第040話(町門閉鎖?!)
アーグ大樹海での最後の夜を過ごした僕達は、日の出と共に、街に向かって出発する。
草原は見通しが良いはずだが、身長が100cm程度の僕だと、生えている草に埋もれてしまい、先が見えない。草原に獣はそこそこいるみたいだが、アーグ大樹海のように敵対的でかつ強い魔物は見受けられなかったので、安心して進める。
ちょっと開けた所があれば、時折休憩を入れながら歩いていく。アーグ大樹海の時のように、先が見えないわけではないので、疲れや不安が少なく日が傾きだす頃に休憩した場所にあった岩に登って見てみると、遠目に町をグルリと囲むように作られた外壁を視界に入れることが出来た。
「壁で囲まれているんだね」
「アーグ大樹海に近い街なので、町もそれなりに備えているのです。強い魔物が襲ってきてもしばらく耐えられるような作りにするのは当然なのです」
「ここいら辺には、余り強いのがいないみたいだけど、備えあれば憂いなしだからね」
「……」
ポメが何かを言いたそうに僕をジト目で見てくるが、僕は気にしないことにする。だってこの草原全体を見渡しても、僕達より強い魔物はいなかったから。
暫く歩くと、徐々に草の丈も短くなってきて、僕の顔が下草から飛び出るようになる。そうなると、常に町を視界に入れることができるので、安心してそっちに向かっていける。
「結構大きい町だね」
魔物狩りを主にしていると聞いている町の割に、かなり大きく感じる。狩り主体というから村ぐらいのサイズ感でいたんだけど、直径で400mくらいの円形で人口は1000人ちょっとは居そうだ。
「魔獣の宝庫であるアーグ大樹海の側なのです。魔獣を狩れる冒険者がいるのであれば人が集まるのです」
ポメが難しい顔をしながら答える。そしてやっぱりと言った風の表情で溜息をつく。
「やっぱり門が閉まっているのです」
まだ日が出ている時間にも関わらず、アーグ大樹海の方に向いている外壁に取り付けられた門は硬く閉ざされている。狩りをする冒険者が集まっている町の割に、門が開いていないのは、何かおかしい気がする。
「狩りをする冒険者が集まっている町なら、昼間は開いていると思うんだけど」
「普通は開いていると思うのです。ですが……昨日の一件で警戒が強まっていると思うのです」
「昨日の一件?」
「……これだから無自覚アンポンタン御主人様は手に負えないのです。昨日領域主相手に何したのか覚えてないのです?」
「あ……」
「あんだけ巨大な爆発を起こして、湖を爆誕させていれば、警戒するのは当然なのです。安全が確認できるまでは緊急警戒状態は間違いないのです」
「ま、まぁ、取り敢えず行ってみようよ。開けてくれるかもしれないし」
僕は冷や汗をかきながらポメに進言する。
「このまま呆然としていても埒が明かないので向かうのですが、御主人様は自分の仕出かしたことを海より深く反省するのです」
「うん……ごめん」
僕達が門にたどり着くと、予想通り門はピッタリと閉ざされていた。外壁の高さは5m程度、その気になれば飛び越えられるけど、そんな事をしたら大問題になってしまうので、どうしたもんだと悩んでいると、門の横に設置されていた物見の窓が開く。
「ん?何だ君達は?」
40歳くらいの髭を生やした中年のおじさんが物見の窓から僕達の方を覗き見て声をかけてくる。
「えっと、僕達は森のほ……」
ガツッ!
「痛ぁっ!」
僕が素直に答えようとした瞬間、ポメの鋭い蹴りが僕の脛を強打する。あまりの痛みに僕は飛び上がり、脛を押さえて悶絶する。
「大変申し訳無いのです。ポメ達はあっちからやってきた者で、命からがらこの町までたどり着いたのです。どうか町に入れてほしいのです」
ポメが森とは90度違う山の方を指差しながら、中年のおじさんに答える。
「んあ?インバース山脈からだって?あんたら高地の民かい?」
「いいえ、旅商人一家の生き残りなのです。あっちの山の方で魔物に襲われて、ここまで必死にやってきたのです」
「って、子供だけでインバース山脈からここまでって、とても正気の沙汰ではないじゃないか!大変だったろう」
「えぇ、ポメ達を逃がすために両親は途中で……」
そういってポメは目を伏せる。
「ちょ、ちょっと待ってな」
中年のおじさんはそう言うと物見の窓を閉めてしまう。
「嘘ばっかりなんだけど?」
「あぁん?御主人様は黙っているが良いのです!」
「痛ぁっ!」
再びポメから脛蹴りが入り、僕は悶絶する。
しばらくすると、門が少しだけ空いて、皮の鎧を着て長剣を腰に刺した髭のおじさんと、20歳くらいの同じような格好をした若い男の人が出てくる。若い男の人って僕達が言えたものじゃないけど。
「君達が旅商人の生き残りかい?」
若い男の人が優しそうに声をかけてくる。
「はい……旦那様と奥様は坊っちゃんを逃がすために……」
ポメが悲しげに目を伏せる。僕がポカンとしていると、再度脛を蹴られる。僕は痛みで目から涙を滲ませながら脛を抱えてしゃがみ込む。
「そうか、辛い思いをしてきたんだな。でもよく生きてここまで来てくれた。樹海の町ウルスは君達を歓迎する!」
「ありがとうなのです」
ポメが深々と御礼のお辞儀をすると、おじさんと若い男の人は笑顔を浮かべる。僕も慌てて立ち上がると、深々と御礼のお辞儀をする。
「えっと……ところでその魔獣は?」
大人しく僕の後ろに控えていたファングとビークに気付いたおじさんが、恐る恐る聞いてくる。
「ご両親が坊っちゃんを守護する為に契約を移譲した風狼と火燕なのです」
「あぁ、守護獣か。でも契約の首輪をしていないようだが……」
「い、色々あったのです!でも勝手に人は襲わないから安心するのです!」
「そ、そうか。しかし契約の首輪がないと町に入れられないのだよ」
ポメは俯いて考え込む。
「不躾な話で悪いんだが……金銭があれば、首輪を譲ることができるんだがな。一応こんな街だから、アーグ大樹海の側で調教師が手懐けた魔獣を町の中に入れる事もあって、ここに契約の首輪を常備しているんだ」
「なるほどなのです。金銭って、これでも使えるのです?」
ポメがどこからともなく取り出した小銭入れから、一枚の銀貨を差し出す。
「……これはっ!」
おじさんがびっくりした顔で銀貨を見つめる。
「これは遺跡で稀に見つける旧時代の硬貨じゃないか!しかもこんな綺麗で模様もしっかりと残っているものなら、銀貨100枚の価値はあるぞ!」
「じゃぁ、それでなんとかなるです?」
「契約の首輪は銀貨10枚だからなんとかなるな」
「じゃぁ、契約の首輪を2つ下さいなのです」
おじさんは頷くと、門の隙間から町の中に入っていく。残った若い男の人は、ファングとビークを物珍しそうに見ている。
「風狼と火燕は珍しい?」
僕は何気なく聞いてみる。すると嬉しそうな顔で頷く。
「あぁ、初めて見たな。そもそも調教師もそんなにいるわけじゃないし、その調教師達も手懐けてくるのは、狼とか鷹とか蛙とかだからなぁ。属性魔獣を手懐けているのは初めてで、とても興味深い」
「そうなんだ」
その話がわかったのか、ファングとビークは誇らしげな表情を浮かべている。そんな会話をしていると、さっきのおじさんが手に革の首輪を持って戻ってくる。
「こいつが契約の首輪だ。こいつには所有者が命令しない限り、人を襲えなくなる戒めの魔法が掛かっている。これを着けているのに無実の人を襲った場合、所有者が罰せられるってわけだ。まぁ、所有者に危害を加えようとして、防衛で使ったりした場合は正当防衛になるから罰せられるってことはないが」
差し出された革の首輪を受け取ると、僕はファングとビークをじっと見る。
二匹は問題ないと言わんばかりに首を僕の方に差し出してくるので、僕は申し訳ない気持ちになりながらも、革の首輪を二匹に装着する。
革の首輪を装着すると、一瞬だけ青く光り、正常に起動していることを示したようだ。
「おし、ちゃんと効いているようだな。それじゃ、町の中に入っていいぞ。本当は通行料を貰うんだが……両親に不幸があった坊主や嬢ちゃんから取る程、非情な事はできないからタダでいいぞ」
「ありがとうございます」
僕達はおじさんに導かれるまま、町の門をくぐる。町の中は多くの家が立ち並んでいて、僕は久々の町並みに言葉を失う。人の営み凄くを間近に感じて、こちらの世界に来る前の事を思い出し、意図せずに頬を涙が伝うのだった。




