納得が出来た。
俺は強気に足を動かした。一気に弱腰になる目黒へとゆっくりと歩み続けた。
「こっちくんな!! 刻越!!!」
刻印の力を使わず手に持った石を投げ付け始めた。
そう、これが実態なんだ。どれだけ凄い力を持っていようと関係の無い関係性。
勝者と敗者。
今俺と目黒の間にはその関係性が生まれてる。
あの時、転移してすぐの俺は負けたんだ。
そう、本倉に、クラスの全員に。
ただそれだけ、それだけの事だったんだ・・・。
再び剣を光らせる。さっきと同じように巨大にはしないにしろ、今の目黒達を脅すには十分だった。
グヂャァッ!!!!
「そんなっ!!」
目黒の取り巻きが罠を張った瞬間、剣を振るい消した。
効果があるようで安心した。そう、これで安心してこいつ等を問い詰めることが出来る。
「り、里香・・・!」
「何ビビってやがる! こいつはあたし等の事どうせ殺せねぇよ、なぁ刻越!」
剣を握る手に力が入る。
なんだろう、俺の中で色々な感情が湧き上がってくるのがよくわかる。
ついさっき俺に投げてきた小さな瓦礫を手に掴み眺める。
「っ!!!?」
俺は掴んだ瓦礫を目黒目掛けて投げ付けた。顔面すれすれで砕け散るのだった。目黒の力には及ばない。
けれど、見た感じ普通の女子高生。当たれば軽傷では済まない程の速度、魔法で加速を付けて投げ付けた。
ある意味で今の行為が全てを物語っている。もう目黒に抵抗の意思はない。
「・・・・・・」
目の前には元クラスメイトの人間が俺を見て怯えている。
さっきまで俺達を、この世界の住人をただの玩具のように扱われ続けていた奴等。
経緯は確かに不運だと俺も思う。
勝手に転移させられて、勝手に力を与えられ、勝手に・・・。
「でも・・・人を殺して良い理由は、無いと思う」
ボソっと口にした言葉に目黒達は目を見開いた。
ゆっくりと近付く俺に腰を抜かし地に尻持ちを付いた。
「な、何でも話す・・・頼む。頼むから殺さないでくれ」
そうか。
それなら良い。それが俺の目的だったんだ。それが聞けたら十分だ。
だから。
だから俺は手に持つ剣を握り締め振り被った。
「待てよ!! 待て刻越!!!」
ガキンッ!!!!
「・・・・・・っ」
「ぁ・・・ぅぁ・・・・!!」
目の前には目を閉じ震える目黒。その股の間に俺が振り下ろした剣が突き刺さっていた。
そして俺の足に、誰か・・・誰かが掴んだ。
「そこまでで・・・いいんじゃないのか。藍」
「リッ・・・ト」
ローブに包まれたボロボロのリットが、俺を止めるように俺を掴んでいたのだった。




