第069話(冒険者虜?!)
後頭部を強打したケインを残して、僕達は冒険者ギルドにやってきた。
「とんだ時間の無駄なのです」
ポメがプリプリしながら怒っている。ケイン達に足止めされたのが気に食わないらしい。ファングとビークは何時も通り大人しくついてきている。
「今日は料理を教えるんだっけか」
「おっぱいオバケがそんな事を言っていたのです」
ポメはまた失礼なことを口走った途端、背中に寒気が走ったのか、身体をビクッとさせるとキョロキョロと周りを見渡す。
「そんなにビビるなら言わなきゃ良いのに……」
「お、おっぱ……事実を言っているだけなのです」
僕がツッコミを入れると、脊髄反射で言葉を返しかけたが、思い留まって言い直した。
「料理かぁ。たしかにこの町で食べている料理よりは美味しく出来た気がするけど、採用されるもんかなぁ」
「御主人様は、この世界の食事事情に疎すぎるのです。革命的な一皿になるのです。ポメは、ポメは負けてないですけど!!」
負けていないをやけに強調しながらも、自信なさげな僕に活を入れてくれる。
そんな話をしながら冒険者ギルドに入り、僕達を見つけたクーフェさんが酒場の料理人のもとに連れて行ってくれる。
「クーフェ嬢ちゃんの頼みだから聞いてはやるけどよ。大したもんじゃなかったら作らねぇぞ?」
どこからどう見ても歴戦の冒険者風の大男が、剣呑な視線で僕を射抜く。
「は、はい!ぼ、僕も頼まれただけなので!」
あまりの威圧感にビビりながら僕はそう回答する。
「なんだ、坊主もクーフェちゃんに振り回されたクチかよ。俺は元冒険者のゲイルっつーもんだ。お互い厄介なのに目をつけられたってことだ、ガハハハハハ」
そんな僕の様子を見た料理人のゲイルさんが豪快な笑い声を上げる。
「まぁ、まずはお手並み拝見ってやつだな。オックスから肉は預かってるから、そいつを使いな」
ゲイルさんは自分の背後にある肉の塊を、肩越しに親指を立てて指し示す。
「えっと、リコピルの実とガリクの根、オリガの粉末はありますか?」
「んー?リコピルの実とガリクの根はあるが、オリガの粉末はねぇな」
「そうですか。じゃぁオリガの粉末は手持ちのを使います」
「リコピルの実とガリクの根はそっちだ」
僕が野菜があるかどうか確認すると、部屋の隅っこの木箱を指し示される。その木箱の中を覗いてみると、今朝買ったのであろう新鮮なリコピルの実が入っていることが確認できた。ガリクの根も下の方に入っているようだ。
食材を確認した僕は、先日クーフェさんの家で振る舞ったように、一角兎のステーキ、リコピルソース掛けを作っていく。
厨房に一角兎の肉のジューシーな香りと、リコピルの酸味を含む香り、ガリクの根の食欲を剃る香りが充満する。
その香りを嗅いだゲイルさんの喉がゴクリと鳴る。
「こりゃ、食べるまでもなく、美味いっていう匂いだな」
凶悪な顔から涎が垂れそうな表情になっているゲイルさん。期待に応えられると良いんだけど。
「な、なんだ?この匂いは」
「おい!ゲイルの旦那!!この匂いのやつを一皿……いや3皿くれ!」
「くぅぅぅぅ、こりゃ匂いだけで酒が飲めるぜ。嬢ちゃん麦酒を一杯くれや!」
匂いにつられて酒場に入っている冒険者さん達から、いきなり注文が入る。
「これは試作品だ、まだ出せねぇよ!!」
「そ、そんな!匂いだけで我慢しろって、そりゃ酷だぜ!ゲイルの旦那よぉ!」
「頼むって……ってお前はこの間いたちびっこじゃねぇか。お前がこの匂いの料理してんのか?」
ゲイルさんが大声で叫んだのを聞いていた冒険者の一人が、ジョッキを片手に厨房の中を覗きにやってきて、リコピルのソースを作っている僕を見て話しかけてくる。
「なぁ頼むよ。チコットでいいから、そいつを食わせてくれよ」
子供の僕に手を合わせてお願いしてくる冒険者さん。僕はゲイルさんを見上げると、ゲイルさんはやれやれとした顔をする。
「少し多めに作れるか?」
「あ、はい。もう何皿分かは材料がありそうなので。使っていいですか?」
「あぁ、アイツラ等に1皿、試食用に2皿あればいいだろう。ついでだアイツラにも感想を聞かせてもらうとするか」
ゲイルさんが許可をくれたので、僕は1皿を完成させ、2皿分の材料で調理を始める。
「おらよ、試食させてやるから、しっかり感想をよこせ」
完成させた1皿をゲイルさんが冒険者さんの卓に運ぶ。
「うおぉぉぉぉぉぉ!」
「すげぇなこれ。匂いだけで俺はたまらん!」
「匂いだけで酒が進みそうだぜ!!」
「じゃ、じゃぁ一切れ……」
皿が置かれて興奮する冒険者さん達。そして、冒険者さん達は一角兎の肉をフォークで突き刺し口に運ぶ。
「?!!!!」
「あっ?!!!!」
「なっ!!!!?!」
「う……」
「「「「うめぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」」」」
口に入れた瞬間、固まってしまった冒険者さん達だが、その呪縛が解けた後、冒険者ギルドに響き渡るような大声で絶叫する。
「なんだコレ!肉がすっげぇ柔らかくて!!」
「噛んだ瞬間肉汁がぶわぁぁぁって」
「この濃厚なソースはなんだ?!酸味と甘味と旨味が猛然と襲ってきやがる!!」
「肉汁とこの赤いソースが絡まって、ありえない美味さに!!」
「合うっ!麦酒とすっげぇ合う!!」
よかった、冒険者さんは大絶賛してくれているようだ。
「とりあえず、アイツラには大受けだったみたいだな」
「はい。良かったです。もう2皿も出来ました」
「みたいだな。じゃぁ試食させてもらおうか」
ゲールさんが僕の所に戻ってきた時には、僕はもう2皿分を完成させていた。
「?!!!!!」
そしてゲイルさんが一角兎の肉を口に含むと、目を見開いて固まる。
「な、なるほど……アイツラが絶賛するのもわかる。これは異次元の美味さだ」
ゲイルさんはゆっくりと味わうように咀嚼すると、驚きの表情のままコメントする。
「肉の焼き加減が丁度いいのもあるが……やはり秘訣はこのソースか」
リコピルのソースだけを掬い取り口に運ぶ。そしてした全体で味わったゲイルさんが目を閉じならいう。
「なぁ、もう一皿くれよー!」
「もっと、もっと食いたいぞぉぉぉぉぉぉ!!」
酒場では冒険者が大騒ぎしている。そんな喧騒の中、したり顔でクーフェさんがやってくる。
「シン君の料理、凄かったでしょ?ゲイルさん?」
「あぁ、嬢ちゃんがあんなに推したのには納得したぜ。この料理は名物になって、とんでもない売上を叩き出すのは間違いないな」
「うんうん。でしょう、そうでしょう!」
クーフェさんが胸を張りながらドヤ顔で言う。そして僕の方を向いてウィンクをする。
「で、ギルドマスターが呼んでるわ。シン君。その試食用の1皿を持ってギルド長の部屋に行くわよ」
「ギ、ギルドマスター?!」
「この匂いがギルドマスターの部屋にまで届いてね。何事かと聞かれたんで全部話しちゃった☆」
舌をペロッと出しながらクーフェさんが可愛く言う。そんな可愛く言われても……
そして、もっとよこせと大騒ぎになっている酒場を横目に、僕はクーフェさんに案内されてギルドマスターの部屋に向かうのだった。




