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最終話です。
本日二話掲載、一話目は8時に投稿しています。
最後までよろしくお願いします。
ゲルハルトは、エルヴィスを見た。
冒険者達や職員の洗脳が解けた事に気づいた事は勿論の事、エルヴィスの先ほどの魔法に感じた魔力は、神殿にいる神官でも高位に属する者にしか出せないモノだった。
ゲルハルトは無意識に数歩下がった。
「おい……逃げるなよ?」
エルヴィスは、アーノルドの遺体を静かに床に置き、ゲルハルトを睨みながら立ち上がる。
「な、何を……馬鹿な」
と、言いつつも、ゲルハルトは、エルヴィスを恐れるのか、わからず『鑑定』で覗いてみた。
「何だと?」
『鑑定』の持ち主だったシータも、先ほどのまでのエルヴィスの時も、はっきりと見えなかったエルヴィスのステータスが、今では全て見える。
しかも、スキル欄の中に、『特殊召喚:双天使エル・アル』とあった。
「『双天使エル・アル』だと?
それは……アクシア様の」
ゲルハルトは目をこれでもかというぐらいに開き、震える指をさして、目に見える程の汗をかいている。
「そうだ……それはアクシア様の力だ!
何故、お前が持っている……そうか!
ウィリアム、か?
ウィリアムのヤツが、お前なんかに!」
ゲルハルトの顔がだんだんと赤く……いや、怒りで赤黒くなっていく。
「?
お前……アクシア様とウィリアム様の事を知っているのか?」
ゲルハルトの様子に、エルヴィスは首を傾げた。
「そうだ。
コイツは、アクシア様とウィリアムを、よく知っている。
いや、知っているどころか……本来、頭の上がらない存在になるな」
そして、その質問を答えたのは、ふらつきながらも現れた冒険者ギルド長、ガントだった。
「貴様……何故、生きている」
ゲルハルトは殺したと思っていた、ガントが生きていた事に驚く。
「ふん……死んだところを見た訳でもなく、殺したと思いこんで部屋を出ていったくせに、何を言っている。
俺のスキル『7つの心臓』は7回死んでも直ぐ蘇るスキルだ。
と、いっても現役で6回死んだから、残り1回しかなかったがな。
そもそも、ギルド長になったのも、年を取ったのと、スキルの心配を理由になったからな。
しかし、毒のせいでなかなか傷が直らないわ、力も回復しないわで参ったぞ。
……と、それはいいとして、エルヴィス。
すまなかった。
俺も、シータの事で動揺しなければ、こんな事にはならなかったのだろうが……エルヴィス。
コイツ、ゲルハルトは昔、お前と同じく、この町の神殿の孤児院で育ったのさ」
「黙れ!」
ゲルハルトは、ガントを睨んで話すのをやめさせようと怒鳴る。
「黙らぬよ。
アクシア様は、大神官長として、ウィリアムは一つ年上の神官として、孤児のゲルハルトと接していた。
しかも、ウィリアムとゲルハルトは兄弟の様に仲が良かった」
「黙れよ、ジジイ!
……くっ」
ゲルハルトが、今度は実力行使で止めようと動くが、エルヴィスがカードで牽制し動きを止めた。
それを見たガントは続ける。
「12歳となったゲルハルトは冒険者となり、1年でCランクまでなった。
……エルヴィス、お前と同じ様にな。
だが、コイツは実力に溺れ、酒を飲む様になり、女を覚え、快楽にはしり、金があれば娯楽を満喫した。
ウィリアムにも神官を辞めて、一緒に冒険者になって、いろんな事を楽しもうとも言っておったわ。
勿論、断られておったがな。
その後、王都に行きBランクになり、弟分のアーノルドと出会い、借金まみれとなったゲルハルトは見限られ、アーノルドは依頼で、ゲルハルトは借金取りから逃げる為、この町に来た。
後は、まあ当時新人だったシータに依頼の誤魔化しや何やで、追い詰められ、無茶な依頼を受け失敗、盗賊になり……後は、エルヴィスも知った事になった訳だ」
「……そうさ」
ガントが語り終えた後、ゲルハルトは認めた。
「俺は、自分とは違うウィリアムから逃げて王都に行き、もっと実力をつけ、有名になり、アクシア様達に認めてもらいたかった。
だが、アクシア様が死んでウィリアムを選び、後を継いだと聞いた時から、目標が失くなり、また逃げた。
この町に帰ってきた後も、ウィリアムに顔を合わせる事が出来なかったがな。
……くっくっくっ、これも運命、か?
まわりまわって……最後に立ちはばかるのは、あの時の商人の、成長したガキとは?
……確かに、どういう訳か、ステータスは魔人の俺と変わらない程に変わりやがった。
だがな……まだ、終わった訳ではねぇ!
こうなりゃあ、ここにいるヤツ、全員殺して、終わらせてやる!」
ゲルハルトは手に剣を召喚し、全身に身体強化をかけ、エルヴィスに攻撃を仕掛ける。
「……」
エルヴィスも全身に、アーノルドの身体強化と自身の身体強化を合わせた強化を発動し、更にアーノルドの『瞬間速度』を発動。
エルヴィスは、ゲルハルトの剣の動きより速く、横をすり抜け、同時にカードで首を切り裂いた。
ゲルハルトの首から大量の黒い血が吹き出る。
しかし、身体を反転し、エルヴィスの方を向き笑う。
血は一瞬で止まり、傷も塞いでいく。
「……まだ、だ!」
再び、ゲルハルトは攻撃を仕掛ける。
エルヴィスは、今度はカードに魔力を込め強化、幻術を追加で発動し、ゲルハルトに投げ飛ばした。
ゲルハルトは、幻術に惑わされない様に、目を瞑り、幻術を見破り、実際のカードを全て打ち払う。
エルヴィスも、その瞬間、目を瞑ったゲルハルトの懐に入り、隠し持つ短剣で心臓に突き刺す。
同時に『神聖魔法、浄火』を発動。
ゲルハルトの全身が黄金に輝く炎に包まれた。
「ぎゃああああーーーーーーー」
ゲルハルトは邪気の塊である身体を焼く、浄火の炎を消そうと床を転げまわる。
勿論、そんな事では、この炎を消す事は出来ない。
床にも炎は焼き移らない。
炎はゲルハルトだけを燃やす。
やがて、ゲルハルトの身体を完全に焼きつくし、ゲルハルトは消滅した。
ゲルハルトが燃えつきた後には、何も残らなかった。
いや、エルヴィスの目には、あるモノが見えている。
「召喚……『双天使エル・アル』」
エルヴィスの目の前によく似た顔立ちの天使が2体、召喚され現れた。
かつて、現れた時は1メートルもなかった人形の様な姿だったが、完全に使用出来る様になった、今、1.7メートル程の美しい姿をしていた。
『『五大神の一柱、命の輪廻を司る女神シェラーの使い』』
『生の天使、エル』
『死の天使、アル』
『『推参』』
エルの高く美しいソプラノの声と、アルの低く美しいアルトの声が、ギルドに音楽の様に伝わり、ギルドにいる者を魅了した。
「エル、アル……お願いだ。
アーノルドさんとエリスさん……それと、解放されたシータさんの魂を天に送ってあげてほしい」
ゲルハルトの消滅した場所に指をさし、願いを伝えた。
『『承知した』』
エルは右手を、アルは左手を差し出し、何かを呟く。
アーノルドの遺体、エリスの遺体、ゲルハルトの消滅した場所から、白く輝く光の玉が浮き、ギルドの天井を通り抜け、空に……天へと向かっていく。
見送ったエルヴィスは、ギルドを出て行こうとした。
「ま、待ってくれ」
1人の冒険者が、エルヴィスを止める。
「待ってくれ、エルヴィス。
俺……いや、俺達は……何て取り返しのつかない事をしたのか……。
で、でも……俺達は、洗脳されて」
「洗脳されたから……仕方がないと?」
冒険者の言葉を遮り、エルヴィスが続きを言う。
「そ、そうだ。
俺達は、洗脳され、命令に逆らえなくてだな」
そうだ、そうだと回りの者も同調し、言い訳をする。
「そうですか」
エルヴィスは、自分のカードの能力を、ギルドにいる全員に聞かせた。
「そして、今、ここに、ゲルハルトから奪った『洗脳』があります。
これを使って、ここにいる全員に意識を残したまま、ゆっくりと殺してあいをさせましょうか……最後の1人になるまで」
カードをプラプラと揺らしながら、冷たい目で睨んだ。
「そ、それは」
エルヴィスの言葉に、冒険者達は言葉が詰まる。
「勿論、そんな事をすれば、僕に罪がかかり、追われる事になるけどね」
「そ、そうだよ。
その通りだな」
冒険者達や職員達は、安堵のため息をはいた。
「あ、でも……最後に残った者には、どの様な手段をもっても伝える事が出来ない様にすればいいのか」
さも、思いついた様にエルヴィスは言う。
「あ……それは……」
全員、顔を青くする。
「……するかよ。
全員、アーノルドさん達の事を思い出しては、罪に押し潰されて苦しめばいい。
俺は絶対に許さない」
そう言って、今度こそエルヴィスは、ギルドを出ていった。
ギルドに残された者は、全員うつむき、アーノルド達に世話を受けた者ばかりで、エルヴィスの言葉は重く心にのし掛かり、罪の意識で涙を流した。
エルヴィスは、神殿に着いた。
中に入ると、白く美しかった中は奥に行くほど血で汚れていった。
そして、20人程の女性が集まり泣いていた。
ゲルハルトに命令され、神殿を襲撃した女性冒険者達であった。
エルヴィスに気づいた1人が、エルヴィスを見ておののき、全員に伝染していく。
エルヴィスはため息をはき、言い訳を、許し得ようとする女性冒険者達に、先ほどのギルドで言った事をもう一度言って、殺したウィリアムの遺体や、神官の遺体達、そして、孤児達の遺体を神殿最奥にある墓地へと運ばせ、一体づつ、遺体を埋めさせた。
エルヴィスは、再び双天使を呼び出し、ウィリアム達の魂を天に送らせた。
エルヴィスは、女性冒険者達に、血で汚れた神殿の清掃を、ギルドにいる冒険者達を呼ばせ、ともに清掃させた、
エルヴィスは清掃を任せ、神殿を出て、かつて使用していた孤児院の部屋で休む事にした。
エルヴィスは、アーノルド達やウィリアム、シータ、孤児達の事を思い、泣き疲れるまで泣き続けた。
エルヴィスの悲しみは、清掃する冒険者達の心を、更に悔やませた。
しばらくした、ある日の夜。
ゲルハルトが魔人として目覚めた森の遥か上空。
暗い夜に紛れ、キョロキョロと何かを探す、コウモリの様な翼をはためかせ飛ぶ少年がいた。
少年は、肌が灰色の混ざった紫の肌に、赤く光る瞳、頭の両側頭部から弧を描く様に伸びる角が生えている。
ゲルハルトの様な、人からなった魔人ではなく、純粋な、生まれた時から存在する、魔族だった。
その少年魔族に近寄る、もう一体の魔族が現れた。
「ヴィロ、ここで何をしている」
もう一体の魔族は、少年魔族に声をかける。
「う~ん……いやさ?
10年前に面白そうな魂が、魔人になりそうでさ。
ちょ~っと、邪気を集めるのを手伝ってみたんだよ。
それが、そろそろ、目を覚ましそうだったから、見に来たんだけど、見つからなくて……バァンは知らない」
そう言いながら、ヴィロと呼ばれた魔族は、今だキョロキョロと探す。
「知らんな……失敗したか、既に滅ぼされたか、じゃないか?
それより、王都の方に、厄介な奴かいるから、手伝え」
バァンは興味がないのか、適当に答え、バァンの都合を伝える。
「……やっぱ、そうかな~?
はぁ、仕方がないな~。
残念だけど……そっち、面白い?」
「知るか、いいから手伝え」
「わかったよ」
2体の魔族は夜に紛れ、王都に向かった。
数日後。
「行くのか?」
冒険者ギルド長、ガントは、荷物を持ったエルヴィスに問う。
「……もう、ここには何もないから」
ガントは、あれから幾度かエルヴィスに会ったが、エルヴィスは笑う事がなくなった。
「たまには、アーノルド達やウィリアムの墓参りに戻ってこい……アイツらには会いたくないだろうが、俺には、顔を見せてくれ」
「……うん、ギルド長……また」
エルヴィスは頷き、町を出た。
王都にある神殿本部。
1人のシスターの衣装を纏った少女が、五大神に祈りを捧げている。
祈りを終えた少女は立ち上がり、神殿を出た。
「聖女さま~!
鎖の聖女さま~」
聖女と呼ばれた少女の下に、幼き少年少女が集まり抱きつく。
「みんな、どうしたの?」
聖女はしゃがんで子供達の目線に合わせ、幼い子供に微笑み質問する。
「あのね、あのね~」
子供達の話を聞き答え、やがて満足した子供達は、家に返る者、また遊びに向かう者達を見送った。
ビュウーー!
「きゃ?」
見送る聖女に吹き抜ける強い風が、聖女にはこれから起こる何かを予感させた。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
私個人的にいろいろと考え、一章の終わりとなるここで、最終とさせていただきました。
ハッキリといって未完です。
が、これ以上は、無理と判断しました。
実力が足りなくて、申し訳ありません。
これからも、ちょくちょくと書いていくつもりです。
見かけたら、よろしくお願いします。
最終に、評価点、感想を頂けたら嬉しいです。




