第027話(鳥鳥発止?!)
仕方ないので、スパイスまみれの表面を全て切り落として食べてみる。すると、スパイスの奥深い風味と香りだけが肉に染み込んでおり、血塗れウサギの脚の比較的硬い弾力だが、噛むほどに旨味が染み出してくる肉質にマッチしていて、間違いなく旨い。
昨日のスープと今日のウサギのスパイス焼きを食べて思ったが、ポメの料理は殺人料理だ。調理自体は間違いなく上手いのだが、最後の味付けがぶっ飛んでいる。今後の料理においては味付けの時に、僕がしっかり監修するようにしようと心に誓う。
ウサギのスパイス焼きのスパイスの香りが殆ど消えるところまで食べ勧めた僕は、まだしっかりと身が残っている骨をファングに差し出す。
ファングは嬉しそうな吠え声を上げると、そのまま肉に食らいつく。多分、狼は犬とかと同じく嗅覚や味覚が発達しているので、あまり味の濃すぎるのは良くないかなと思ったので、食べ残しにはなってしまうけど、スパイスの香りが飛んだ余りの肉を渡したのだ。
別に僕のお腹が減っていたから、ファングを蔑ろにして夢中で食べていた訳ではない。決して。
もう一本の脚の肉も、スパイス過剰な表面を切り落として、ファングと一緒に仲良く完食した。ポメは自分の料理に手を入れられる事に、かなり不満そうな顔をしていたけど。
昼食も兼ねた休憩を終え、僕達はまた樹海から出るべく進み始める。
探索魔法のおかげで、敵対生物にいきなり襲われたりしないのは良いのだが、突然穴が空いていたり、泥濘んでいる場所があったり、小さな毒虫がいたりと気が抜けない。ちなみに敵対的な小さな虫などは、ここら辺にいるとわかっていても、木の枝の裏とか葉の裏とかにいられると、ドコにいるのかわからなく、不意打ちを受けてしまうのだ。
そんな風にもっぱら地面を注視して歩いていると、すごい速度で2体の魔物がこちら目掛けてやってくるのを探索魔法が捉えた。
「なにか近づいてくる!気をつけて」
僕はポメとファングに戦闘態勢を取るように言うと、自らもいつでも魔法が打てるように、魔素を魔力に変換させながら待ち受ける。
「ドコからくる?!」
僕達の方に真っ直ぐやって来ているようだが、目に映る範囲では、何も来る気配はない。そして、その二匹がちょうど僕達のいる位置で交差する。
「ん?何も起きない?」
僕達は警戒していたが、目の前の風景は変わらずだ。何かが突進してくるでもなく、普段の樹海そのものだ。
僕は警戒したまま、周りに目を配っていると、上からなにか赤いものが落ちてくるのが視界に入る。かなり小さいそれが、クルクル回りながら落ちてくるので、僕は反射的に両手の掌で受け止める。
「紅い……燕?」
駅の構内とか、商店街の中とかに枯れ木で家を作って住み着くあの燕に非常によく似ている。だけど燕の黒い部分が紅い。
「火燕ですね。かなり希少な魔物ですが、まだ子供みたいなのです」
ポメが僕の手の中をシゲシゲと眺めながら識別する。随分と昔に作られたのに、よく知っているもんだと僕が感心していると、自信満々に胸をそらしながら超高性能メイドをアピールしてくる。
「でも、どうして空から落ちてきたんだろう?」
僕が優しく手で燕を包みながら上を見上げると、僕達の頭の上で1匹の鳥が旋回しているのが見える。恐らくあの鳥に襲われたのだろう。
燕をよく見てみると、羽が折れているように見える。僕は燕を治癒しようと、魔素を魔力に変換しようとする。
「アホ御主人様!まずは敵を殲滅するのです!あの敵は、風爆隼、ランクCの魔物なのです!」
僕の魔素の高まりに反応したのか、旋回していた風爆隼が、僕達目掛けて急降下してくる。
「四霊魔盾!」
僕は4属性による薄くて透き通った4枚の魔法障壁を張って、鳥の攻撃に備える。物凄い勢いで急降下してきた風爆隼は、1枚目の風属性の盾を貫通したが、2枚目の石属性の盾で弾かれる。
「よくあのスピードで突っ込んできて自爆しないもんだなぁ」
僕が感心していると、風爆隼は空中でホバリングしながら、羽根を飛ばしてくる。僕は燕を潰さないように気を付けながら、その羽根をステップで躱す。
キィィィィィィッッッ!!!
羽根攻撃を避けられた風爆隼は途轍もなく甲高い声で鳴き声を上げる。鼓膜を直接揺らされるような高くて大きい声に、僕の三半規管が狂わされて、視界がグラっと歪む。
キシャァァァッッ!!
そこに風爆隼が生み出した風の刃が、目眩による頭痛で魔法の集中ができない僕に襲いかかる。
ワォォォォォンッッッ!!
そんな僕を守るように、ファングが身体に風を纏わせて風の刃に吶喊する。ファングの纏う風の鎧が風の刃を弾いていく。
「ファング、ありがとう。助かったよ」
僕が目眩から立ち直ってファングにお礼を言っていると、手の中にいた燕が目を覚ます。燕は危機を感じたのか、すぐに僕から距離を取ろうと飛び上がろうとする。
「ダメ。まだ無理だよ」
僕の静止は届かず、無理やり翼を羽ばたかせて、骨折している翼を更に痛めてしまい、再び力なく僕の手の中に倒れ込んでしまう。さっきと違って意識はありそうだけど。
キィィィィィィッッッ!!!
ソコに再度、風爆隼の甲高い声が僕を襲うが、それと同時にファングが遠吠えを上げて、その声を打ち消す。
「大丈夫。僕は敵じゃないよ」
僕と風爆隼を心配そうに交互に見合う燕に諭すように言うと、僕は魔力を貯めながら風爆隼の足元に視線を送る。
「大地の群槍!!」
視線誘導の地点発動型にした中級樹金属性の魔法が発動する。地面から突然、何十本もの石の槍が迫り出し、風爆隼の真下から襲いかかる。
風爆隼を中心に、10mの範囲の円上に何十本の石の槍が突然隆起してくるので、前後左右に逃げ場がなくなった風爆隼は真上に逃げるしか無い。
「そりゃそう逃げるよね。だから大地の大槌!」
その行動を予想していた僕は、途切れなく次の中級樹金属性の魔法に繋ぐ。石の槍が隆起した場所より20m程離れた場所の地面から、巨大な石塊が湧き上がると、弧を描きながら風爆隼の頭上に落ちていく。
逃げ場を特定されたところに、苦手属性の超質量の石塊が降ってきては堪らない。石の槍の中に叩き落され貫かれながら、更に超質量の石塊に押しつぶされては一溜まりもないだろう。
取り敢えず、目下の敵を撃滅し、僕は手の中で震えている燕に目を向けるのだった。




