第083話(近隣敵種?!)
「ウルスの北側は基本的に草原ですが、森林や丘が点在していて、邪鬼族のテリトリーでもあります。邪鬼族はとても力が強かったり狡猾だったりして危険なので、北側には近づかないようにして下さい。では邪鬼族にはどんな種族がいるでしょうか?エリーさん」
「はい、まずは小邪鬼ですよね?」
「そうですね、ではオリバー君、小邪鬼の特徴は?」
「えっと、人間の子供くらいの大きさで、個体としては貧弱だけど、繁殖力が強く群れで襲ってくるから注意が必要……ですか?」
エリーさん、オリバー君共に、しっかりとガイドブックを読み込んでいるようで、スラスラと回答する。
「はい。その通りです。さらに言うならば主に洞窟を住処としているので夜目が利きますので、夜の襲撃には特に注意です。そして、女性には大変言いづらいのですが、亜人種全てを母体とできるため、好んで亜人種の女性をさらう習性があります」
クーフェさんがやや伏し目がちに目を背けながら説明する。
「他の邪鬼族はどうでしょう?」
「はいっ!はいっ!!」
クーフェさんが更に問いかけると、ケイン君が元気よく挙手する。
「はい、じゃぁケイン君」
「はい!鬼人です!」
「……ケイン君。鬼人は亜人種の一つの鬼人族であって、邪鬼族ではありません。鬼人にそれを聞かれたらタダじゃ済まないことになりますよ」
「シン君。鬼人族と邪鬼族の違いは何でしょう?」
ケイン君が馬鹿な回答をしたせいで、そのお鉢が僕に回ってきた。
「大きくは亜人種に対して有効的か敵対的か、ですね。とはいえ人の中にも善人と悪人がいて、悪人の場合は邪鬼族よりも残虐な事をすることもあるので、その線引は微妙だと思いますが」
「その通りです。種族として亜人種と友好関係にないのが邪人種です、邪人種の中に邪鬼族、邪獣族、悪魔族などが分類されています」
僕の回答にクーフェさんは満足そうにうなずくと説明を続ける。だが、その内容は真実とはかなり乖離しているので、ポメが盛んに首を傾げているが、僕は見て見ぬ振りをする。
あの遺跡の中で知った内容なんだけど、そんな種別や分類は人間が勝手に決めた理屈であって、有効的な邪鬼族、邪獣族、悪魔族も存在するようだ。とはいえ、ほとんどが敵対的というか、価値観が違いすぎて手と手を取り合えないので、こんな知識を受け継いで亜人種の天敵のような見方になってしまっている。
まぁ、小邪鬼なんかの行動理由は、お腹が空いたから、仲間を増やしたいからという、生物の根本的欲求に応じて動き、そこに人が持つ倫理観などあるわけもないから、手近な所から奪っていこうとしているだけなんだけど。だからといって、はいそーですかと奪われて良いものでもないから、敵対することになってしまうんだよね。
とにかく、北側にはそういった邪人種の集落があるようだ。腕に覚えのある冒険者になるまでは立ち入らないほうが良いかもしれない。いくら無尽蔵の魔力があると言っても、数の暴力に頼られたり、知的な罠にはめられたら危ないからね。
「西側には他の地域と繋がる道が続いています。道の北側は邪人種の住処、南側はアーグ大樹海と危険なようですが、それなりに人通りがあるのもあって、そこまで危険は少ない状況です。ただ深夜に少人数で行動していたパーティが襲われて全滅するケースもあるので油断は大敵です」
ここ樹海の町ウルスは、アーグ大樹海に挑戦する冒険者が集まり栄えてきた町なので、国の要衝というわけでもないので、主街道から一本別れた道の先にあるようだ。そして街道の南北を危険地帯に挟まれていれば、それは危険だろう。ただ、見通しの良い道のようなので、昼間は比較的安全なようだ。
こうして町の東西南北の説明を受けて判断すると、僕達が次に挑戦する狩場は東の町寄りから、インバース山脈までになるだろう。インバース山脈の麓まで行くと強敵がいそうなので、町から適度に離れた場所までが第一目標になりそうだ。
「まず初心者は南の草原で狩りや採取の経験を積み、徐々に東側に進出することを勧めているわ。そして南の草原が比較的安全とはいえ、あのアーグ大樹海と隣接している場所、いつアーグ大樹海に住む凶悪な魔獣が現れるかわからないので注意は必要よ。1年に数回は、アーグ大樹海から出た魔物に襲われて被害者が出ているから気をつけてね」
なるほど、そこそこ大きな川に遮られているが、向こう岸を繋ぐ橋もあることだし、たまにはこちら側にもやって来ることがあるのか。
僕が戦った巨大岩猿なら簡単に川を飛び越えそうだしな。でもあのクラスの魔物がこの町を襲ったら、ひとたまりもない気がするけど。
「では今日は昨日の復習も兼ねて、南の草原に出て薬草の採取をしてみましょう」
「おーっ!!腕がなるぜ!!」
「……戦闘はしませんからね?」
「えっ?!じゃぁ何のために……?」
「……採取って言ってたでしょバカ……」
ケインくんの勘違いにエリーさんの辛辣な言葉が飛ぶ。
しかしケイン君。君は筋金入りのバカだね。脳筋だし。
そうして僕達はクーフェさんと冒険者の方の引率を受けて南の草原に向かうのだった。




