第070話(四方良好?!)
「おぅ、来たか」
クーフェさんが二階の行き止まりの部屋をノックすると、中から返事があり、僕達は扉をくぐる。すると、野太い声をした、頬に傷のある偉丈夫が、書類の束が積まれた頑丈そうな机に座り、書類を持った手をペラペラ振りながらこちらに獰猛な笑みを送ってくる。
「冒険者ギルドに居る人は、なんでこうもむさ苦しいのばかりなのです?」
ポメが溜息混じりに言う。
「ガハハハハハ!生き残った冒険者っつーのは、そんなヤロウばかりなんだよ。基本的に優男なんて言うのは大成しないことが多いから、どうしてもギルド関係者はムサい男どもになるっつー寸法よ」
獰猛そうな人はポメの発言を気にもせずに、豪快な笑い声を上げる。
なるほど、確かに大成する冒険者と言えば、ベテランの筋骨隆々な人が多そうだ。
「まぁエルデのギルドマスターは優男だけどな。ガハハハハハ!」
「ギルドマスター、この子が話をした例の子です」
「クーフェの嬢ちゃんのお気に入りの子っていうやつか。こんな子供なのに罪作りだぁな。他の奴らがやっかんでたぜ?」
「彼らには言わせておけば良いんです。どうせ胸が大きければ誰でもいいんですから」
「ガハハハハハ!言うねぇ嬢ちゃん。だが間違っていねぇよ」
「……でしょうね」
殺気から馬鹿笑いをしているギルドマスターと、冷たいジト目でギルドマスターを見るクーフェさん。
「おっと、俺はこのウルスを任されているギルドマスターのザックっていうもんだ。見ての通り昔は冒険者で腕を鳴らしていたっていう奴だ。まぁある程度になったんで、後輩の育成なんていう慣れないものに手を出して、冒険者ギルドのギルドマスターになっちまったモンだ。よろしくな少年」
「あ、はい。僕はシン・アラガミです。よろしくお願いします」
「苗字持ちか。っつーと帰属関係なんだが、アラガミっつーのはあまり聞かんな」
「御主人様の両親は別大陸からやってきて行商人をしていたのです」
「なるほどな。じゃぁ俺が知らんのも無理ないってことだ。ちなみにそのちっこいがヤバそうな魔物は何だ?」
「この二匹は僕の仲間で、風狼のファングと、火燕のビークです」
ギルドマスターのザックさんに色々説明し、ファングとビークの紹介もする。
「んあ?風狼と火燕?」
ギルドマスターのザックさんが訝しげに首を捻る。そして席を立つと僕の側にやってくと、ファングとビークを注意深く観察する。
「シンとやら、嘘は良くないな。その狼、ファングだっけか?そいつはランクAの魔獣風爆狼、鳥のビークとやらはランクBの火喰鳥だな。まぁ滅多にお目にかかれる魔獣じゃないから、経験豊富な冒険者でもないとわからないかもしれんがな」
「……えっと」
「あぁ、いい。そんな魔獣を連れていたら町では大問題だ。しかも守護獣の契約もしていないのにお前によく懐いているようにみえるから危険でもないだろう。俺が黙っていればわからんから気にするな」
ファングとビークの種族をあっさり見抜いたザックさんはそう言うと、書類の束が積まれた机に戻る。
「でだ。話っていうのは料理のことだったな。さっきからずっと堪らん匂いがしていたんだが、それか?」
僕の皿を見ながらザックさんが言う。僕は今更感を感じながら、トレイに乗った一角兎のステーキ、リコピルソース掛けを机に置く。
ザックさんはその料理に視線を向けて、しばらく真面目な顔で考え込んでから、フォークで一角兎の肉を突き刺し口に運ぶ。
「っ!!!?」
驚きで目を見開いたまま静止し、ハッと気がついたかのように咀嚼を始める。何度か咀嚼をし、一角兎の肉を喉に流し込むと、目を瞑り余韻を楽しむ。
「なるほどな、皆が夢中になるのも頷ける。これは食文化の革命だ」
ザックさんがそう言ったのを聞いて、僕はホッと胸をなでおろす。どうやらザックさんにも気に入ってもらえたようだ。
「知っての通り、この樹海の町ウルスは王都からも離れた辺境も辺境だ。しかもこの先には町もなく、アーグ大樹海が広がる寸止まりの町になる。そのため魔物も豊富だが、強力過ぎる魔物が多く、あまり冒険者以外の者に好かれることが少ない町だ。その町の特産品は魔物の素材ぐらいしかなかったんだが……この料理なら特産品になり得る!一角兎はかなりの数生息しているから、この町の名物としてこの料理を広めれば、食事が今一と町に居着いてくれなかった冒険者への一手にもなる!!」
ザックさんは立ち上がると拳を振り上げ熱弁を振るう。
「シンとやら。この料理のレシピをこの町に教えてくれ。それ相応の対価は用意する」
「は、はい。こんなもので良ければ……」
「ありがたい。ならばこの料理で町おこしを始められる」
「対価は……この料理には血抜きした一角兎の肉が必須。そうだな?」
「は、はい」
「ならば冒険者ギルドが冒険者達に血抜きの技術を教え、血抜きした一角兎を今より高値で買い取ろう。そしてその肉を卸す時、その1割をシンに納めるとしよう」
「ギ、ギルドマスター!それは?!」
「普通の一角兎の買取額は銀貨3枚ってとこだ。血抜きして納品する事により銀貨4枚での買取とする。それを卸すとなると銀貨5枚。その1割だから、銅貨50枚ってとこだな」
「この料理が広まったら、冒険者ギルドの酒場、町の料理屋で爆発的に広まるのは間違いない。1羽あたり10人前くらいは取れるから……そうなると一日の需要量は少なくとも20体以上。という事は一日銀貨10枚。一ヶ月で銀貨300枚にもなる!」
ザックさんの説明を聞いたクーフェさんが驚きながら計算する。
一日銀貨10枚って1万円相当だから、もうそれだけで食っていけるぐらいの計算になる。
「い、いや。そんなにもらったら悪いです……」
「何言っているんだ。さっきの料理、普通に銀貨1枚で売れる。材料費で言えば、一角兎の肉を工夫して取ることで銅貨40枚、その他の野菜類で銅貨10枚としても、利益は5割も確保できる!冒険者も1羽あたりの収入が3割増、ギルドも卸値で2割の利益も見込みつつ需要が激増することで利益額も期待できる。ギルド、冒険者、料理店、シン達の4者がメリットのある4方良しの施策なんだ。気にせず受け取ってもらいたい」
「は、はい。でしたらありがたく頂くことにします」
こうして僕はクーフェさんに恩返しする為の料理が、大きな収入になってしまった事に戸惑いつつも、これから生活が安定する事への安心を同時に覚えるのだった。




