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王子様で王女様  作者: 迷
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番外編_王子様の病気

これは王子様と隣国のお姫様が結婚されるよりもだいぶ前のお話。



小さいながらも平和に栄える王国。特に愛妻家でな王様と優秀な一人息子である王子様が有名な国がここにはありました。

しかしながら今回は、非常事態だと言わんばかりの国の重鎮たち、王様やら大臣やらが円卓に集まって非常に難しい顔をして頭を抱えていました。



「もうどうしたらよいのだ・・・」



机にいくつも大粒の汗を落としながら、大臣の一人が絞り出すような声で言います。



「王子が・・・王子が・・・・・・!!」



王も顔面蒼白でそれはもうげっそりとした顔で項垂れています。

どうやら彼らが悩んでいるのは国の最も尊い存在、王子の事のようでした。


・・・しかしそこに一人だけ、彼らを冷めた目で見ている方がいました。

その場にいる重鎮たちとは違い一人だけ椅子に座らず壁際にしゃんと立ち、豪奢で派手な貴族服ではなく動きやすい兵士の軽装と主たちを護るための長剣を腰に下げた女性。

彼女は貴族の女性でありながら剣の道へと進み、前線から退いた今は今回の会議の元となっている王子のお付きとして勤めている女剣士でした。





事の発端はこの会議が開かれる数刻前のことでした。





「おはようございます王子。本日のお召し物は乗馬用の服でよろしいですか?」



女剣士の一日は朝の早い王子の着替えの手伝いから始まります。


いつも通り王子の部屋に訪れると、王子はすでにベッドから起き上がって自分で寝間着を脱ぎ始めていて、訳あって国のほんの一部の者しか見ることが許されない王子の体は相変わらず良く日に焼けて筋肉がしっかりと付き、まさに活発的な健康男児そのものです・・・胸部には小ぶりながらも男児にはまずありえない柔らかいものが2つついておりましたが。



「ああ頼む。

それとすまないが止血用の薬を頼めるか?夜中に怪我をしてしまったらしくてな」



王子は女剣士の方に首だけを向けてさらりととんでもないことを言いました。

国の後を継ぐお方が止血薬が必要になるような怪我をしていると聞き、抜け切れていなかった女剣士の顔は眠気を一気に吹き飛ばして戦へ赴く戦士のものへと一瞬で変わります。



「もしやこの城内に刺客!?ならば今すぐに兵の用意を!」


「ああいや、そうではない。ただ朝起きたらこうなっていてな・・・」



王子の部屋の外に何人かはいるであろう下働きの女へ一大事を知らせようと閉じたばかりの扉を再び開けようとする女剣士に、王子はのんびりと呼び止めてあるものを手に取って見せます。



「こ・・・これは・・・!!」



女剣士はそれを見るなり王子の着替えと怪我の処置だけを慣れた手つきで素早く手伝い、代わりのお付きの者を呼び出して王子を任せ、それが終わると一目散に王子の父親である王の部屋へと走りました。その手にはしっかりと「あるもの」を抱えて。





「・・・お言葉ですが、本来の性別ではなく男の子として育てると決意した時点で分かっていたことでございましょう?」



再び話は円卓へと戻りまして、国のお偉方が集まるその場では本来は発言の権利など言われなければ持てないような女剣士があきれ顔で彼らを見て言いました。しかしそれを注意する者は何故かいません。



「で、一体どうなさるおつもりなのですか?」



それはお尻の当たるあたりに血がべっとりと付いた、王子のズボンとシーツでした。





・・・子を持つ大人や女性であれば、それを見れば大した事ではないと気付くことでしょう。それは年頃の女性になったのなら必ず訪れるものでした。

そして本来なら、王子が本来の性別の通り女の子として育てられていたのなら、そのことは何ら問題ないまま説明がきちんとできたはずなのです。

しかし、今回はそうはいきません。何しろ王子様表向きは男性であり、王子自身も自分が男性であると認識しているのですから。



全てはこの場で一番青い顔をしている王子の父、王が嘘を積み重ねてきた結果の自業自得なのです。

女剣士は男の子として育てることを決意した王と、それを了承してしまった大臣達に同情の気もありませんでした。何しろ彼らの厄介事を一番に押し付けられているのは他でもない、王子お付きの女剣士である自分なのですから。


そんな冷たい視線にも気づかず、王達は顔色悪くブツブツと王子の・・・怪我への説明についてどうしようかと悩み続けます。

いっそのこと本人に本当のことを打ち明けるのが手っ取り早い。しかしそうなると今まで騙してきたツケが王子や他国から押し寄せることでしょう。それに正義感の強く嘘が嫌いな王子です。父親である王を見る目も変わってしまうことでしょう。息子大好きな王がそんな目にあったら、それこそ心臓発作でも起こして国の一大事になってしまいそうです。


そんなこんなであたりが暗くなるまで円卓のドアは開かないまま、お茶を淹れかえる下働きの一人すらも通されないままに長い会議は続き、そしてようやく1つの解決策が導き出されました。



「かくなる上は・・・!!」





王子の元に女剣士が戻ってきたのは1日後。次の日の早朝の王子の着替えるその時まで例の会議は続いていたのです。

休むことなど滅多に無かった女剣士が1日振りに目の下の隈を作ってやってきて、そして寝起きの王子に放った言葉に、王子は目を驚愕で見開きました。



「僕が、不治の病・・・?」



「病」とはもちろん、昨日の王子の「怪我」のことで、女剣士曰くそれは完治が難しい不治の病。流石の王子も治らない病気に自身がかかってしまったことに驚きと不安を隠せない様子でした。

・・・しかしそれに付け加える形で女剣士は安心させるようなゆっくりと王子に話を続けます。



「はい。ですが命を脅かすようなものではなくごく一般的にありふれている病です。

唯一厄介な事と言えば、その病は一度発症するとほぼ一生に渡って完治ができず、治ったとしてもおよそひと月もすればまた再発してしまうのです・・・」



「な・・・それは何の病気なのだ!?」


「それは・・・・・・!」



続きを急かすと女剣士が苦しそうな表情でさっと下を向いてしまったので、王子はそれほどのものなのかと、ゴクリと唾を飲みこみ病名の発表を緊張した顔で待ちました。

実際に女剣士が顔を伏せた理由は病名を告げる心苦しさではなく「何故私がこんな事を・・・!」という、自分にこれを言う役目を一任もとい丸投げした王始め国の重鎮たちへの恨みやら恥ずかしさやらのせいだったのですが。



「その病名は・・・・・・・・・痔ですっ」



長く溜めた後に女剣士が震える声で伝えた病名。それが、王子の本当の性別を知る彼らが丸一日かけて考え出した答えが、これだったのでした。



「・・・ぢ?」



不治の病の病名くらいなら一般人より少し多い程度に知っていた王子ですが、それはあまりにも聞き馴染みの無い名前でした。

女剣士は心の中で王たちに蹴りを入れながら夜中に必死にでっちあげた王子の病気、痔の詳細を続けます。



「これは座る仕事をされている方が特にかかりやすい病で、それは人類の半分がかかっている・・・とも言われている身近な病でございます。

とりあえず真ん中に穴の開いたクッションをお使いになられている方は大体その病の保持者と考えてよろしいかと」


「な・・・何だと!?では父上の部屋の椅子に置かれていたアレは・・・!父上もなのか!?」



王子はハッとした表情で女剣士を見て、女剣士も肯定するように頷きます。



「そうです。なので今から私が痔の症状が出た時の対処法をお伝えいたしますので・・・」



それから女剣士は王子様の「痔」についての対策をしっかりと教えます。

彼女だって人類の半分、痔・・・の発症者です。それくらいの指導はお手の物でした。ええ本当に。





「・・・で、本当によろしかったのですよね王、いや陛下・・・義兄上さま?」



事が「痔」によって終息したその日の夜。女剣士は例の円卓の国の重鎮たちをジロリと睨みつけて低い声で言いました。



「ああ・・・辛い役目をさせた。お前には特別手当を与え・・・ついでに望む褒美も与えるから、その、そんなに睨まないでくれないか?」


「すまない・・・本当にすまない!!」


「このとおりだ・・・」



この国の最も偉いはずの王は狼に睨まれた小動物のように床に縮こまって震えながら女騎士を見ていました。

さらには兵士をアゴの一つで動かせるような大臣も、外交の要になる大臣も、そんな様子を諫めることなく王に続いて頭を下げながら震えています。自分達より圧倒的に立場の低い女剣士に頭を下げている彼らの姿は、外部の者には絶対に見せられないものでした。

「性別逆転させているなら避けては通れない問題だよな~」と思ったため制作してみた番外編。

少しシモ系な話になってしまいましてすみません。

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