第041話(身分証明?!)
「で、この後どうするんだ?坊主と嬢ちゃんだけじゃ生きていくのは難しいんじゃないか?」
町の門をくぐった僕達に、門番のおじさんが声をかけてくる。
「少しの蓄えはあるので、それで親戚の伝手を辿ろうと思ってるのです」
「その伝手とやらがエルデやオーフィスなら行けないこともないだろうが、そうじゃないなら子供ふたり旅なんて無茶を通り越して無謀以外の何物でもないぞ」
ポメの答えに心配してくれる門番のおじさん。
「ここまで何とかこれたので、その先も何とかなると思うのです」
「まぁ、俺も何か手伝いができるわけじゃないから、そう言うなら良いんだけどよ」
「ただ、必死に逃げたので身分証が無いのが何ともなのです」
よくもまぁ、ポンポンと口から出任せが出るもんだと思うが、視線を合わせるとバレそうなので、俯いておくことにする。
「身分証か……何かのギルドに入れば作れんこともないが、坊主と嬢ちゃんの年齢じゃ、相手にしてもらえんだろうなぁ。可能性があるのは冒険者ギルドだと思うんだが……」
「カリュスさん。俺が口利きしてきましょうか?今日は姉さんが受付していると思うんで」
「確か、お前の姉さんって冒険者ギルドの受付をしているんだっけか」
「はい。事情を話せば何とかしてくれるかもしれません」
「じゃぁ頼むわ。ここんところの一件で、こっちから町に来るやつは少ないだろうからな」
おじさんに若い男の人が提案し、若い男の人が何やら口を利いてくれるらしい。
「じゃぁ、坊主、嬢ちゃん。こいつに連れて行ってもらってくれ。悪いようにはしないはずだ」
「俺の名はキリク。よろしくな」
若い男の人が人懐っこい笑顔を浮かべながら自己紹介をしてくれる。
「ポメはポメなのです」
「僕はシンです。で、こっちの狼がファング。鳥がビークです」
「ポメって珍しい名前だな。それにシン君にファングにビークか。よろしくな」
「はい。宜しくお願いします」
ガウガウッ!
ピピィ!
ファングとビークも丁寧に挨拶を返す。
「あはははは。頭の良い子達だなぁ」
キリクさんは二匹を見ながら笑顔を浮かべる。確かにファングとビークは人の言葉を解しているみたいなので、態度が適切だ。
「冒険者ギルドはこっちだ」
キリクさんはそう言うと先導して歩き始める。
門から真っ直ぐに中央に向けて道が伸びている。また、僕達の進む方ではないが、外壁に沿うように左右にも道が伸びている。
「この町は作りが単純だから、そんなに迷うことはないと思う。まず門を繋ぐようにまっすぐと大通りがあって、ちょうど真ん中に大きめの広場があり、そこから左右に道が伸びている。だから町は大きく4つの区画に分けられているんだ」
「なるほどなのです」
「冒険者ギルドはその広場より手前の大通り沿いにある。こっちの門は冒険者が狩りに行くことが多いから、武器屋や防具屋、薬屋など冒険に必須なものを取り扱っている店が多く軒を連ねている。反対側には生活に必要な物を取り扱っている店が多い」
キリクさんに説明を受けつつ、キョロキョロと周りの店を見ながら歩く。確かに武器屋や防具屋が立ち並んでいるようだ。他にも携帯食料らしき干した肉などを売っている店も見かける。
「さて、ここだ」
キリクさんは3階建ての大きな建物の前で止まる。僕が上を見上げると、剣と杖と袋を形どった金属の看板が目に入ってくる。なるほど冒険者といえば、様々な依頼受けて、その証拠を袋に入れて持って帰ってくるから袋のイメージ。それに戦士や魔道士など様々な人が参加するから剣と杖のイメージ。それを組み合わせて冒険者ギルドの看板にしているのだろう。
「基本的に冒険者は荒くれ者が多いから、君たちに難癖をつけてくるかもしれない。気にしてたらキリがないので、相手にせずに付いてきてくれ」
キリクさんはそう言うと両開きの扉を両手で押して入っていくので、僕達も遅れずについていく。日も落ちていないのでまだ明るい店内には、何人かの大人がテーブルに座り木のジョッキを傾けている。
ガタイの良い筋肉質の大人達が、ドアを開けた音を聞いて鋭い視線を飛ばしてくる。
「おぉう、キリクじゃねぇか!門番サボってクーフェちゃんに会いに来たのか?」
「サボったわけじゃないが、そんなとこだ」
「ぐはははは。そんなとこだってよ」
「うははは。クーフェちゃんは俺らの癒やしだからなぁ」
「キリクを苛めちゃぁ、クーフェちゃんに嫌われるからなぁ」
「違いねぇ。うはははは」
人相の悪い大人の人が、キリクさんに絡んで大声を上げる。日がまだ出ているっていうのに酔っ払っているようだ。
「ん?何だそのちびっこは」
「おいおい、ここはガキが来るとこじゃねぇぞ」
「こんな物騒なとこじゃなくて、お家でママのおっぱいを吸ってネンネしてろよ」
「違いねぇ。うはははは」
キリクさんの後ろに付いていた僕達を見かけると、同じようにからかってくる。僕達はキリクさんの言い付け通り相手にせずに付いて行く。
「あぁん?俺たちが親しげに話しかけてあげているっていうのに、無視かよ?」
「ここは、ちょっと大人社会の常識っていうのを教育してやる必要があるよなぁ」
「やめとけ、やめとけ。お前の常識って犯罪者と変わらねぇからよ」
「違いねぇ。うはははは」
「誰が犯罪者だ、ゴラァ!」
僕達に絡んでいたはずが、いつの間にか身内で睨み合っている。僕達はその隙に、キリクさんと一緒に冒険者ギルドのカウンターに向かう。
酒場の右手奥に、何人かの職員が並んでいるカウンターが有って、その中の一人に向けてキリクさんが手を振る。
キリクさんに気付いた女性が笑顔を浮かべて手を振り返してくる。あの人がキリクさんのお姉さんのクーフェさんだろう。セミロングくらいの長さの髪で、顔の横の髪の毛だけ三編みにしている。目がぱっちりとしていて、とても可愛らしい容姿なのではないだろうか。
カウンターは約100cmくらいの高さがあって、僕の身長じゃカウンターから顔が出ない。これじゃまともに会話ができないと思う。
「姉さん、仕事中にごめん」
「うぅん、キー君どうしたの?」
「えっと、さっきアーグ大樹海の方の門に両親を魔物に襲われた子供たちが辿り着いてさ」
「まぁ!それは大変ね!その子達は大丈夫なの?……って連れてきている子達の事?」
「あぁ、この子達なんだけど。ちょっと身分証がないみたいなので、冒険者ギルドの身分証を発行してもらえないかな?」
「この子達を冒険者登録するの?!ちょっとキー君、それは無茶がすぎるんじゃない?!」
「ちょっ!ぼ、冒険者やらせるとは言ってないよ!取り敢えず、落ち着いて話を聞いてあげてよ」
「そ、そうね。色々あったのだろうし……よく、頑張ったわね、二人共」
キリクさんのお姉さんのクーフェさんがカウンターから身を乗り出して、僕達の方を見ながら柔らかな微笑みを投げかけてくる。
でもそんなに乗り出すと、大きなお胸がカウンターの上に乗って、とってもアレだ。
「姉さん、姉さん。胸が大変なことになってるから」
「まっ!キー君のエッチ!お姉ちゃんはキー君をそんな風に育てた覚えはありませんっ!」
「か、勘弁してくれよ……とりあえず、個室かなんかで話を聞いてくれよ」
「うん。確か誰も使っていなかったと思うから……あっちよ。お姉ちゃんは書類とか準備するから、キー君が連れて行っておいて」
「おいおい、俺はギルド員じゃないんだけど、いいのかよ」
「お姉ちゃんの弟君なんだから平気よ。じゃぁ頼むわね」
「何が平気なんだよ……」
僕達は疲れたように項垂れるキリクさんに案内されて、クーフェさんの指し示した個室に移動するのだった。




