再戦 ③
「リットよせ!!!」
「はぁーん? ガキだからって容赦しねぇーぞ!!」
俺の静止なんて耳に入ってない。
目黒は右腕を握った瞬間周囲の瓦礫が宙に浮き始める。
これは、さっき俺達を襲った攻撃と同じ物だ。
物を自由自在に操る力、サイコキニシスだとでも言うのか。
「潰れちゃいな!!」
手を動かし浮かした大きな瓦礫をリットへ向けて飛ばした。リットはそれを寸前で避け、飛ばされた瓦礫を踏み台に更に加速して接近する。
頭に血が昇ってもまだ自棄になってるわけじゃない。
だが、それじゃあ駄目なんだ。
「あはっ! やるじゃん」
「お前達は殺す!!」
再び目黒は右手を払う。
次々とリットとほぼ同じ高さの瓦礫を大量に用意し、リット目掛けて放つ。
瓦礫が風を切る音が辺りに広がる。
これだけの力を使っても目黒の表情には疲れの一つも無い。普通なら多少の変化があってもいいはず。
思い出したくないが、これが刻印の力なんだ。
魔力とは根本的に異なる力で使える物。
俺もこれにやられたんだ。
「おら、おらどうした!!? 遅くなったんじゃないんでちゅかー???」
「黙・・・れぇえー!!!」
くそっ。俺もリットの後を追うように動くが瓦礫の波が多すぎて思うように前に進めない。
あっちは無尽蔵な力の放出が可能で、尚且つ瓦礫なんてここではゴミのように存在する。
攻撃が尽きる事はない。
それでもリットは俺よりも早く進もうと必死になっていた。
小剣で瓦礫を破壊し、多少のダメージを負いながらも少しでも前へと進もうと必死に足掻く。
そしてようやく辿り着けていた。目黒相手に届く距離まで。
「もらったぁああ!!!」
「飛んで火に居る冬の虫だ!!!」
リットの小剣が目黒へと斬りかかる瞬間。数センチの距離を残しリットの動きが止まり、空中でただ固まっていた。
「な・・・なん」
「よーく見たら可愛い系じゃん、でも残念だねー」
目黒の背後から物体が姿を見せた。
瓦礫を組立られた巨大な棘。
「じゃあーねー」
「くっ・・・!」
無慈悲に手が払われ、棘がリット目掛けて放たれた。
防ぎ切る手は、見動きの取れないリットには無い。
「拮抗しろ 危機を示す破壊を!!! ぐぅ!!!」
「あん?」
リットはやらせない。棘とリットの間に光りの防壁を展開させ、棘と激突させる。
目黒の棘と俺の防壁が共にバラバラになっていく中、目黒達は頭上から落ちてくる破片を避けるのに必死になっていた。
普通の人間ならこれで終わるはず。目黒達は気だるそうにしている態度とは裏腹に俊敏な動きで瓦礫の雨を難なく避け続けている。これも刻印の力という訳か。
それでも、今のうちだ。
脚力を上げ一気に飛ぶ。固まっているリットに触れすぐにその場を離脱しようとする。
だが、ネチャッと音がしリットが全く動かない。
これがリットの動きを止めた正体。
「くそっ!!」
目に見えない何かがそこにある。リットの動きを封じている何かが。
とにかくその場から引き剥がそうと魔力で強引にリットを引っ張るがビクともしない。
これもまた刻印の力か。
目黒の取り巻きどちらかの力か。
「めんどくせーことしやがってよぉー!! まとめて潰してやるっての!!!」
リットを救出に気が付いたか。
集めた瓦礫を再び集結させて巨大な球体を形成していた。
それを投げるような動作と共に俺達目掛けて投げ込んでくる。
当たり前のようにリットは一切動かない。このままじゃあ目黒の言う通り二人まとめてやられる。
「何やってんだ、お前だけでも逃げろよ!!」
「俺がそんな事するわけないだろう。だが、少し我慢しろよ!」
もうこの際考えている余裕は無い。巨大の瓦礫の球体はそこまで迫ってるんだ。
魔力を一点に集中。
場所は、俺自身。
「爆ぜる時 思惑を超え、ここに結束しろ!!!」
目黒の攻撃が俺達にぶつかる瞬間、大爆発が起きた。
振動は大地を震わせ、目黒が作り上げていた瓦礫の山は風圧で飛び散り、空間を打ち震わす轟音。
俺の魔法だ。
ほぼ自決用に思える魔法だ。俺の範囲全てを爆破する為だけの物。
「なんだアイツ、自殺したんじゃねーの?」
「さぁーね、煙くて何も見えないんですけどー」
なんて奴だ。
何か俺と似たような防壁を作ったのか? 目黒だけじゃなく他の二人もその場から一歩も動かずに今の爆破魔法を過ごしたっていうのかよ。
「ぶはっ!! げほっげほっ!!」
こっちは無傷じゃないってのに。俺はリットを抱えたまま民家に激突していた。
地面にまた強く叩き付けられたが、おかげで目的は果たした。
「お前、大丈夫かよ!!?あんな魔法、見たことないぞ!!」
「大天才様に教わったんだよ。いてててっ、欠陥だらけの魔法ばかりだがな」
教わってたのは夢で見た男だがな。
実際これを使ったのは片手で数える程度の物。今みたいに敵を倒す為では無く味方を助ける為に使っていた。これを思い出せてよかった。
「リット。落ち着いたな?とりあえずは」
「っ・・・ごめん」
「気持ちはわかる。けどここで死ぬ訳にはいかない、そうだろう?」
コクリと素直に頷いてくれたリットにまた俺は頭を撫でた。
今はこれくらいにしておこう。変に説教臭くしてもこの状況を何とか出来るとは思えない。
幸いにも追撃が来ないことを見るに、俺達が何処に居るのかわかってない可能性がある。
ここで一度落ち着き俺は、ゆっくりと息を吸い考えるのであった。




