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特殊能力:カード  作者: マス シゲナ
24/24

24

最終話です。


本日二話掲載、一話目は8時に投稿しています。


最後までよろしくお願いします。



 ゲルハルトは、エルヴィスを見た。


 冒険者達や職員の洗脳が解けた事に気づいた事は勿論の事、エルヴィスの先ほどの魔法に感じた魔力は、神殿にいる神官でも高位に属する者にしか出せないモノだった。


 ゲルハルトは無意識に数歩下がった。


「おい……逃げるなよ?」

 エルヴィスは、アーノルドの遺体を静かに床に置き、ゲルハルトを睨みながら立ち上がる。


「な、何を……馬鹿な」

 と、言いつつも、ゲルハルトは、エルヴィスを恐れるのか、わからず『鑑定』で覗いてみた。


「何だと?」

『鑑定』の持ち主だったシータも、先ほどのまでのエルヴィスの時も、はっきりと見えなかったエルヴィスのステータスが、今では全て見える。


 しかも、スキル欄の中に、『特殊召喚:双天使エル・アル』とあった。


「『双天使エル・アル』だと?

 それは……アクシア様の」

 ゲルハルトは目をこれでもかというぐらいに開き、震える指をさして、目に見える程の汗をかいている。


「そうだ……それはアクシア様の力だ!

 何故、お前が持っている……そうか!

 ウィリアム、か?

 ウィリアムのヤツが、お前なんかに!」

 ゲルハルトの顔がだんだんと赤く……いや、怒りで赤黒くなっていく。


「?

 お前……アクシア様とウィリアム様の事を知っているのか?」

 ゲルハルトの様子に、エルヴィスは首を傾げた。


「そうだ。

 コイツは、アクシア様とウィリアムを、よく知っている。

 いや、知っているどころか……本来、頭の上がらない存在になるな」

 そして、その質問を答えたのは、ふらつきながらも現れた冒険者ギルド長、ガントだった。



「貴様……何故、生きている」

 ゲルハルトは殺したと思っていた、ガントが生きていた事に驚く。


「ふん……死んだところを見た訳でもなく、殺したと思いこんで部屋を出ていったくせに、何を言っている。

 俺のスキル『7つの心臓セブンズ・ハート』は7回死んでも直ぐ蘇るスキルだ。

 と、いっても現役で6回死んだから、残り1回しかなかったがな。

 そもそも、ギルド長になったのも、年を取ったのと、スキルの心配を理由になったからな。

 しかし、毒のせいでなかなか傷が直らないわ、力も回復しないわで参ったぞ。

 ……と、それはいいとして、エルヴィス。

 すまなかった。

 俺も、シータの事で動揺しなければ、こんな事にはならなかったのだろうが……エルヴィス。

 コイツ、ゲルハルトは昔、お前と同じく、この町の神殿の孤児院で育ったのさ」


「黙れ!」

 ゲルハルトは、ガントを睨んで話すのをやめさせようと怒鳴る。


「黙らぬよ。

 アクシア様は、大神官長として、ウィリアムは一つ年上の神官として、孤児のゲルハルトと接していた。

 しかも、ウィリアムとゲルハルトは兄弟の様に仲が良かった」


「黙れよ、ジジイ!

 ……くっ」

 ゲルハルトが、今度は実力行使で止めようと動くが、エルヴィスがカードで牽制し動きを止めた。


 それを見たガントは続ける。


「12歳となったゲルハルトは冒険者となり、1年でCランクまでなった。

 ……エルヴィス、お前と同じ様にな。

 だが、コイツは実力に溺れ、酒を飲む様になり、女を覚え、快楽にはしり、金があれば娯楽を満喫した。

 ウィリアムにも神官を辞めて、一緒に冒険者になって、いろんな事を楽しもうとも言っておったわ。

 勿論、断られておったがな。

 その後、王都に行きBランクになり、弟分のアーノルドと出会い、借金まみれとなったゲルハルトは見限られ、アーノルドは依頼で、ゲルハルトは借金取りから逃げる為、この町に来た。

 後は、まあ当時新人だったシータに依頼の誤魔化しや何やで、追い詰められ、無茶な依頼を受け失敗、盗賊になり……後は、エルヴィスも知った事になった訳だ」


「……そうさ」

 ガントが語り終えた後、ゲルハルトは認めた。


「俺は、自分とは違うウィリアムから逃げて王都に行き、もっと実力をつけ、有名になり、アクシア様達に認めてもらいたかった。

 だが、アクシア様が死んでウィリアムを選び、後を継いだと聞いた時から、目標が失くなり、また逃げた。

 この町に帰ってきた後も、ウィリアムに顔を合わせる事が出来なかったがな。

 ……くっくっくっ、これも運命、か?

 まわりまわって……最後に立ちはばかるのは、あの時の商人の、成長したガキとは?

 ……確かに、どういう訳か、ステータスは魔人の俺と変わらない程に変わりやがった。

 だがな……まだ、終わった訳ではねぇ!

 こうなりゃあ、ここにいるヤツ、全員殺して、終わらせてやる!」

 ゲルハルトは手に剣を召喚し、全身に身体強化をかけ、エルヴィスに攻撃を仕掛ける。


「……」

 エルヴィスも全身に、アーノルドの身体強化と自身の身体強化を合わせた強化を発動し、更にアーノルドの『瞬間速度』を発動。


 エルヴィスは、ゲルハルトの剣の動きより速く、横をすり抜け、同時にカードで首を切り裂いた。


 ゲルハルトの首から大量の黒い血が吹き出る。


 しかし、身体を反転し、エルヴィスの方を向き笑う。


 血は一瞬で止まり、傷も塞いでいく。


「……まだ、だ!」

 再び、ゲルハルトは攻撃を仕掛ける。


 エルヴィスは、今度はカードに魔力を込め強化、幻術を追加で発動し、ゲルハルトに投げ飛ばした。


 ゲルハルトは、幻術に惑わされない様に、目を瞑り、幻術を見破り、実際のカードを全て打ち払う。


 エルヴィスも、その瞬間、目を瞑ったゲルハルトの懐に入り、隠し持つ短剣で心臓に突き刺す。


 同時に『神聖魔法、浄火』を発動。


 ゲルハルトの全身が黄金に輝く炎に包まれた。


「ぎゃああああーーーーーーー」

 ゲルハルトは邪気の塊である身体を焼く、浄火の炎を消そうと床を転げまわる。


 勿論、そんな事では、この炎を消す事は出来ない。


 床にも炎は焼き移らない。


 炎はゲルハルトだけを燃やす。


 やがて、ゲルハルトの身体を完全に焼きつくし、ゲルハルトは消滅した。


 ゲルハルトが燃えつきた後には、何も残らなかった。


 いや、エルヴィスの目には、あるモノが見えている。


「召喚……『双天使エル・アル』」

 エルヴィスの目の前によく似た顔立ちの天使が2体、召喚され現れた。


 かつて、現れた時は1メートルもなかった人形の様な姿だったが、完全に使用出来る様になった、今、1.7メートル程の美しい姿をしていた。


『『五大神の一柱、命の輪廻を司る女神シェラーの使い』』

『生の天使、エル』

『死の天使、アル』

『『推参』』

 エルの高く美しいソプラノの声と、アルの低く美しいアルトの声が、ギルドに音楽の様に伝わり、ギルドにいる者を魅了した。


「エル、アル……お願いだ。

 アーノルドさんとエリスさん……それと、解放されたシータさんの魂を天に送ってあげてほしい」

 ゲルハルトの消滅した場所に指をさし、願いを伝えた。


『『承知した』』

 エルは右手を、アルは左手を差し出し、何かを呟く。


 アーノルドの遺体、エリスの遺体、ゲルハルトの消滅した場所から、白く輝く光の玉が浮き、ギルドの天井を通り抜け、空に……天へと向かっていく。



 見送ったエルヴィスは、ギルドを出て行こうとした。


「ま、待ってくれ」

 1人の冒険者が、エルヴィスを止める。


「待ってくれ、エルヴィス。

 俺……いや、俺達は……何て取り返しのつかない事をしたのか……。

 で、でも……俺達は、洗脳されて」


「洗脳されたから……仕方がないと?」

 冒険者の言葉を遮り、エルヴィスが続きを言う。


「そ、そうだ。

 俺達は、洗脳され、命令に逆らえなくてだな」

 そうだ、そうだと回りの者も同調し、言い訳をする。


「そうですか」

 エルヴィスは、自分のカードの能力を、ギルドにいる全員に聞かせた。


「そして、今、ここに、ゲルハルトから奪った『洗脳』があります。

 これを使って、ここにいる全員に意識を残したまま、ゆっくりと殺してあいをさせましょうか……最後の1人になるまで」

 カードをプラプラと揺らしながら、冷たい目で睨んだ。


「そ、それは」

 エルヴィスの言葉に、冒険者達は言葉が詰まる。


「勿論、そんな事をすれば、僕に罪がかかり、追われる事になるけどね」


「そ、そうだよ。

 その通りだな」

 冒険者達や職員達は、安堵のため息をはいた。


「あ、でも……最後に残った者には、どの様な手段をもっても伝える事が出来ない様にすればいいのか」

 さも、思いついた様にエルヴィスは言う。


「あ……それは……」

 全員、顔を青くする。


「……するかよ。

 全員、アーノルドさん達の事を思い出しては、罪に押し潰されて苦しめばいい。

 俺は絶対に許さない」

 そう言って、今度こそエルヴィスは、ギルドを出ていった。


 ギルドに残された者は、全員うつむき、アーノルド達に世話を受けた者ばかりで、エルヴィスの言葉は重く心にのし掛かり、罪の意識で涙を流した。




 エルヴィスは、神殿に着いた。


 中に入ると、白く美しかった中は奥に行くほど血で汚れていった。


 そして、20人程の女性が集まり泣いていた。


 ゲルハルトに命令され、神殿を襲撃した女性冒険者達であった。


 エルヴィスに気づいた1人が、エルヴィスを見ておののき、全員に伝染していく。


 エルヴィスはため息をはき、言い訳を、許し得ようとする女性冒険者達に、先ほどのギルドで言った事をもう一度言って、殺したウィリアムの遺体や、神官の遺体達、そして、孤児達の遺体を神殿最奥にある墓地へと運ばせ、一体づつ、遺体を埋めさせた。


 エルヴィスは、再び双天使を呼び出し、ウィリアム達の魂を天に送らせた。


 エルヴィスは、女性冒険者達に、血で汚れた神殿の清掃を、ギルドにいる冒険者達を呼ばせ、ともに清掃させた、


 エルヴィスは清掃を任せ、神殿を出て、かつて使用していた孤児院の部屋で休む事にした。


 エルヴィスは、アーノルド達やウィリアム、シータ、孤児達の事を思い、泣き疲れるまで泣き続けた。


 エルヴィスの悲しみは、清掃する冒険者達の心を、更に悔やませた。




 しばらくした、ある日の夜。


 ゲルハルトが魔人として目覚めた森の遥か上空。


 暗い夜に紛れ、キョロキョロと何かを探す、コウモリの様な翼をはためかせ飛ぶ少年がいた。


 少年は、肌が灰色の混ざった紫の肌に、赤く光る瞳、頭の両側頭部から弧を描く様に伸びる角が生えている。


 ゲルハルトの様な、人からなった魔人ではなく、純粋な、生まれた時から存在する、魔族だった。


 その少年魔族に近寄る、もう一体の魔族が現れた。


「ヴィロ、ここで何をしている」

 もう一体の魔族は、少年魔族に声をかける。


「う~ん……いやさ?

 10年前に面白そうな魂が、魔人になりそうでさ。

 ちょ~っと、邪気を集めるのを手伝ってみたんだよ。

 それが、そろそろ、目を覚ましそうだったから、見に来たんだけど、見つからなくて……バァンは知らない」

 そう言いながら、ヴィロと呼ばれた魔族は、今だキョロキョロと探す。


「知らんな……失敗したか、既に滅ぼされたか、じゃないか?

 それより、王都の方に、厄介な奴かいるから、手伝え」

 バァンは興味がないのか、適当に答え、バァンの都合を伝える。


「……やっぱ、そうかな~?

 はぁ、仕方がないな~。

 残念だけど……そっち、面白い?」


「知るか、いいから手伝え」


「わかったよ」

 2体の魔族は夜に紛れ、王都に向かった。




 数日後。


「行くのか?」

 冒険者ギルド長、ガントは、荷物を持ったエルヴィスに問う。


「……もう、ここには何もないから」

 ガントは、あれから幾度かエルヴィスに会ったが、エルヴィスは笑う事がなくなった。


「たまには、アーノルド達やウィリアムの墓参りに戻ってこい……アイツらには会いたくないだろうが、俺には、顔を見せてくれ」


「……うん、ギルド長……また」

 エルヴィスは頷き、町を出た。






 王都にある神殿本部。


 1人のシスターの衣装を纏った少女が、五大神に祈りを捧げている。


 祈りを終えた少女は立ち上がり、神殿を出た。


「聖女さま~!

 鎖の聖女さま~」

 聖女と呼ばれた少女の下に、幼き少年少女が集まり抱きつく。


「みんな、どうしたの?」

 聖女はしゃがんで子供達の目線に合わせ、幼い子供に微笑み質問する。


「あのね、あのね~」

 子供達の話を聞き答え、やがて満足した子供達は、家に返る者、また遊びに向かう者達を見送った。


 ビュウーー!


「きゃ?」

 見送る聖女に吹き抜ける強い風が、聖女にはこれから起こる何かを予感させた。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


私個人的にいろいろと考え、一章の終わりとなるここで、最終とさせていただきました。


ハッキリといって未完です。


が、これ以上は、無理と判断しました。


実力が足りなくて、申し訳ありません。


これからも、ちょくちょくと書いていくつもりです。


見かけたら、よろしくお願いします。


最終に、評価点、感想を頂けたら嬉しいです。

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