第061話(怒通越呆?!)
「量が多いんで、ちぃと時間がかかるな。半刻くらいして、ギルドの受付カウンターに行ったら手続きしてもらえるはずだ」
「あ、あと一角兎を角はいらないですが丸々2羽は持ち帰りたいんですが……素材納品は確か角だけだったと思いますので」
「なるほど、これだけしっかりと血抜きしてきたって事は自分で食うんだな。肉だけでいいか?」
「いいえ、とりあえず、頭、手、足、胸、腹くらいに骨ごと切り分けてもらって、内臓も含めて全部もらえたら嬉しいんですが」
「ほう、骨ごとね。内臓もっていうのは珍しいな。食えるのか?」
「草食獣なのでおそらくは……調理してみないとわからないですけど」
オックスさんに切り分けた一角兎の一部は納品しないで引き取りたい旨を話しておく。いい感じに血抜きをしてきた僕達を信用してくれたのか、僕の行動に興味津々な態度を示す。
「できたら、坊主の調理したやつを食ってみたいもんだ。血抜きがわかっている坊主なら、旨いもん作りそうだしな」
「わ、私もちょこーっとだけ、きょうみあります」
ここでオックスさんとギルド員さんの胃袋を押さえたら、色々融通を聞いてもらえそうな気がしたので、僕は快く快諾する。
「わかりました。お世話になっているクーフェさん優先ですが、余ったら持ってこさせてもらいます」
「何だ、坊主が昨日からクーフェちゃんの所に世話になっているっていう子供かよ」
「あ、はい。クーフェさんには良くしてもらってます」
「なるほどなるほど、じゃぁ、余ったら是非よろしく頼むわ」
「はい。わかりました。では納品物の確認を宜しくお願いします」
僕はそう言って納品カウンターを後にする。
「御主人様は一角兎の内臓を食べるとか、野蛮人なのです!」
「確かに野生の獣の内臓には寄生虫とか菌が多そうだから危ないっていうのはあるけど……」
おそらくポメの時代だと無理して野獣の内臓を食べる文化はなかったんだろうな。それに、それを食べて死傷者が出る場合、忌避されるようになるからね。
「ちなみに半刻って1時間でいいの?」
「1時間?って何です?」
オックスさんに半刻と言われたが、確か刻って時代によって単位が変わるんだよね。ちなみに1時間といった時間概念は無いらしい。
「一日を朝6つ、夜6つに刻んで、刻という表現をするのです」
時計がないので1日の正確な時間がわからないけど、1日を12個に刻むということは、一刻が2時間と見て間違いはなさそうだ。
「じゃぁ、依頼でも見ながら待っていようかな」
僕はそう言って冒険者ギルドに戻る。冒険者ギルドに戻ると、1Fの酒場にはさっきよりもお客さんが増えていて、席の8割が埋まっているような感じだ。
そんな感じにごった返しているので、僕がギルドに入っても、いつものように難癖を付けられることはなかった。
そのまま依頼板の前に立ち、張り出されている依頼を眺める。今日の納品で一気にEランクになるだろうから、DとEの依頼が次のターゲットになる。
「小邪鬼の討伐、牙大猪の討伐、薬師の護衛、商人の護衛、下水道調査か……」
討伐依頼、護衛依頼、調査依頼あるが、護衛依頼は僕達の年齢だと信用されないから難しいだろう。牙大猪の討伐は深夜に農作物を食い荒らしている牙大猪を討伐して欲しいとのことだから、深夜対応をしなければならず、受注は難しそうだ。そうなると小邪鬼の討伐、下水道調査が受けられそうな依頼だ。
クーフェさん宅で下水道が整備されていないと思ったのだが、依頼があるということは下水道もあるらしい。
「ポメ、小邪鬼って?」
「御主人様は本当に無知なのです。小邪鬼といえば、汚らしい御主人様みたいな魔物なのです」
「僕みたいな?!」
「小さくてずる賢くて狡猾で残虐な女好きなのです」
「僕は狡猾でも残虐でも女好きでもないんだけど!」
「小さいくてずる賢いは認めるのですね」
「それも認めたくないだけどなぁ……」
「人間の子供くらいの大きさですが、人間の子供くらいの知性が有り、繁殖力が旺盛で残虐な魔物です。集団で人間を襲い、男は殺し、女は犯して孕ませる人間の天敵のような魔物です。棍棒や石斧、人間から奪った武器を使ってくるので油断禁物な敵なのです」
「なるほど。僕が思い描いている小邪鬼と近い気がする。それの討伐かぁ、僕達だと人数が少なすぎて多勢に無勢で面倒なことになりそうだ」
「個々の強さは大したこと無いので、各個撃破できればポメたちでも十分討伐できると思うのです。あまり規模が大きくない内に亜人型の魔物との戦闘経験を積んでおく事は悪くないと思うのです」
僕が小邪鬼について聞くと、毒舌を交えながらも丁寧に教えてくれる。そして、獣系としか戦ってこなかった点も指摘される。確かにいざという時に人型の魔物に戸惑ってしまったら、命を落としてしまうことにもなりかねない。
「そろそろ小邪鬼の討伐とかいけるんじゃないか?」
僕が次は小邪鬼の討伐かなぁと考えていると、僕の頭の上の方からそんな声が聞こえてきたので、斜め後ろを見上げると胸部鎧を身につけた熱血漢っぽい男性と、神官っぽい服を身にまとった糸目の男性、革鎧を着込んだ勝ち気そうな目をした女性、物静かそうなローブを着た女性が、僕の見ていた小邪鬼を指差して話していた。
年齢は全員20代といったところか、身なりを見てみると、駆け出しから少し成長した冒険者といった風に見て取れる。というのも身につけている防具や武器には、真新しくもない幾つかの汚れや傷がついていたからだ。
僕とポメはその冒険者パーティに譲るように依頼板から離れると、クーフェさんから声が間延びした声が掛かる。
「シン君、ポメちゃん。納品終わったから、窓口まで来てね」
「はい、ただいま」
僕は即答すると窓口に向かう。窓口では、笑顔を貼り付かせながら、コメカミに青筋を立てているクーフェさんが待っていた。
「シン君。お姉ちゃん、危ないことはしちゃダメって言ったよね?」
「あ、はい。危ないことはしてません」
「じゃぁ、Fランク討伐依頼の毒蛇が3体2セットの6体、素材納品の一角兎の角が4本2セットの8本に毒蛇の毒袋が2袋3セットの6袋、Eランク討伐依頼の雑食モグラが5体ってどういう事なの?」
口の端をヒクヒクさせながら詰め寄ってくるクーフェさん。
「あ、うん、えっと。ファングとビークがものすごく活躍して……」
「シン君たちが街を出ていったのが昼過ぎ、返ってきたのが夕方。時間にして2~3刻。その間に薬草の採取をしながら19体の獣の討伐。ということは4半刻に1体以上のペースでの戦闘……これの何処が危険じゃないと言うのかな?」
「え?い、いや、それくらいだったら普通じゃ……?」
「ふつうじゃありません!!駆け出しの冒険者だったら、一角兎2体、毒蛇1体あたりでギリギリです!その6倍、しかも雑食モグラの討伐とかありえないから!」
タジタジとする僕と、腰に手を当てて物凄い剣幕のクーフェさん。それにしても普通の冒険者が一角兎2体、毒蛇1体あたりでギリギリとは、想定外も良いところだ。
「御主人様は常識をお母さんの中に忘れて生まれてきたようなのです!」
「いやいやいや、草原の敵は基本的に突進とか奇襲に気をつければ、かすり傷を負うレベルじゃないと思うんだけど」
「その奇襲が厄介なの!毒蛇や雑食モグラの接近に気づかず大怪我を追う駆け出し冒険者は多いのよ?」
あー、僕は全探索を展開していたから、ほぼ奇襲を受けないからか。と今更ながら自分の魔法は素晴らしいと認識し直す。
「じ、次回からは気をつけます」
「本当に気をつけるのよ?お姉ちゃんは油断して大怪我を負った駆け出し冒険者は何人も見てきているんだから」
「は、はい。それで納品の方は……」
とりあえず、頭を下げてクーフェさんの怒りを収めてもらう。
「採取依頼の薬草は3セット分、これはとても良い品質での納品で問題なし。Fランク討伐依頼の毒蛇が3体2セットの6体も間違いなしどころか、傷が首周りにしかないので素材としての品質は最高ランク。毒蛇の毒袋もキチンと傷もなく採れて2袋3セットの6袋。一角兎の角が4本2セットの8本も自然についてた傷以外に大きな傷なし、雑食モグラ5体も首筋の一撃のみの傷だけなので、素材の品質は最高ランク。したがって今回のポイントは180ポイントね。それで報酬は銀貨187枚ね。一回目の依頼でこの結果……お姉ちゃん頭が痛いわ」
予想以上に評価してもらえたみたいで、ポイントも報酬も上々みたいだ。この調子で出来るのならば、当面の生活費には困らなさそうだ。
「冒険者ギルドカードを更新するから、貸して頂戴」
コメカミを押さえて首を振るクーフェさんに冒険者ギルドカードを手渡すと、クーフェさんはカードを持ってカウンターを離れる。
「はい、これが新しい冒険者ギルドカードよ」
すぐに戻ってきたクーフェさんが、鉄のカードを手渡してくれる。どうやらランクに応じてカードの材質が変わるようだ。
「私ももうすぐ仕事が終わるからちょっと待っててね」
そうして僕達はクーフェさんが仕事を終わらせるのを待ち、一緒にクーフェさんの家に戻るのだった。




