第004話(清流到達?!)
「また森だねぇ。歩けど歩けど森・森・森……」
「つべこべ言ってないで、さっさと歩くのです!そもそも不用意に敵を刺激して先に進めないのは御主人様のせいなのです!」
「あー、はいはい」
「でも、そろそろ川にでるはずです。ビーク、ちょっと頼むです」
ピピィーッ!
紅玉珠色をした燕のビークが、濃紫色の服を着て頭にはひらひらがついたカチューシャを付けたポメの依頼を受けて、僕の肩から飛び上がる。バサッと大きく羽ばたくと、あっという間に風を掴み、空に上っていく。
そして空を数回旋回すると、地上に戻ってきて僕の肩に留まる。
ピピッ!
ビークは僕の肩の上で、右斜め前方向を凝視して一鳴きする。
「なるほど、そちらですか」
ポメはビークの仕草に頷くと、ビークが示した方向へと進路を取る。そしてその方向に30分ほど進んだ先に、清流を発見する事が出来た。川幅は5mくらいで、水深は1mもないくらいの小さな川だ。川底がくっきり見えるくらいに水は澄んでいる。
まずポメが神妙な顔で水を少し口に含む。目を閉じて真剣に水の味を調べているようだ。
「はい。飲んでも大丈夫な水です。特に有害な微生物や菌は含まれていないようです」
それを聞いた僕は川の水を掬って飲んでみる。碧玉珠色をした小狼のファングも一緒に川の水を飲む。
「おいしい!」
水は冷たくて、舌の上に乗せると少しだけ甘さを感じ、舌から離れると淡雪のように甘さも消えていく。今まで味わった中で一番美味しい水かもしれない。
「御主人様は、考えなしにいっぱい飲んで、すぐにお腹痛くなってピーゴロロになるので程々にしとくのです!」
「あ、うん」
いつも通りの暴言を聞き流しながら、冷たい水を何度も掬って飲む。ずっと歩いていて渇いていた喉が潤っていく。あと、疲れて熱くなった身体に冷たい水が流れていく感じが何とも気持ち良く感じる。
「確かこのまま川を下っていけば目的地に近づくはずです。そうですね、あと4日くらいでしょうか」
「あと4日もか。遠いんだなぁ」
「御主人様の訓練も兼ねているから、仕方がないので諦めるのです!」
「訓練って……」
「御主人様の力は非常識すぎるから、暴走しないようにキチンと慣れないと日常生活が送れないのです!」
「あぁ、そうね、そうですね」
僕はポメに指摘されて、疲れた顔で返事をする。あそこから旅立ってから、もう2週間以上経っている。その間に何度も魔獣と戦ったけど、全く慣れずに、未だに魔法を暴発させているからなぁ。余裕を持って対応する場合は大丈夫なんだけど、咄嗟に魔法を使おうとすると、暴発させちゃうんだよな。
清流のせせらぎを聞きつつ、川沿いを進んでいくと、徐々に川の幅はどんどん広くなっていく。日も暮れて、そろそろ野営をしようかと思った時には、すでに川幅は100mを超える程、広くなっていた。深さは、川の中心まで行くと5m以上はありそうで、流石に川底を見通すのは、もう難しいだろう。
「さてと、せっかくなのでコレを」
ポメが突然、先端に糸がついた細長い棒を手渡してくる。
「えっと、釣り竿?」
「はい。これだけ大きな川ならば、それなりの魚がいるです。気合い入れて釣り上げろスットコドッコイ!です!」
僕はポメから渡された釣り竿を確認していく。うん、リールもついている近代的な釣り竿だな。糸も光を反射しにくくて切れにくい糸のようだ。ウキも普通についていて、釣り針は……あ、ルアータイプか。ミミズみたいな餌を付けないでいいのはいいけど、ルアーだと釣り上げるのにコツがいるんだよな。
僕が釣り竿を確認していると、ポメは既に用意を終えて投擲していた。
「かかりましたです」
ルアーが着水し、1秒も立たないうちにヒットしたようだ。
「はやっ!」
川魚は相当飢えていたのだろうか?ポメがリールを巻いて釣り上げると、10cmくらいのマスのような魚だった。
「次です。えいっ!ん、かかりましたです」
釣り針を外してすぐ投擲し、再び瞬時にヒット。一体どうなっているんだろう?
僕も期待を込めてルアーを飛ばす。ちょっと狙いがそれたけど、川の真ん中の方に飛んでいった。
「…………」
うん、かからない。まぁ普通だよね。そんなにすぐに掛かるわけないし、ポメのは偶々に違いない。僕は慌てずに、水の中のルアーを想像しながら、釣り竿を操る。
「…………」
全然かからないので、引き上げては投げ、引き上げては投げを繰り返す。
「…………」
ま、まぁ。5歳児だし!それに釣りは初めてだし!仕方ないと思うんだ!
「御主人様。言い訳はみっともないです!」
遠い目をしながら心のなかで言い訳をしている僕にポメが鋭い指摘を飛ばす。僕の心の中を読むなんてエスパーか?
「いや、御主人様がわかり易すぎるだけです」
ポメがこちらをチラリとも水に答える。というか、ポメさん。それ何よ?既にポメの傍らにある大きな籠にはマスやヤマメやイワナのような川魚が50匹以上ビチビチと跳ねていた。そして、その川魚を物欲しそうにファングとビークが見つめている。ってヨダレたれてるよファング。
「あ、言い忘れましたが、そのルアーは魔力を通さないとまともに魚釣れないのです!」
「言い忘れるなよっ!!」
「御主人様の観察力を試したのです。ポメの魔力の流れを見てれば容易に想像できたはずです。決してポメがウッカリしていたわけではありません!これは訓練の一環なのです!」
ポメのみっともない言い訳を聞きながら、今度こそとルアーを投擲する。
そして川の中央部に落ちたルアーに届くように魔力を通す。物質に魔力を通すと、かなりの魔力が損失するのは経験上理解しているので、損失分を踏まえて強めに魔力を通す。
「あ、その釣り竿は良く出来た魔導具で、魔力の通りが相当良いので、魔力はちょっとだけにするのです」
「ちょっ!おまっ!先に言えよっ!!あーーーーっっ!!!!」
僕の強すぎる魔力が釣り竿と糸を通り、ルアーに達する。すると水面が太陽のように眩しい光を発し、激しい水柱が立つ。
そして、釣り竿にとんでもない衝撃が走る。
「う、うあぁぁぁぁぁっっ!!!」
僕の小さすぎる身体が、引っ張られて川に引き釣りこまれそうになる。咄嗟に足を踏ん張って、その力に逆らおうとするが、小さな身体では、その強すぎる牽引力に逆らえず、踏ん張った足ごとズルズルと引き釣り込まれていく。
「御主人様!さっさと飛翔の魔法を使うのです!」
ポメの助言で、僕は魔力を両足に通し、飛翔の魔法を発動させる。
「ぐっ!ぐひょぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ…………」
咄嗟に使う僕の魔法は暴走する。って指摘されてたよね?案の定、自分で制御しきれずに音速を超える速度で飛翔の魔法が発動し、僕の身体は彗星のごとく夕暮れの空に打ち上げられるのだった。