1 悲報 だーくねすぷりんす、リアバレする
「あの~、"だーくねすぷりんす"さんですか?」
駅前で突然女の子に話しかけられた。
よく小説では、女の子の服装や髪型や容姿を事細かに描写するが、オタクの僕は女の子の服装の種類や髪型の名称をよく知らないため、詳しく説明することはできない。だがこれだけは言える。
超絶かわいいです。
「え、あ……はい? 何のこと?」
「誤魔化さないでくださいよ! あなたのスマホの画面を後ろからずっと見てましたけど、"だーくねすぷりんす"のアカウントでツイートしようとしてたじゃないですか! プロフィール画面開いてたときに見えたアイコンが一緒だったし、ちゃんと フォロー99 フォロワー92467って書いてあったので、"だーくねすぷりんす"のなりすましでもありませんね! あなた、本物の"だーくねすぷりんす"さんですね!?」
リアバレしたくないので、誰にも見えないようTwitterを操作していたはずなのに、なんでバレた!?
はあ、そうなのだ。 僕は"だーくねすぷりんす"なのである。
とはいっても、キラキラネームではなく、"だーくねすぷりんす"は僕のTwitterでのハンドルネームである。
僕は"だーくねすぷりんす"のアカウントを使い、Twitterで日々時事ネタや社会問題に物申したり、老若男女が笑えるおもしろツイートを連投しているためフォロワーが多い。人気者である。超絶面白い人だと思われている。いわゆるアルファツイッタラーである。
しかし実態は……
「ち、違いますよ? な、な、な、何言ってるんですか?」
「歯切れ悪いですね~。じゃああなたのTwitterのアカウント見せてくださいよ!」
「あっ!」
ひょいっっとスマホを奪われる。
「ぷぷぷっ、へ~、やっぱりだーくねすぷりんすさんじゃないですか~」
「うぅ……」
突然のリアバレにおどおどしていると、女の子が近づいてきて、僕の顔を覗き込んでくる。
「だくぷりさんってこんな顔してたんですね~。ふふっ、自分でプリンスなんて言ってるからイケメンなのかと思ってましたよ! フツメンじゃないですか~笑」
フツメンである。
「し、失礼だな! フツメンで何が悪い!」
「あと意外とコミュ障なんですね~笑 ちゃんと目見て話してくださいよ~笑」
コミュ障である。
はあ、バレては仕方がない。
「認めるよ。僕は君の言う通り、だ、だ、だ、だーくねすぷりん……だけど、君はだれ?」
ネットでこの名前名乗るはいいけど現実で名乗るのきっついな。
「だーくねすぷりん? 僕はだーくねすぷりんすです! ってしゃきっと言ってくれないと、私がだれなのか言わない!」
「僕はだーくねすぷりんすです!!!!」
しーん……。
「何か厨二病がいるー!ww」「だーくねすぷりんすだってさwwwwww」「だーくwwwねすwwwぷりwwwんすwww」
周りに人にめっちゃ笑われたし……。
「よくできました! それでは名乗りましょう! 私の名前は……ericaです!!!」
「えりか?」
「はい、とは言ってもericaは本名じゃありませんよ? 私もTwitterをやっているのです! じゃじゃ~ん!」
女の子はスマホの画面を見せてくれた。
そこにはericaと書かれたTwitterのプロフィールが映し出されていた。
ふ~ん、フォロー129 フォロワー437ね~ まあまあじゃん。自己紹介欄には……「だーくねすぷりんすさんに憧れてこのアカウント作りました」か~。へ~、って、えええええ!?!?
「えりかって、あのerica!?」
「あ、認知してくれてたんですね!」
最近やたらとリプライで「だくぷりさんに憧れてこのアカウント作りました! フォロバお願いします!」とか自分の存在をアピールしてくるアカウントがあったから、うぜえって思いながら無視してたけど、
「ここで会えたのも何かの縁ですし、無視してないでフォロバくださいよ! ねえはやく! あと、どうやったら有名になれますか? 私ほどの可愛さだったらフォロワー1万人くらいまでは余裕と思ってたんですが、思ったより増えなくて……。人気者になる方法教えて下さーーーーい!!!!!!」
現実でもうぜええええええ。
「あの~、そろそろ帰りたいんだけどさ。僕、ネットと現実は切り離していて、あんまり干渉してほしくないんだよ。僕、ネットでは人気者だけど、見ての通り現実では、顔も普通だし、話も面白くないどころかコミュ障だから大学に友達1人もいないんだよ。Twitterでも言ってるでしょ? あれネタじゃなくてマジなの。君も僕のファンなら夢が壊れるからあまり現実の僕に関わらないほうがいいよ」
自分で言ってて悲しくなってきた。
帰ろ……。
「友達、欲しいんですか?」
ericaがそう言った。
「もともとだくぷりさんに現実でのかっこよさや面白さなんて求めてませんよ! 私、だくぷりさんのツイートが大好きなんです! いつも笑わせてもらってます! 高校で嫌なことがあったときも、だくぷりさんのツイートを読んで、いつも元気をもらっているんです! 助けられているんです! そんなだくぷりさんが困ってるのなら、今度は私がだくぷりさんを助けてあげたいんです!」
真剣な表情でericaはそう言った。
さっきまでヘラヘラしてたのに。
「助けるって、何するの?」
「ふふふっ、この超絶かわいくてコミュ力抜群で高校の全校生徒&全教師と友達であるericaちゃんが、友達の作り方をあなたに教えてあげるというのです!!!!!!」
「友達の、作り方……?」
「そうです!『友達というのは自然にできるものだ!作るなんてとんでもない!』なんて言いやがる人がいらっしゃいますが、それは友達を作る才能に恵まれて自然に友達ができちゃう、ある意味天才の人が言う言葉なのです! 凡人の間には、友達の作り方は確かに存在するのです!!!!! それを知れば!!! 友達なんて簡単にできるのです!!!!!!」
「友達作るの、手伝ってくれるの?」
「手伝いますとも!!! 私、だくぷりさんが大好きなんですから! 友達を作って、幸せになってほしいんです!」
本当にいい子だ……。
うぜえ、ブロックしたい……と思っていた僕が間違っていた。
ひどいこと思ってごめんよ、ericaちゃん。
「その代わり……」
「え?」
「私にもTwitterで人気者になる方法を教えて下さい!」
それ目当てかーーーー!!!
こうして、ネットで超絶人気者だけどリアルではぼっちの僕と、リアルで超絶人気者だけどネットでフォロワーが伸び悩んでる美少女JK ericaの関係が始まった。