第086話(意気消沈?!)
野外講習を終えて町に戻り、そのまま冒険者ギルドに直行する。いつも煩くて人の話を聞かないケイン君だが、命の危機を感じたのが効いているのか、大人しく引率の冒険者さんについて行っている。
冒険者ギルドに戻り、採取物の鑑定を行い僕はOKをもらう。ケイン君達の方は採取どころではなかったので、講義室に戻り、クーフェさんや引率の冒険者さんから指導を受けているようだ。
僕達はクーフェさんから採取物の鑑定が終わったら先に帰って良いと指示を受けていたので、なんとなく暗い雰囲気が漂う講義室の前を抜けて家に戻るのだった。
今日の夕食は、ケイン君たちのことが気になって、何となく気が乗らなかったのもあり、一角兎の肉と野菜を炒めて、ブラウンシチューを煮詰めたデミグラスソースと絡めた、一角兎の野菜炒めにした。
料理が完成してしばらくすると、キリクさんとクーフェさんが帰ってくる。手早く汗を流して部屋着に着替えると、食卓につく。
「何か大変だったみたいだな」
「あ……うん。ケイン君がね」
「町を出た時と帰ってきた時で、かなり雰囲気違かったからな」
「まぁ、相当反省していたみたいだから、今後は落ち着くと思うんだけど……問題は明日も来れるかどうかね」
「そんなにですか?」
「男のくせにケツの穴が小さいのです!」
「……下品だよ、ポメ」
「相当ショックだったみたいよ。あの後も色々お話したんだけど、ずっと沈んでたわ。エリーさんとかが励ましていたけど、反応は薄かったわね」
「そうですか……でも初心者講習で、その危険さが知れたのはとてもいい事だと思います。いきなり冒険に出てコレだったら、怪我では済まない状況になってたかも知れませんから」
「確かにそうね。そういった初心者の事故を減らす為にやっている講習で、こうやって事故が起きた時、初心者を守れたという実績はとても大きいものよね」
「えぇ、多分ケイン君の事ですから、一晩寝れば恐怖も後悔も薄れて、明日には復活していると思いますよ」
「そうだったら良いんだけどね」
そんな話をしながら、一角兎の野菜炒めに手を付ける。
「おぉ、コレもうまいな。ソースにすごくコクが合って、味気ない野菜でも美味しく食べられる。それにクタクタになるまで炒めているわけではないので、野菜の歯応えも残っていて上手いな」
「そうね。またこのソースがパンにすごく合うわ」
あまり手を掛けずに作った料理だが、野菜を美味しく食べられて、パンにも麦酒にも合いそうだと、クーフェさん、キリクさん共に褒めてくれる。
「明日と明後日の実技で一通り初心者講習は終わりね。シン君はもう冒険者として活動を始めてるし、ファングちゃんもビークちゃんもいるから、明日以降の講習はあまり意味がないかも知れないわね」
「いいえ、身を守る自衛手段はいくらあっても困りませんから。簡単な武器の使い方、取り回し方や魔法をどの局面でどれを使うと効果的かとか、そういった知識は大事ですし」
「……シンは優等生だな。俺は体を動かすことにしか興味がなかったから、実技は喜んで覚えたが、座学や魔法はからっきしだったからなぁ」
「アンタはそうだったわね。折角お姉ちゃんがお願いして枠を確保してもらったのに」
「当時はその有り難さがわからなかったのさ。今は感謝してるけど……な」
初心者講習も後2日だ。それが終わったら冒険者として本格的に活動をしよう。キリクさん、クーフェさんにお世話になるのも、もう少し出終わりだと思うと、少し寂しくもある。でも、これ以上迷惑は掛けられないし、僕も自由に動くことができない。手持ちにも多少の余裕はあるし、初心者講習が終わったら、ちゃんと宿屋を借りて依頼をこなして生計を立てながら、能力を高めていこう。そして僕がこの世界に降り立った意味を探しに行きたい。
食事の後片付けをした僕は部屋に戻るとポメに切り出す。
「初心者講習が終わったら、お礼をしてここを出ようと思う」
「それが良いと思うのです。ここにいると御主人様が巨乳症候群に侵されてしまうこと請け合いなのです!」
「いや、それはないから」
「依頼をこなしつつ、狩りをして素材を売れば生計を立てられることはわかったし、周辺の状況も情報も得ることが出来たから、情報もなしに危険な場所をフラフラする事もなさそうだしね」
「そんなのポメに任せれば大丈夫だったのです」
「うん。ポメには随分助けてもらっているし、叡智の目による情報も貴重だよ。でもその情報は古かったり、細かいところはわからなかったりする。それに僕自身がちゃんと理解できていないと判断できない事もあるからね」
「確かにそーいうこともあるかもしれないのです」
「うん。それにここのところファングとビークも窮屈な思いをさせているしね。全力で翔けたり飛んだりできていないし」
僕がそう言うと、その言葉の意味をわかっているのか、ファングとビークが嬉しそうに鳴く。
そうして僕はお礼を何にしようか頭を悩ませながら、ベッドに潜り込むのだった。




