7 悲報 だーくねすぷりんす 本名バレする
「じゃあ僕帰るから、またメッセージで連絡するわ」
辺りはすっかり暗くなってしまっている。
早く帰って、お母さんの友達の引っ越しの手伝いをしないと……。
「待って下さい!!!!」
……。
まだ何かあるの?
「な、なに? もう写真で脅しても聞かないよ」
ericaは自分のスカートを掴んでもじもじしている。
「脅しませんよ! その、もうこんなに暗くなってるじゃないですか〜。良かったら家まで送ってくれないかな〜っと思って」
ericaは不安そうな瞳でこちらを見つめている。
なるほど、確かに辺りはすっかり暗くなっていて、女子高生が一人で帰るには少し危ないのも頷ける。
「分かったよ」
「やったぁ!」
そう言って、ericaはこちらに飛びついて来た。
今度は何をするのだ……と怯えていると、なんとericaは自分の左手を僕の右手に絡ませて来た!
指が一本一本が絡まる、いわゆる恋人つなぎってやつだ。
「これなに?」
「恋人つなぎですよ?」
「じゃなくって、家まで送るのはいいって言ったけど、こんなことしていいなんて一言も言ってないよ?」
……。
この人何が目的なの?
「さっきスタバの店員さんが私たちのこと、カップルだって言ってたじゃないですか〜〜。その時だくぷりさん、否定しませんでしたよね? カップルは恋人つなぎをするのが普通なんですよ〜〜笑」
急に手なんて繋いできて何事か! と思ったが、そのことでまたからかおうということだったか……。
「あれは急に怒鳴られて、焦ってすぐに出て行ったからであって、本当にカップルだから否定しなかったわけじゃないよ。向こうからしたらうるさいから出ていって欲しいだけで、カップルかどうかなんて些細なことでしょ」
そう言うと、ericaは絡んでいた手を急に離して、冷めたようにこちらから目を離した。
「そうですよね! カップルかどうかなんて些細な事ですよね! あはは」
乾いたように笑うericaは、どことなく悲しげだった。
* * * * *
ericaを家まで送ろうと、駅から20分ほど歩いているのだがここで気付いたことがある。
これ僕の家の方向じゃね?
「どうしたんですか〜〜?笑」
ericaが何やらニヤニヤこちらを見ている。
恋人つなぎは断ったのだが、暗くて怖いと喚き散らすので、仕方なく手は繋いでいる。例の写真の件もあるしね……
ericaの手は小さくて、柔らかくて、冷たくて、儚くて、こんなやつでも女の子なんだな、なんて……僕はいったい何を言ってるんだ!?
「いや、もしかして君、あ、えりえり、知ってるの?」
「知ってるって、何をですか〜〜(ニヤァ)」
あ、これ知ってるわ。なんで? 怖いって。
「いや、分かってるんでしょ? どうやって特定した?」
「特定? 何のことですか〜〜笑」
住所を特定されるようなツイートはしないように日々心がけているはず。なんでだ……
「もう! 僕の住所知ってるんでしょ!?」
「あ、住所ですか〜。え、だくぷりさんもこっち方面なんですか? 奇遇ですね〜〜笑」
その謎の笑みが奇遇とは言ってない。
* * * * *
まもなく歩くと僕の家が見えてきた。
家の前には、お母さんとお隣さんに引っ越して来たその友達がいて、僕を待っていた。
「お母さん、ごめん! 遅れた!」
小走りで家の方に近づく。
「健太郎! 遅いじゃない! って、えりかちゃんも一緒なの!? あんたら随分仲良しになったのね〜」
お母さんの前でericaと手を繋いだままだということに気付き、慌てて手を離す。
……。
え、ericaがいる前で本名言うなよ! っていうのと、えりかちゃんって……
「ericaを知ってるの? お母さん」
「知ってるの何も、お隣さんに引っ越して来たママの友達の娘さんじゃな〜い。ね〜?」
そう言って、隣の友達、つまりはericaのお母さんとアイコンタクトを取る。
「健太郎くん、えりかをよろしくね!」
これまじ?
ふと振り返ると、ericaは……これ以上にないニヤニヤ具合。
「ようやく気付きましたか……健太郎さん!」
これは大変なことになりそうだ。