32 あらゆるしがらみを取っ払って
「ということで、Twitterでフォロワーを増やす方法とか本当はどうでもいいんですよ。すみませんね、もの知らずの私に対して、自分の持っている知識を披露することに快感を覚えていたんですよね? その気持ちを踏みにじってしまって、本当にすみません」
「いや別に快感とか覚えてないけど!?」
まあ多少はマウント取れて気持ちよかったけど。
「いやそうじゃなくてさ、お前に友達がいっぱいいたのは、僕のツイートを見たからだったのか」
まさか友達の作り方を教えてくれる先生の友達を作ったきっかけが、自分のツイートだったとは……。
「そうなんですよ。健太郎さんのせいで私には友達ができて、そして崩壊したんですよ」
……なんも言えない。
「自分じゃダメだったから、僕を実験台にして、友達を作ることが本当にいいことなのかを確かめたと」
「はい、あれだけ友達がいないことに悲鳴を上げている健太郎さんに友達ができて、それでも虚しさが残るのなら、友達というのは、結局、いてもいなくても同じだということになるので。で、どうですか? 友達ができた感想は。嬉しいですか? 最高ですか? 虚しいですか? こんなもん? って感じですか?」
そうだな……。
大きく息を吸い込んで、嘘偽りのない気持ちを伝える。
「さいっっっっこうに嬉しいよ!!!!!!!!!!!!」
えりかの顔が引き締まる。
「どうして、どうして。私にはたくさんの友達ができた。全校生徒&全教員と友達になった。健太郎さんの何十倍も、何百倍も友達ができた!!! なのにどうして!?」
えりかももう答えが分かっているのだろう。分かっているうえで、僕に聞いている。自分を、救ってほしくて。
「それは、お前が自分を偽っているから」
えりかの頬に涙が滴る。
「自分を偽っているから、そんな自分にいくら友達ができようが、それは偽物。Twitterでいくらフォロワーが増えて、人気者になろうが僕が虚しい理由と同じ。お前は僕の二の舞にならないよう、自分を偽って友達を作ったわけだけど、その結果、図らずも僕の二の舞になってしまった。どれだけ人に好かれても、人気者になっても、素の自分が出せないのであれば、そこには虚しさが残るだけ。僕には友達ができた。そこにはだーくねすぷりんすは関係なかった。オフ会の3人、きるりあさん、ジュエルさん、ブルーバードさんと出会えたきっかけはだーくねすぷりんすだったけど、実際に会って、素の自分を出したうえで、それでも僕を友達と言ってくれた。めぐみんや竜次くん、桂香さんもそう。ネットで人気者のだーくねすぷりんすとしてではなく、現実のダメダメな健太郎をよく思ってくれて、友達と言ってくれた。だから、最高に嬉しい」
えりかは無言で僕の言葉を聞いていた。
そして口を開ける。
「話が長いです。ツイッタラーなら140文字でまとめてください」※Twitterのツイートの文字数制限は140文字
「すみません……」
「でもその通りです。私は自分を偽ってました。人に好かれたくて、何かが変わると思って……。でもそうですよね、いくら自分が好かれようが、それが偽物の自分だったら意味がないですよね。本当の自分を好きになってもらわないと。でも、本当の私って魅力がないんですよ。オタクだし、かわいくないんです(140文字攻撃!)」
「それは僕だってそうだよ。お前も知ってるだろ。Twitterの人気とは程遠い。現実ではコミュ障で、オタクで、フツメンで……たいして面白いことも言えない! そんな僕でも気の合う友達ができている。お前にできないはずがない! 勇気を出してチャレンジすることは、お前が教えてくれたんだから!(140文字返し!)」
「自分を偽ることと、自分を変えることは違うんでしょうか? そもそも私には現実での友達が必要ありませんでした。でもだくぷりさんのツイートを見て、そこから何かを変えたくて、自分自身を変えようとしました。それが自分を偽ることだったようです。あのまま、何も変えなければよかったんでしょうか?(140文字返し返し!!)」
「自分を変えることと偽ることの違いは、自分がその自分に納得しているかどうか! もし納得していない自分にいやいや変わろうとしているのなら、それは偽りの自分だ! 偽るとはつまり、自分の気持ちを偽っているということ! 自分の気持ちに真っすぐな変化なら、それは自分を成長させてくれる変化だ!(140文字返し返し返し!!!)」
「かっこいいこと言うじゃないですか。健太郎さんのくせに。そういえば健太郎さんって私のこと好きなんですか? 私は健太郎さんに友達ができたらどうなるか知りたかっただけで、ほんとは好きでもなんでもなかったんです。ベタベタ引っ付いていやでしたよね。そっちをその気にさせてるのならすみません(140文字返し返し返し返し!!!!)」
「嘘でしょ!?!? あんなに思わせぶりなこといっぱいしといて!?!? 僕の気持ち返して!!! 僕のピュアな気持ち!!! いま自分の気持ちを偽ることは良くないって話をしたよね? 自分の気持ちを偽るのは良くないぞ!!! 僕のこと好きなんだろ!!!! 頼む!!! 好きって言ってくれ!!!(焦りながらも140文字調節する僕、さすがツイッタラー! どんなことがあっても140文字は崩れない!)」
「ぷぷぷっ笑 すぐ困るんだから健太郎さんのことからかうのやっぱり面白いです。そうですよ、私、健太郎さんのこと好きです。でも最初から好きだったわけじゃありませんよ。健太郎さんに友達ができたその先を見たくて、最初に近づいたのは本当です。いつから健太郎さんのこと好きになったと思いますか?(140文字! そろそろ限界!)」
「どうだろう、気づいたらベタベタしてきてたしな? そうか! 僕の顔が意外にもイケメンだったから好きになったわけか! なわけないよな、この顔で。悲しくなってきた。自分がモテる要素とかTwitterで有名以外ないわ。そういうことでしょ? お前も僕のフォロワー数目当てだったんだああ!!!(140文字だけど、これいつまで続くの!?)」
「違いますよ! スタバで健太郎さんが、私のことえりえりって呼んでくれた時ですよ! 健太郎さんが私のストロー咥えようとした事件で、純粋なこの人なら、もしかしたら素の私を見てくれるかもって思いました。試しに、えりえり呼びさせてみたら、私の体がビクッと反応しちゃって。もうこれは運命ですよ(なんとか140文字……もう無理……)」
「ストロー事件を持ち出すのはもうやめてよ! えりえり呼びで体がビクッとしたから運命ってどんなセンサーだよ!! そうだ、僕だって素の自分が好かれずに、偽りの自分が好かれる虚しさはよく知っている。今までのお前が本当のお前じゃないって言うなら、本当のお前と上手くやっていけるかは分からない(140文字、ここまでか。いや、ここまでか、じゃないだろ! たとえ140文字の制限を超えても! 伝えないといけないことがある! 140文字の制限なんかに、素の自分が縛られてたまるかああああ!!!!!) それでも!!! お前、いや、えりえりのことが好きだぁああああああ!!!!!!!」
140文字のラリーが終わる。
僕たちの生きている世界は厳しい。周りは人、人、人。
人に好かれるために、時には自分を偽ることもあるだろう。
その偽った先には何があるだろうか? 自分という個性が制限された先には、何があるだろう?
多くの人に好かれなくていい。本当に大切な人と、自由に、楽しく、自分の気持ちに素直に、そういう風に生きていきたい。




