30 あなたの物語を、見せて欲しい
「えりか~、引っ越し先のお隣さん、ママの友達なんだけど、息子さんがいるの。健太郎くんって言うんだって、仲良くしてね」
「もう友達は作らない!」
「またそんなこと言って……。そうそう、あんた変わった子好きでしょ? その子も変わった子なのよ。ついったーっていうので有名人なんだって。えっと~、なんて名前なんだっけ。だーくねすぷりん?」
……!?
「だーくねすぷりんす!」
「そうそう、だーくねすぷりんすなんて言ったかしら……ってなんで知ってるの?」
ママの友達の息子がだーくねすぷりんすでお隣さん!? そんなことが!?
「その人って友達がいない大学1年生!?」
「そうよ、今年大学生になる子で、友達がいなくてインターネットばっかりしてるんだって……ってなんで知ってるの!?」
確定だ! 友達がいない大学1年生のだーくねすぷりんすなんて世界に2人もいてたまるか!
* * * * *
2階に上がってパソコンを開く。作戦開始だ。
Twitterで新規アカウントを作成する。アカウント名は……erica。
プロフィールは『だーくねすぷりんすさんに憧れてこのアカウント作りました』っと。
引っ越して、お隣のだくぷりさんに会うや否や、「フォロワーの増やし方を教えてください!」などと言って近づき、懐に入っていこう。そうだ、会う前にTwitterで挨拶しておけば、会った時のインパクトが大きくなるはず! 『だくぷりさんに憧れてこのアカウント作りました! フォロバお願いします!』リプライ完了っと。あ、男はもの知らずの女に対して、自分の持っている知識を披露することに快感を覚える、ということを匿名掲示板で読んだことがある。私のフォロワーが増えない理由を点検しようと、私がどんなツイートをしているのか見てくれるはず。ツッコミどころの多いツイートをしまくっておくか。
『はー疲れた~』『おはようございますです!』『クラスの友達10人と遊んで来ま~っす』『Twitterぽちぽちしてるだけでお金儲けて暮らしていきたいな~』『なんか知らないうちに寝て起きたらフォロワー1万人になってないかな~』『明日隕石が落ちてきて学校休みにならないかな~』『誰かかまって~』数日かけてクソツイートを連投しておいた。
だくぷりさんから返信が来ないな。フォロワーが少なすぎて捨てアカウントと思われている可能性がある。あの方法でフォロワーを増やしておこう。『#いいねした人全員フォローする』で検索っと。
そこそこフォロワーが増えた後で、だくぷりさんにフォロバ催促のクソリプを連投しておいた。うぜえって思われてそう。
なぜ私がだくぷりさんの懐に入りたいか。それはだくぷりさんに友達を作ってあげたいからだ。いや。違う。友達を作ってあげたいのではない。だくぷりさんが友達を作った、その先が見たいのだ。これは自分のためだ。
私はネットで気の合う人とだけ交流することに、喜びを覚えた。一方でこのままでもよいのかという不安、虚しさも抱えた。そのとき、だくぷりさんのツイートを見て、このままではいけないと思い、高校入学をきっかけに、リアルに友達を作り始めた。しかし、虚しさは消えずに残り続け、高宮が転入してきて、すべてが崩壊した。これが私の物語。私のせいいっぱい。私ではだめだった。あなたはどうなの? だくぷりさん。あなたの物語を、見せて欲しい。
 




