08
「なるほど……カードを触る事で、スキルを覚える、と……また、そのカードを触ると魔力でカードを作り扱う事が出来る、ですか」
「はい、そうみたいです」
「エルヴィス……昨日、貴方を見送った後、私は、貴方のスキルに近いモノはないかとか、色々調べたりしました。
まあ、結果は芳しくなかったのですが……1つ、思いだした事があります。
……今は亡き、私の師匠にあたる方から、死ぬ間際にいただいたモノがあるのです」
ウィリアムは立ち上がり、ウィリアムが仕事で使う机の引き出しから、上質な浮き彫りや飾りがついた綺麗な小さな箱を取り出し、ソファーを挟むテーブルに置き、中身を取り出した。
中身は、3枚のカードだった。
「このカードは、師匠からいただいたカード。
師匠の得意とした魔法スキルと、使役していた使いのモノが封印されています」
座り直したウィリアムは3枚のカードをエルヴィスに見える様に並べ置いた。
「ウィリアム様の師匠がカード?
魔法と……封印?」
3枚の置かれたカードと、ウィリアムを交互に見渡し、ウィリアムの言った事で混乱している。
「……落ち着きなさい、エルヴィス。
きちんと話しますから……そうですね。
まずは、私の師匠、アクシア・メリアムの事から話しましょうか」
ウィリアムは、お互いに飲み終えた紅茶のカップに、作り置いた紅茶を入れる。
一口飲んだ後、思い出を懐かしむ様に、ウィリアムは話し始めた。
「師匠……アクシア様は、この町の先代、大神官長で、私は当時、一端の神官でした。
アクシア様は、私と違い、神殿と孤児院のまとめだけではなく、この町の脅威を冒険者ギルド、国からの警備兵士とともに守護されてまして、私を含めた神官や、町の人達に敬愛されていました。
ある時、脅威なる魔物が数多く、この町に現れ、戦える者達、総動員で対処しました。
魔物の討伐と、傷ついた者を癒す事を両方をこなしていた師匠は、やがて、両方とも手が回らなくなり、焦りがつもりミスを犯し、魔物と対峙している途中、傷つく仲間に気を取られ、魔物の爪に致命傷を受けてしまいました。
冒険者からの話では、アクシア様は致命傷の傷を最小限に抑え、魔物を倒す事に集中したらしいのです。
その為、魔物討伐はそれ以上の被害もなく、なんとか魔物の討伐は終わり、アクシア様が、私達の下に運ばれ来た時には、もう……傷は完全にふさげても、アクシア様の生命力が、もうほとんど無く、死を迎える状態でした」
ウィリアムは一度話すのをやめ、当時の事を思い出した悲しみを追い出す様に深く息をはき、温くなった紅茶を飲むんだ。
「アクシア様は見守る皆の下、次の神官長に私を指名し、私に、この3枚のカードを渡しました」
そして、その時の事を、思い出しながら話し出す。
「これは私の神から授かったスキルと、私が神官となった、ある日に神々に祈りを捧げた時、五大神の一柱、命の輪廻を司る女神シェラー様の下召還され、女神シェラー様の使い、双子の天使……生の天使エル様と、死の天使アル様を、私に授けていただきました。
また、シェラー様は、こうもおっしゃっられました。
『きたる日に、魔物……いえ、世界に漂う邪気により魔族となった人達の王、魔王と戦う、運命の子供達が生まれるでしょう。
貴女は、その子供達と会う事もなく死ぬでしょう。
しかし、貴女と、その子供達の1人とを繋ぐ、連綿の絆により、貴女のスキルと、この双天使を渡受け継がれるでしょう』
……そう、おっしゃっられ、どういう形にて、私のスキルを受け継ぐのか、長きに悩みましたが……今、やっと、わかりました」
「……アクシア様」
「ふふ、そんな顔をしないでください……ウィリアム。
これは、決まっていた運命です。
私は……この運命に後悔はありません。
そして、ウィリアム……これを」
アクシアは、3枚のカードを取り出し、ウィリアムに渡した。
「このカードこそ……私のスキルと、双天使。
そして……貴方が、連綿の……絆。
いつか……そのカードを使える者が……現れる……でしょう。
その、時まで……貴方が……」
アクシアは、そう告げた後、ゆっくりと目を瞑り、息をひきとった。
その顔は満足した、いつもの優しいアクシアの笑顔だった。
「アクシア様?
……アクシア様!
しっかり、死なないで!
アクシア様、まだ貴女に教えていただきたい事が、山ほどあるのです!
目を開けてください!
アクシア様ーーー!」
ウィリアムは、目を開けず息をひきとったアクシアに、声をあげる。
他の神官は、悲しみ歯を食いしばる者、泣く者とアクシアの死を惜しんだ。
ウィリアムに渡した3枚カード。
運命の子供達。
やがて誕生する魔人の王……魔王。
ウィリアムは、この場にいる者達に、この事を他言とし、箝口令を出した。
神官長として最初の仕事だった。
「エルヴィス、貴方がカードのスキルを授かった時は、最初、私は気づきませんでした。
昨日、貴方と話した後、もう一度、カードについて調べてみたり、考えてました。
その時に、アクシア様の事を思い出しました。
そして、夜。
神官長だけが使える通信玉で、他の町の大神官長や、それをまとめる王都の総神官長に、特殊能力:カードの事を話しました。
すると、この一年間で、各町に、また王都で1人ずつ、貴方と同じ様に特殊能力を授かった者が現れていたらしいのです。
しかも、オンリーワンの特殊能力者ばかり。
その時、やはりと思いました。
アクシアのカードは、貴方が受け継ぐ者だったと……そして、今、貴方にいろんなカードから、スキルを得たと聞き、間違いなく、貴方が運命の子供達の1人とわかり、このアクシア様のカードを、貴方に見せました。
エルヴィス、長い話になりましたが……このアクシア様の3枚のカードを受け取りなさい」
「ウィリアム様」
エルヴィスは、3枚のカードを順に触れた。
ポーン。
習得条件が揃いましたので、スキル『回復』を覚えました。
……スキル『回復』は、レベルに達していないので、現在使用出来ません。
ポーン。
習得条件が揃いましたので、スキル『治療』を覚えました。
……スキル『治療』は、レベルに達していないので、現在使用出来ません。
ポーン。
習得条件が揃いましたので、召喚『双天使』を会得、契約しました。
……召喚『双天使』は、『双天使』に認められていないので、現在使用出来ません。
ポーン。
他者のスキルカードを触れ、会得した事により、特殊能力:カードの能力を解放いたします。
「どうですか?」
ウィリアムは、エルヴィスが触れた事により、消えた3枚のカードを確認し尋ねた。
「……どうやら、受け継ぐ事は出来ました。
でも、今はレベルや、条件が足りないみたいで、使う事が出来ないみたいです」
エルヴィスは、難しい顔をして答えた。
「ふむ……そうですか。
しかし、エルヴィス?
そうなると、やはり、貴方は運命の子供という事になるみたいですね。
魔王という話は、今だ、世に出ていません……過酷な運命だと思います。
ですが」
「大丈夫です、ウィリアム様。
僕は、ウィリアム様と、アクシア様、そして、運命を信じます。
……でも、どうすればいいのかは、わかりません。
僕は、どうすればいいのでしょう?」
「そう、ですね……エルヴィス」
「はい」
「まずは、この町で、冒険者として依頼を受け、修行をしなさい。
レベルを上げ、アクシア様のスキルを使える様に、また、覚えた他のスキルも、これから増えるであろうスキルも、十全に使える様になりなさい。
そして、時が来たら、他の町や、王都に行き、他の運命の子達と出会い、旅に出なさい。
現在、わかっている運命の子は、貴方以外に4人」
「4人」
「貴方も、この孤児院で学んだ通り、この大陸……というより、島国は統一国家。
他の大陸の情勢はわかりませんが、この王国は、国の中央に王都が、そして東西南北に町があり、その町につながる村が、いくつもあります。
この町……東の町には、エルヴィス……貴方が。
王都、北、西、南の町に1人ずつ、現在4人いるそうです。
話によると、その者達も、授かったスキルを十全に使える様に修行しているみたいです。
ただ、運命の子とか、魔王とかは知らないでしょう。
エルヴィスは、私が、アクシア様から聞き、その存在が現れる事を知っている。
また、エルヴィスが、何も知らない他の運命の子供達の先頭に立ち、世界を守らなくてはなりません」
「……はあ、聞くだけで、僕につとまるかわからないです。
でも、ウィリアム様?
本当に、魔王とか現れるのでしょうか?」
「……それは、私にもわかりません。
それに現れなくても、いいと思っています。
しかし、魔人の存在は確かにあり、被害が出ています。
……運命の子供達は生まれました。
魔人もいます。
備えあれば憂いなし、という言葉もあります。
エルヴィスは、まず、修行をして強くなりなさい」
「はい、ウィリアム様」
エルヴィスは、ウィリアムの言葉で、覚悟を決めた。
今回は、ここまでです。
また、日にちが空くと思いますが、よろしくお願いします。