出会い ③
バタンとコインズが部屋を出て行き静寂が訪れた。
俺は薬のおかげで回復し続ける身体を労わる。
「・・・って、おい」
先ほどまでチラチラとこちらを見ていたリットが声を出す。
立ち上がった俺を引き止めようと自分も一緒に立ち上がっていた。
コインズに言われたから俺の事を心配してくれているようだった。
「コインズ様も言ってたが・・・その」
顔を背けるリット。
その仕草で何を言いたいのか、何となくではあるがよくわかる。
きっとみんなには勝てない。五体満足でここまでされたのだから、こんな状態で俺に何か出来るとは思えない。当然と言えば当然だ。
「リット、君とコインズはどうゆう関係なんだ?」
「君は、いらねぇーよ。お前より多分年上だし。コインズ様は・・・俺の育ての親だ」
そうか。何か魔法の師弟関係かと思った。
言動こそ荒っぽいが長年付き添っていたような雰囲気を感じていたのはそれか。
「よかったら、リット。お前の話を聞かせてくれないか? コインズと出会ったきっかけとかさ」
「なんで見ず知らずのお前なんかと」
「あぁーそっかすまない。俺は刻越藍だ」
そう言えばリットやコインズの名前は会話からわかったけれど、自分の名前を言うのを忘れていた。
リットはそんな俺の顔を見て顔を歪ませていた。完全になんだコイツって顔だ。
けれど、俺の今の容態を思ってか溜息を吐き観念したかのように語り始めた。
「俺のエルフの母上は、物凄く忙しい人なんだ」
リットはゆっくりと語り始める。
自分は物心が付く前からコインズに育てられていたと言う。
そして人間の父親は事故で亡くなったらしく。母親はその後を継ぐように世界を飛び回っていると言う。つまりはリットはハーフエルフのようだ。
この情報も全てコインズから聞いている物で本当かどうかはわからないと言った。
「一度だけ、それも本当に小さい時に一度だけ会ったことがある。ローブを着込んでフードも被って顔がよく見えなかった。それでも俺は、その人が母上だと何故かわかった」
出会ったのはこの家。
仕事の都合上立ち寄ったのか。それとも我が子を心配して顔を出したのかは、本人にしかわからない。
「たった一言だったな・・・。なんて言ったと思う?」
リットの表情は複雑に絡み合っているように見えた。
悲しんでいるのか怒っているのか。
「ごめんなさい・・・だってよ。笑えるよな」
ずっと俺の方を向いて軽く話していたリットが顔を背けた。
それが全てだった。
リットが母親に抱いている物がどうゆう物なのか。
その仕草だけでわかってしまったのだった。
「すまん、聞き過ぎた」
「別に・・・。もう70年、こうしてきたんだし気にしてねぇーよ。そう、70年こうしてきたんだ」
俺に掛けた言葉ではない。ただ自分に言い聞かせるようにリットは呟いた。
70年か。
つまりリットはそれほどに歳を重ねているという事になるわけか。
まだ中学生か小学生高等部くらいの見た目なのにも関わらず、リットは70年生きている。
これがエルフの長寿の力という奴か。
リットはハーフエルフ、それでも普通の人間以上の寿命を持っている。
「大変だったんだな・・・リット」
「はっ―――何っ」
つい、俺はリットの頭撫でていた。
立ち上がっただけで精一杯なはずの身体が不思議と動いた。
目の前のリットに、その言葉を伝えたいが為に。
考えてみれば、俺はどうしてリット事を聞いたのだろうか。
本当に赤の他人。それこそ世界だって全く違うのにも関わらず。人とハーフエルフ。
当たり前に接点なんて無いのに。
「なんで・・・こんな喋ったんだろ俺」
「俺が聞いたからだな、すまん」
「いや・・・別にいい」
もしかしたら手を払われるかと思った。
けれどリットは目を瞑り、体を寄せて、その身を委ねた。
リットも不思議と同じ気持ちだったのかも知れない。
お互いただどうしてこんな事になったのかわからないでいた。
けど、これはそれでいいのかもと思えた。
俺が何でこの世界に来たのか、何でみんなから牙を剥かれないといけないのか。なんで俺にだけ同じ力が貰えなかったのか。
なんで・・・。
「そうか・・・こうする為、だったのか」
夢で見たメリスの言葉を思い出した。
必然。
俺はもしかして、目の前にいる自分よりも数倍生きているハーフエルフにこうしてやる為にここへ来たのかもしれない。
あそこで死ぬ思いをして、ワープした先にリットが居た。
そうだな、辻褄が合う。合う事にしよう。
当然強引だというのはわかってる、けれど今は、それで十分じゃないのか?
だってこんなにも満たされてるいるのだから。
ッッッッッッ―――!!!
「なんだ!?」
地面が揺れだす。
地震? いや違う、これは。
「まさか、奴等この街まで!?」




