第095話(異常腕飾?!)
「おはよう、シン君」
「……おはようございます」
徹夜明けの少しぼぅっとした頭で部屋を出ると、クーフェさんが笑顔で朝の挨拶をくれる。これから話す内容で気分を害するだろうなと思った僕は、少し間を開けて挨拶を返してしまう。
「ん?元気、ない?」
クーフェさんが心配そうに僕の顔を覗き込む。
「い、いや。大丈夫です」
僕は慌てて手と首を横に振って否定すると、頭をスッキリさせようと、顔を洗いに水場に移動する。クーフェさんが汲んでおいてくれた、汲みたての水はけっこう冷たくて、ぼぅっとした頭を晴れやかにしてくれる。
布切れで顔の水分を拭き取った僕は、朝ご飯を用意するために厨房に移動する。
「仕込んでいる料理はもうないから、今日は簡単な卵料理にしようか。ポメはパンを温めてくれる?」
「わかったのです」
ポメにお願いをしつつ、僕は塩漬け肉を薄くスライスする。そしての平鍋にスライスした肉を敷いて焼き色を付けていく。
塩漬け肉から程よい肉汁が出てきたところで、一度塩漬け肉のスライスを別皿に移し、卵を丁寧に割っていく。そして卵の縁が固まってきた所で、少量の水を入れて蓋をする。
そしてポメに温めてもらった楕円形のパンの真ん中に切れ目を入れて、葉野菜を詰める。その葉野菜とパンの間に、今調理しておいた卵。半熟の目玉焼きを挟んで、更にもう一度火を通した塩漬け肉のスライスも挟む。
言うならば半熟卵とベーコンのカスクートといったところか。それをキリクさんは3つ、それ以外は2つ作る。
「今までの見たこともないものと違って、普通に買えて普通に調理できそうなものだけど、コレはコレでうまいな」
「そうね、コレだったら私でも作れそうだわ」
あっという間に平らげたキリクさんとクーフェさんの感想だ。
「あ、あの……すみません」
その笑顔を浮かべる二人に、バツの悪い表情を浮かべながら、僕は切り出す。
「ん?どうしたんだシン?」
「今日は朝から元気ないわね?」
僕のそんな素振りに心配そうな顔をする二人。
「ぼ、僕。今日一杯で、ここを出ようと思います」
意を決して、そう発言する。その言葉を聞いたキリクさんとクーフェさんは目を真ん丸にして驚きの表情を浮かべる。
「ど、どうして……?お姉ちゃん、何かした?」
クーフェさんは表情を悲痛そうに歪めて聞いてくる。
「い、いや、くーフェさんやキリクさん、この家が嫌だってわけではないんです。ただ……」
「ただ?」
「僕は近い内に、この町も出ようと思っているんです」
「えぇ?!何で、この町が嫌いなの?」
「違うんです。父さんと母さんを……故郷に返してあげたいんです」
僕を俯きながら、悲痛そうな声を漏らす。ちなみにそれは、この町に入る時にポメが作った設定であって、僕にはこの世界に両親に該当する人物はいない。この町も良い町なのかもしれないけど、僕はもっと広く世界を見て回りたいんだ。
「そ、それは……それは当然の思い……よね。で、でも、出発の時までここにいれば!」
「ごめんなさい。クーフェさん、その想いはとても嬉しいんですが、色々な人と縁を結べた町だからこそ、自立した生活にチャレンジしたいんです。ちゃんと稼いで、衣食住をきちんと賄えるのかと」
僕は決意の眼差しでクーフェさんを見つめながら断言する。
「そ……うね。確かにシン君の言う通りかもしれない。ちょっと……いいえ、いっぱい寂しいけど。シン君のこれからを考えたら……ね」
涙を浮かべそうな悲痛な表情で、僕を真剣に見返してくるクーフェさん。
「姉さん、シンがきちんと考えて出した答えだ。俺達は笑顔で送り出してさ、それでこの町にいる間に困ったことができたらフォローしてあげるっていうのが、優しさじゃないのか?」
「そんな……そんな事!わかってるわよ!」
キリクさんがそういうと、クーフェさんはキッとキリクさんの方を向きながら強い口調で言葉を発する。
「困ったら、ぜーったいにお姉ちゃんに相談するんだからねっ!!」
「はい。困ったら必ず」
うるうるした目で僕を諭すクーフェさんの目をしっかり見ながら返事する僕。
「それでなんですが、今まですごく良くしてくれたキリクさんとクーフェさんにこれを」
僕はそう言って、徹夜で作った腕飾りを渡す。キリクさんには赤と橙を基調とした玉石と牙をあしらった腕飾り。クーフェさんには緑や青を基調とした玉石と羽をあしらった腕飾りだ。
「これは?」
「キリクさんは門番なので立ち仕事が多くて、いざという時に外敵から町を守る仕事をされていますので、体力と筋力の腕飾りを。そして魔法が使えるクーフェさんには防護と精神の腕飾りで、両方とも魔素を流し込むと、それぞれの能力が一定時間強化される魔導具です」
「ま、魔導具?!」
「試しに魔素を流してみてください」
「じゃ、じゃぁ俺がやってみるわ」
まずキリクさんが赤と橙を基調とした玉石と牙をあしらった腕飾りを手首に通して、魔素を身体に巡らせる。
すると魔素に反応した腕飾りが一瞬強く光る。
「な、何だこれ?身体が軽い……軽すぎる?!」
キリクさんがそう言うと、利き腕と逆の手で食卓テーブルの端を掴むと、食卓テーブルを平行に持ち上げる。
「な、なにそれ?!」
5人がまとめて座れる、そこそこ大きな丸テーブルを平行に持ち上げるなんて、バカみたいな筋力がないと実現なぞできるわけがない。下に潜り込んで中心の足を掴み、肩で押し上げたり、二人掛かりで両端を持って動かすのが普通だ。
「ど、どれだけ能力が上がってるの!?わ、私の方は?!」
今度はクーフェさんが魔素を放出する。魔法が使えるだけあって、的確に腕飾りへ魔素を送り込めている。
キンッ!
少し甲高い音がすると、クーフェさんの目の前に、薄く光る薄い膜が形成される。
「え?!防護の魔法?!でも、そんな柔じゃなさそうな……?キ、キリクちょっとコレを叩いてみてくれるかしら?」
クーフェさんの指示で、能力が上がっているキリクさんが、部屋の隅に転がっていた木材で、軽く防護を叩いてみる。
「なんかエライ硬そうだけど」
「もうちょっと強く叩いてみて」
キリクさんが、少し力を強めて叩く、それでもビクともしない膜に、少しずつ力を強めていく。
「全然壊れる気配がないわ」
そしてキリクさんの振りがどんどん早く強くなっていき、最後には光る膜に向かって能力増強が掛かった、人の目には捉えられそうもない渾身の一撃を大上段から振り下ろす!
バキィィッッッ!!!
そして大きな音がして砕け散る。
「こっちのが砕けるとかマジかよ……」
キリクさんの手で持っていた木材が木っ端微塵に砕かれていた。そして光る膜はなんとも無いかの如く、薄い光を放っていた。
「どっちも、問題なさそうですね?」
二人の魔導具が正常に作動するのを見届けた僕が確認する。
「「『問題だらけだ』わ!」よ!」
二人のツッコミが早朝の家の中に響くのだった。




