6 騒がしいカップルにご用心
「えりえり」
「っ!!」
「えりえりはリアルの友達だけでは物足りないから、ネットを使ってもっと交友関係を広げたいんだよね?」
「は、はいっ」
さっきよりはだいぶマシになっているが、未だにえりえりと呼ぶとビクッと反応する。そして口元が緩んでいる。
かわいい。
「じゃあその友達をお魚なんて言ったらダメでしょ!!!!」
「ごめんなさい!!!」
「よし」
なんか上に立ったみたいでやる気が出てきた...... こうなったらTwitterでフォロワーを増やすとはどういうことか、徹底的に指導してやる!
そう思った時。
トゥルルルルル
僕のスマホが鳴った。
ピッ
「はい、もしもし、あ、ママ? ごめん、そうだよね。分かった。すぐ帰るわ。じゃあ」
そう、僕はさっさと帰って、お母さんの友達の引っ越しの手伝いをしなければないのだ。
帰り道、ericaに遭遇してしまったがために随分と待たせてしまっている。
「ごめん、用事があってもう帰らないといけないわ。また今度でいい? 帰ったらメッセージ飛ばすよ」
……。
またごちゃごちゃと引き止められるかと思ったが、ericaは何故か無言でこちらを見ている。
それも満面の笑みで。
「なに?」
「だくぷりさん、お母さんのことママって言ってるんですか?笑」
……。
「言ってないよ?」
「言いましたよね?」
「言ってないよ?」
「言いましたよね?」
「言ってないよ?」
「言いましたよね?」
「言いました」
……。
「ママ〜ママ〜ママ〜笑」
「やめてくんない?」
「はい、もしもし、あ、ママ? ごめん、そうだよね。分かった。すぐ帰るわ。じゃあ」
「モノマネやめてくんない?」
「はい、もしもし、あ、ママ? ごめん、そうだよね。分かった。すぐ帰るわ。じゃあ」
「あの〜……」
刹那、僕に電流が走る。
この極限の絶望的な状況の中、光速を超える速さで逆転の一言を脳内で紡ぎ出した。
「えりえり?」
「っっっっ!!!!」
「えりえりえりえりえりえり」
「っっ!!! ママ〜ママ〜ママ〜ママ〜」
「くっ! えりえり〜えりえり〜えりえり〜えりえり〜」
「っっっ!!!! ママ〜ママ〜ママママ〜ママママ〜」
「ぐっ!!!! えりえりえりえり〜 えりえり〜 えりえりえりえりえり〜〜〜!」
「っっっっ!!!!! ママ〜ママママママ〜ママママママ〜ママママ〜!!!!」
「ぐぬぬっ!! えりえ……」
反撃しようとしたその時……
ドンッ!!!!!!
「君たちカップルさっきからうるさいですよ!? 出ていって下さい!!!」
こんなしょうもないやり取りで……
店員さんに怒られて、出禁にされてしまった……。