23 友達という言葉の響き
「桂香さん、竜次くん! 僕たちと友達になってください!!!!!!」
さあ、どうなる!
ドクッドクッドクッ。
心臓の鼓動を感じる。
女の子に告白したときの返答待ちと同じくらい緊張する……。
したことないけど。
「え、いいの? 友達になってくれるの!? 私はもちろんいいわよ!」
桂香さん!!!!
「いいですよ。僕も友達1人もいないんで」
竜次くん!!!!
ってお前も友達一人もいないのかよ! 友達ゼロ人口密度高すぎ!
「めぐみん! 僕たちやったよ!!!」
パチンッ。
めぐみんとハイタッチする。
「けんちゃん! やったね!!! ポケモンゲットよ!!」
めぐみんの口を慌てて閉じる。
「「ポケモン??」」
怪訝そうな桂香さんと竜次くん。
「な、なんでもないよ! 友達になってほしい人たちをポケモンに見立てて、仲良くなることを弱らせる、友達になってください! と申し込むことを、モンスターボールを投げる、なんて言ってたとか思わないでね!」
「そ、そんなこと言ってたんですか、健太郎さん……」
「訳の分からない人たちね……」
怒るどころか呆れを通り越してる2人……。
でもまあひとまず、僕に友達が2人できてしまった……。
友達……か、なんて素敵な響きなんだろう。
* * * * *
素のあたし、かー。
ただただ将棋好きなオタク気質な女の子。
何がいいんだか。
でもそんなあたしをこの男は、きゃぴきゃぴでいけいけな着飾ったあたしより好きって言ってくれた。ありのままの自分を好意的に受け入れてくれた。えりかちゃんが好きになるはずだ。えりかちゃんだって本当は……
「どうした?」
「ん、何でもない」
サークルが終わり、けんちゃんと2人帰路につく。
この人といると素のあたしをめいっぱい出せる。なんて素敵なことなんだろう。
「今度の王将戦楽しみだねー! 藤井聡太竜王VS渡辺明王将!! 四冠VS三冠!! 天下分け目の戦いだよ!!!」
「へー、この前、豊島将之って人が竜王って言ってなかったっけ」
「何も知らないんだね。この前の竜王戦で藤井挑戦者が竜王奪取したんだよ」
「へー」
「へーしか言えないの? もっと興味持ったら?」
今まで自分を偽ってた分、すごく開放的な気分になれる。
「友達が2人もできて余韻が凄いんだよ!!! 将棋どころじゃないの!!」
「はぁ~? 将棋"どころ"とか言っちゃダメでしょ!? あんただって自分の好きなTwitterのこと、Twitter"どころ"とか言われたら怒るでしょ?」
「別に……Twitterとかどうでもいいわ」
「どうでもいいんかい」
何気ない会話でも穏やかな気持ちになれる。
「明日のサークルも楽しみだな~。友達と遊ぶことほど素晴らしいことはないよ」
「楽しみねえ。明日はどんな戦法で桂香さんをやっつけてやろうかなあ」
「僕は棒銀しか知らないからまた新しい戦法教えて。棒銀では竜次くんの守備を崩し切れずにいる」
「まかせなさい!」
えりかちゃんいいなあ……あたしもこの人と……
「そうだ! サークルもいいけど、もう1人友達作らないといけないね! えりかちゃんには、友達3人作るように言われたんでしょ? 次はどんな作戦で友達作る!?」
「ん、友達3人はもうできた! だから今日、このままえりかのところに行く」
「え!? あたしのいないところで友達作ってたの!? いつのまに?」
「3人目は……」
ん? なんだか、心が苦しい。
「お前だ! 桂香さんと竜次くんと友達になれたのはお前のおかげだ。ありがとな、めぐみん! 僕たちだってこれだけ気軽に話せる関係だ。友達と呼ぶにはふさわしい仲だろ!」
そっか、あたしたちは……
友達……
その言葉に、自分の中で形成されていた新たな気持ちの芽が摘まれる。
「そ、そうね! そうよ! あたしたちだってもう友達だよね! そっか! これで3人か! おめでとう! やったね!」
なぜか自然と涙が出てきて、それを隠すように明るくふるまう。
幸い辺りは暗くなっていて、あたしの涙は彼には見えない。
友達……か、なんて悲しい響きなんだろう。




