第058話(血抜魔法?!)
草原をしばらくウロウロしていると、少し開けた場所に草の群生地を見つけた。
「もしかしてあれかな?」
群生地に近づいて、生えている草をよく見ると、確かに依頼にあった、採取物で間違いないらしい。この草の葉は出血を抑えて傷口を塞ぎやすくする成分が含まれている草で薬草として使われるらしい。
「根っこから抜くと次生えてこなくなるから、茎から伸びる枝葉の部分だけ千切るんだったっけ。しかも茎にはなるべく傷はつけずに、芽が出そうな枝葉は除くっと……」
冒険者ギルドで教えてもらったとおり、大きくなった葉だけがついている枝だけ千切る。茎の部分ではなく、枝葉の茎に近いところに爪を立てて千切ることで、茎への損傷がないようにする。面倒くさがって根ごと引き抜いていってしまう人も多いらしいけど、そうすると荷物としてもかさばるし、評価も落ちるし、次の採取に時間がかかるしと悪いことずくめらしい。
群生地なので、結構な量の薬草が生えていて、僕とポメはしゃがみ込みながら丁寧に薬草の枝葉を採取していく。ファングやビークは手伝えないので、周りを警戒してもらっておく。
特にビークは空から監視できるので、大きめの野獣を遠くから発見するのに、すごく役に立つ。
「こんなもんかな?」
「ここにある分は採取できたのです」
ポメが胸を張りながら宣言する。薬草を採取したことにより、僕の全探索の情報が更新される。確かに薬草はこの草原の広くに分布しているようだ。
「他の群生地に向かいながら、適度に野獣を狩ろうか」
そうして幾つかの群生地で薬草を採取し、その途中に現れた、一角兎や毒蛇などを狩っていく。一角兎や毒蛇は食用だったりもするので、討伐後直ぐに血抜きをしないと肉に臭みが残ってしまう。かと言って首を切ってその場で血抜きするのは時間も掛かるし、血の匂いで他の獣も寄ってきてしまう。
「魔法でなんとか出来ないかな?」
「血抜きの魔法です?その首の上についているのは飾りなのです?そんな些事に特化した魔法など無いのです!魔法はそれほど便利じゃないのです!」
僕は顎に手を当てながら首を捻って思案する。するとポメが僕の考えを完全否定してくる。でも、全探索の魔法が出来たように、複数の属性や種類の魔法を組合せる事で、新たな有用な魔法として使える事は実証済みだ。
「確か乾かすっていう魔法があったよね」
「生活魔法の一種であるのです。炎熱属性の魔法で、暖かい風を送りつける魔法なのです」
「うん。そうなんだよね。でも乾燥させるメカニズムってさ、物体に含まれている水の量を減らせば良いので、別に温風を当てなくても良いんだよ。温度の高い風を送ったほうが蒸発しやすくなるから間違ってはいないんだけど」
「何を言っているのです?ついに頭がホーホケキョしたです?」
「例えばさ」
僕はそう言って、水筒の水を布にかけて染み込ませる。
「この布はビシャビシャになってしまっているよね?これに温風を当てて直ぐに乾くと思う?」
「何を当たり前のことを言っているのです!せめてギュって絞ってからやらないとダメなのです。というか勝手にポメの仕事を増やさないで欲しいのです!」
「だよね。でもさ……『真空球』」
僕はそう言うと、僕の目の高さに球状の空間を作り出す。これは風雷属性の攻撃魔法の風の刃を使用する過程で発生する真空を継続的に球内に発生させる独自魔法だ。
そしてそこにビシャビシャの布を差し込むと、一瞬で球の中心に吸い込まれる。そしてモワッと霧が出たかと思うと、直ぐにパチンと球が割れてヒラヒラと布が落ちてくる。
「はい」
僕はその布を掴むとポメに手渡す。ポメは訝しげな顔を浮かべながら、その布を手に取ると驚愕した顔を見せる。
「カラカラに乾いているのです!何をどうしたのです!?」
布と僕を交互に見るポメ。前文明の遺産であるポメにしてもこのメカニズムは分かっていなかったらしい。そりゃこの世界には魔法があるから、科学が発展しなかったんだろうけども。
「血も水だから同じように出来たら楽なんだけど、それだと他の組織もズタズタになって旨味も何もなくなっちゃうだろうからなぁ」
「どうやったかと聞いているのです!」
僕が再び顎に手を当てて、ブツブツ思案に入るが、ポメが僕の体をユサユサ揺らしながら聞いてくる。
「気圧をゼロにすることで、ありとあらゆる液体は蒸発して気体になるんだよ。それを利用したんだ」
「気圧?気体?液体?何なのです?」
「まぁ、後で詳しく話すけどさ……あと気圧を掛けることで固体にもなるんだよな確か……待てよ、だったら抜き出した血を気圧をかけて固体化すれば、周りに飛び散らせることもないな」
「また何か思いついたのです?」
僕が考えたこの方法なら一気に血抜きができそうだ。
「試しにっと……」
丁度倒したばかりの一角兎の血を指で掬う。
「『鑑定』……うん。一角兎の血液って出るね。便利だなぁこの世界」
全探索を使うと一度見たものは、それとして識別できるようになる事から、識別することだけ特化した魔法『鑑定』。そしてこの世界の識別がどういう風に行われているか、詳しくわからないが、ちゃんと固有体の血液まで固有名詞で出るんだから分かりやすい。
「『圧縮球』……『抽出』」
今度は風雷属性の魔法の圧縮した空気の弾で対象を穿つ空気弾を改変し、特定の空間に存在するものをとにかく圧縮する魔法である圧縮球。氷漣属性魔法の汚水から不純物を取り除く水清浄の魔法を改変し、特定の物質のみ取り出す魔法抽出。それらを一角兎に対して起動する。
一角兎のすぐ横に、超圧縮した球体が出現し、そこに一角兎の死体から血液だけが抜き取られ流れ込んでいく。球体全体に真っ赤な血液が広がったかと思うと、みるみるうちに中心点に圧縮されて小指の爪程のサイズの赤黒い球になる。
そして魔法が切れると、赤黒い球はそのまま地面にカランと落ちる。一角兎の肉や毛皮や角も別段傷んだ様子は見られない。これで血抜きができていればOKだ。
「ななななななな……」
それを横で見ていたポメがあんぐりと口を開けたまま、目を点にしながら今の現象を凝視し、口から驚愕の声が漏れる。
「ななななななな、何をしたですか!御主人様!!ついに頭がおかしくなったと思いきや、血石生成とか、正気の沙汰ではないのです!旧文明でも解き明かされていなかった仕組みなのです!!」
ポメがすごい勢いで僕の肩をユサユサし、僕はガクンガクンと頭を揺らしながら、どうやら旧文明ですら出来ていないことをやってしまったんだなぁ、と遠い目をしながらガクガク揺さぶられるのだった。




