29 転落
「高宮みなみさんです!」
え!?
「高宮みなみです! 彼氏募集中です! よろしくお願いします!」
ぱちぱちぱちぱち
拍手の中、男子たちが「俺応募しようかな~」「いや、俺行くわ」「お前の顔では無理だろ!」などとふざけたことを言っている。
「嘘で~す! 彼氏いま~す! 彼氏の大地くんと同じ高校に通いたかったから転入してきました!」
なんじゃそりゃ……。
「じゃあ。高宮、東城の隣の席に座りなさい」
先生が私の隣の席を指さす。
そこで高宮が私に気づく。
「あれ? 東城じゃん! 茂武高だったの? ウケる~」
高宮みなみとは中学3年生の時のクラスメイトで、私が休み時間寝てるとき、隣の席で恋バナをしたり、私の嫌味を言っていた、ザ・めんどくさい女子って感じの女子である。
「お久しぶりです」
「ってかめっちゃイメチェンしてるじゃん! コンタクトにしたの? ウケる~」
* * * * *
「えりかちゃんって実はオタクらしいよ~~」「東城は中学の時、同級生の彼氏を寝取ったビッチらしい!」「休み時間、ネットにクラスメイトの悪口書き込んでたんだって!」「東城に財布盗まれた人もいるってさ!!」「先生に体売って成績上げてたって話も聞いたよ!」
高宮が転入してから、私の周りから友達がどんどん減っていった。
高宮が私の悪口をあることないこと広めていたのである。オタク以外は嘘だよ。
「結局、人から気に入られるように変わっても、その変わった姿を別の人が気に入らなければ同じこと、か」
簡単に友達が増えたように、簡単に友達が減っていく。
うわさがうわさを呼び、あることないことがどんどん拡散されていく。
うわさを信じていない人でさえ、私と関わることによって、うわさを信じて私を嫌ってる人から嫌われるのであれば、私を嫌っているふりをする。そしてどんどんその数が増える。自分の身を守るためには仕方がない。
みんな私が好きなんじゃなかった。人気者の私が好きだったのだ。
いつしか私の周りには誰もいなくなった。
「だくぷりさん、私、だめだったよ。何かが変わると思って、学校に友達いっぱい作ってみたけど、だめだった」
友達っていいことだけじゃない。人間関係はめんどくさい。ネットだけの交流だったらこんなことにはならなかった。
茂武高校での生活に耐えられなくなって、私は転校した。
リアルの人間関係をリセットしたくて遠くの地に引っ越した。
そして新しい高校では、友達は1人も作っていない。




