表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界帰りの魔王経験者、殺人事件を強引に解決する  作者: 遊野 優矢(ゆうや ゆうや)
3/22

FILE 0-3

 学校の屋上で、化け物と呼んで差し支えない姿に変貌したクラスメイトに、頭を握りつぶされそうになっている。

 魔王になる前だったら、比喩抜きでちびってるところだ。


「やめなさい! 今なら助かる方法もあるかもしれないわ!」


 恵流川は目の高さに拳を構え、じりじりと間合いを詰めている。


「嘘をつくな!」


「――っ」


 山田の一括で、恵流川は口ごもる。


「ここで説得材料がなくなるなら、最初から下手な嘘なんてつかない方がいいと思うよ」


「う、うるさいわね!

 あなたなんでそんなに冷静なのよ!」


 俺の意見に耳を貸す気はないらしい。

 まあ、今更なアドバイスだが。


「せっかく忠告してあげたのに、そんなに怒らなくていいんじゃないかな」


「てめえ、なめてんのか」


 山田は俺の頭をにぎる手に力を込めた。


「ん……む? ぐぐぐぐ……」


 俺が痛がると思ったのだろう。

 全くの手応えのなさに、さらに力を込めているようだ。


 なるほど。

 寝ているときも常時発動させていたパッシブ系のスキルは、こちらの世界でも有効らしい。


「なあ恵流川さん、この状況をどうにかする手段って持ってるか?」


 手柄を奪ってしまうのも申し訳ないので、一応聞いておこう。


「今考えてる! だからそいつを刺激しないで!」


「いやあ、それなら自分の身くらい自分で護ろうかなと思うよ」


 俺は自分の頭を掴んでいる山田の手首を軽く握った。


 ――ぼぎぃっ。


「ぐぎゃぁ!!」


 鈍い音を立てて山田の手首が粉砕した。

 体をひねりながら着地した俺は、山田と向かい合い、見上げる形になる。


「な、なんだ……何をした貴様!」


 涙目になる山田くんである。


「ちょっと手首を握っただけだ」


 どうせならかわいい女の子の手がよかったが。


「ふざけるな! 何も装備していないただの人間に、そんなマネができるか!」


 現実を認めないとは愚かなやつだ。

 とりあえず、物理攻撃力の上昇は、この程度なら使えるようだな。

 次は魔術を試してみるか。


「くそがぁっ!」


 山田はオリジナリティのかけらもない雄叫びとともに、無事な方の拳を繰り出してきた。

 物理防御力のチェックもしたいところだが、この程度の打撃では、テストにもならなさそうだ。

 俺は山田の拳を避けつつ、その腹部に二本の指で軽く触れた。


 ――『ダスト


 魔術を発動した瞬間、山田の体は微細な塵となり、風に溶けていった。

 中級魔術も、問題なく発動するようだ。

 それにしても、追い風でよかった。

 塵をかぶっちまうと汚いからな。


「な、な、な……」


 恵流川は、口をぱくぱくさせながらこちらを指さしている。

 ヴァルキリースーツで強調された大きな胸がぷるぷる揺れている。

 あれを開発した人間は、よくわかっている。

 特に、下半身のデザインを黒タイツにしたのが素晴らしいね。

 うむ、現代最高!


「そんなに驚かなくても、証拠は残してないよ。

 痕跡を残すと色々面倒だろ?

 殺していいものかは迷ったが、どうせ人間には戻れないようだったし、恵流川さんも殺す気みたいだった。

 そもそも、元の山田君とは、中身は別人のようだったしね。

 違うかい?

 そうそう、恵流川さんが残した銃痕はそちらで処理してくれよ」


 何かの組織に属しているようだから、そういった部門もあるだろう。


「そういうことじゃないわよ!

 なんなの、その力!?」


 うん、まあ知ってておちょくった。


「病弱な深窓の令嬢が、リアクション系面白美少女になってるなあ。

 俺はこっちの方がスキだけど」


「そんなことどうでもいいのよ!

 なぜそんな力を持ったヤツが……。

 はっ! 言わなくていいわ。わかっちゃったから」


 まじで? わかっちゃったの?

 俺が思うに、キミのその洞察はたぶん間違ってるよ?


「『奪うプランダラー』を見ても驚かないこと、そしてその強さ。

 あなたも、組織の人間だったのね!

 さっきのは組織の新兵器!

 そうでしょ?

 武器の発動すら死角で隠したのはすごいけど、私の目はごまかせないわよ!

 さしずめ、私が失敗したときのバックアップということね。

 事件から今日が期日の三日目。

 やっと追い詰めたヤツを逃がすわけには行かないものね。

 しかし、なめられたもんだわ。

 主任に文句言ってやらなくちゃ。

 私の推理、当たってるでしょ?」


 ドヤ顔に胸を反らせる恵流川だ。

 眼福だからもっとやってくれ。

 セリフの中身は大外れだけどな。


 さて……こちらに戻って来て早々、ろくでもない事態に巻き込まれたもんだ。

 本来なら放っておいて、平和な生活に戻りたいところだったのだが……。

 もし、今までの俺が気づいていなかっただけで、日常的にあんな化物が世の中に多数いるのだとしたら、大いに問題だ。

 俺が楽しみにしている、マンガやゲーム、アニメのクリエイターや声優さん達が被害にあったらどうする!

 手を出すべきかはまだわからないが、情報だけでも得ておきたい。

 ネットで調べて出てくるような内容じゃなさそうだしどうするか……。


 恵流川のセリフに出た『三日目』というキーワードが気になるが、ここで質問をするよりも、良い方法がありそうだ。


「さすが恵流川さんだ。

 一発で見抜かれるとはね」


「ふふーん、やっぱりね。

 私の洞察力にかかればこんなものよ」


 あー、これ、本気でそう思ってるやつだ。

 彼女、実はちょっと脳筋だったのかな。

 いや、頭が悪いわけじゃないな。

 ただちょっと思い込みが強いのか。


「これから報告に行くだろ?

 せっかくの戦果だ」


「あなたの、でしょ?」


「いや、俺はいいよ。

 俺が攻撃した時には、実はかなりダメージが蓄積しててね。

 じゃないと、あの新兵器は効果ないはずなんだ」


「ふーん。

 私に貸しを作ろうっていうの?」


「そんなつもりはなかったけど、もしそう感じてくれるなら嬉しいね。

 あの恵流川さんに、小さいとはいえ貸しを作れたんだ。

 俺が困った時に助けてくれると、とても嬉しい」


「ふ、ふんっ。あなた、なかなかわかってるじゃない。

 うちの学校では目立たないぼんくらだと思ってノーマークだったけど、ブラフだったってわけね。

 やるもんだわ」


 ぼんくらとか!

 魔王になる前の評価としては正解だわー……。


「まあね」


 と、答えておこう。


「わかったわ。

 報告は通信ですませようと思ったけど、日本支部に顔を出しましょう」


「主任に文句も言いたいしね。

 だろ?」


「ふふっ。あなた、気に入ったわ」


 恵流川はちょっといたずらっぽい笑みを浮かべつつ、サムズアップ。

 いつもの上品な笑顔より、断然こっちのほうがかわいいな。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ