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第080話(絶品出汁?!)

「今日は兎の一角亭のゼクスさんの所だったよね」

「そうなのです。昨日約束したことを確認なんて、まだ大人にもなっていない身体で耄碌したんです?」

 僕が念の為にポメに行動を確認すると、僕の股間をマジマジと見ながらポメが返す。


「念の為に確認しただけだよ」

「まぁ、それなら良いんですが、まだ子供の御主人様(マスター)は朝オッキはしていないようですね」

「そ、それはいいから」

 視線をそらさないポメに何となく隠しながら、僕は身だしなみを整える。


 今日の朝ご飯は昨日の夕飯の残りの野菜肉巻を軽く温め直して、パンと一緒に出す。あとフォンをベースに味を整えたスープも用意した。


「流石に昨日の冷えた麦酒(エール)よりはって感じだが、パンにも合うな、コレ」

「朝から飲むわけにもいかないからね。で、今日もゼクスさんの所だったかしら?」

「はい。研修が始まる前にパッと行ってこようかと思います」

「遅刻しないようにね」

 キリクさんが物寂しそうに言うのを嗜めながら、クーフェさんが僕の行動を確認しつつ、ウィンクをしながら、忠告をしてくれる。


 みんなの朝食が終わった後はポメと一緒に後片付けをして、みんなと一緒に家を出る。


「じゃぁ、行ってくるわ」

「気をつけてね」

 キリクさんが片手を上げて門の方に身体を翻す。


「私もギルドに向かうわね。講義には遅れないように、ね?」

 クーフェさんもウィンクと共に手をヒラヒラ振りながらギルドの方へと向かっていく。


 僕はポメとファング、ビークと一緒に兎の一角亭へと足を進める。二人は早く起きて家を出るタイプなので、まだ朝日が昇ってそんなに時間が経っていない。今から兎の一角亭に行って、少し時間がかかったとしても、十分講義には間に合う時間だ。


 朝日が昇る前から用意を進めている市場は既に活気づき始めているが、周りの家に関しては、ようやく起き始めたような様相だ。

 だから道にも人は少なくて、僕たちはすんなりと兎の一角亭に着く。


「おはようございます!」

 裏手にある仕入れ用の入口の前に行き、僕は大きな声で挨拶する。


「あぁ、君か!入ってくれ!」

 中から気力の籠もった声が返ってくるので、僕はそのまま兎の一角亭に入っていく。


「とりあえず、昨晩はずっとこうやって鍋を確認していた。最初は半信半疑だったが、ずっと煮込んでいるうちに実感が湧いてきた」

 鍋の前から動かずに、中を凝視したままのゼクスさんが話し始める。


「最初はすごいアクがでて、コレが食い物になるのかと思っていたんだが……数時間煮込んでアクを取り続けたら、美味そうな匂いが漂ってきやがった。見てくれ」

 僕はゼクスさんに促されるままに、鍋の中を覗き込む。まだ濾していないから、野菜や肉のクズが多く浮いているが、スープは澄んだ黄色になっており、表面には脂の層ができていた。


「いい感じですね。では濾していきましょう」

「濾す?」

「えぇ、骨、肉、野菜から十分に旨味が出汁(フォン)の方に抽出されたので、骨、肉、野菜を取り除くんです」

「コレは料理に使えないのか?」

「はい。旨味が全部出ちゃってますので。食感も悪いですし」

「そうか……」


 鍋から大きな骨、肉、野菜を取り出すと、大きな布巾で包み、それらからの出汁(フォン)を最後まで絞り出して捨てる。

 新しい鍋を用意し、その鍋に蓋をするように大きな布巾を被せる。その上から煮込んだ鍋をから向けて出汁(フォン)を注ぎ込む。布巾が肉や野菜のカスを受け止め、純粋な出汁(フォン)のみが新しい鍋に注がれていく。

 受け止めた布巾の方も、出汁(フォン)を最後まで絞り出す。すると鍋に残ったのは琥珀色の済んだ出汁(フォン)のみになる。


「これか……なんというか、すごい綺麗で馥郁とした香りがするな。味見していいか?」

「えぇ、何も調味料を入れていないから、美味しいかどうかは微妙ですが」


 ゼクスさんは匙で出汁(フォン)を掬うと、口に含む。味を確かめるように目を閉じて、出汁(フォン)を舌の上で転がす。


「……旨い。俺に出せなかった一角兎(ホーンラビット)の旨味だ。今まで知らなかった己が身を恥じるべきか、今日にコレを知れた事を喜ぶべきか」

 そう天を仰いだゼクスさんがゆっくりと僕へと視線を移すと、僕の両手を握る。


「ありがとう。コレで俺の一角兎(ホーンラビット)料理の幅が無限に広がる。君にはどんな感謝をしてもし足りない」

「い、いや。僕はただ……それにしても墨の作ったのと香りが違いますね。おそらく一緒に煮込んだ野菜の種類と質が違うんでしょうか。さすがは本物の料理人さんです」

「そ、そうか。一角兎(ホーンラビット)との相性が良くて香りが強い野菜をチョイスしてみたんだ」

「なるほど、この出汁(フォン)を使った料理、楽しみにしてます」

「あぁ、この出汁(フォン)に合う絶品の一皿を必ず作るから、その時は是非ご馳走させてくれ!」

「はい!」


 そしてすぐに、どのような料理にするかと没頭するゼクスさんに別れを告げて、僕たちは冒険者ギルドへと向かうのだった。


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