05_王子様の発表
もはや縁談でもお茶会でも何でもない、互いにそこらにあるものを投げ合う子供の喧嘩のような王様同士の喧嘩状態となってしまったこの惨状。
2人の王が互いの胸倉に手をかけようとしたところでようやく付き人2人がハッと正気を取り戻して素早く動きを止めに入ったのですが、その頃にはテーブルや椅子や彼らの周辺、おまけにお高い服までも茶器と茶と茶菓子とその他がぐちゃぐちゃに混ざった無残な状態となっていました。
既に若い子供に色々任せて大人しい身になっているとは言っても小さな頃から武術も剣術も最高の教育を受けていた王様2人です。
そんな2人がプッチンすればそりゃあもう大変で、剣士2人は何とか各々の主人につかみかかり、精一杯に触れない距離まで引き離す頃には掃除人が見たら膝から崩れ落ちるような無残な現場となってしまっていました。
「おやめください王!」
「戦争にでもなったらどうするんですか!」
可哀想なことになったお茶会セットを挟んで第二ラウンド開始寸前の鼻息の荒い2人の王様。
それを必死で捕まえて止めている2人の付き人。
姫様は大きな目を真っ赤にしながら泣きじゃくり、
そんな姫様をお姫様抱っこで安全な場所に移動させる王子様。
何かあった時の為に離れたところで待機していたメイド達は兵を呼びに一人残らず駆けて行ってしまっていました。
最初はお互いの親と子が静かに話し合う予定だったはずのお茶会は今やもう何が何だか分からない状態。
そんなもう既にひっどい現場の中、縁談でもお茶会でも闘技場でも何でもないソコにさらに最後の最後のトドメを刺したのは泣き顔も相変わらずにお可愛らしい姫様の一言でした。
「・・・どんなに反対されても私はこの方と結婚します!それに私たちの間には既に小さな命がおりますもの!」
先程まで散々喚き暴れていた王様2人。
ついでにそれを止めていた付き人。
そのどちらもが姫様のその言葉を聞いた途端、時間が止まったのかと思う程に静かに微動だにしなくなりました。
「「「「?」」」」
だって、ありえないことが王女の口から放たれたのです。
しかも元から既に混乱していたところにさらにそれなのです。
そりゃあ、そんな時にそんな事を言われたらさっきまで考えていたことやら行動やら、それに息やら瞬きやらまで忘れてしまっも仕方が無いじゃないですか。
場に響くのは今こうなっている原因を言い放った姫様のしゃくり上げる声と、場で動くのはそんな姫様を抱きしめている王子様だけでした。
王様2人なんてデッサンのモデルだって真似できないくらい完璧にピッタリ止まってしまっていて、付き人2人だって先程まで必死で捕まえていたはずの王様を抱える手がぷらんと肩から垂れ下げてしまっています・・・まぁ今の王様達は拘束を解いても喧嘩の再会は到底できない状態なので構わないのですが。
そこを何とかとかようやく頭の処理が少しだけ終わった付き人2人が王子様と姫様を震える声で問いただしました。
「う・・・嘘ですよね王子様?というか無理でしょう?物理的に考えて!」
「彼女の言葉は本当だ。私が嘘をついたことが今まであるか?」
王子はしっかりと付き人の女剣士の目を見て言いました。
「姫様、冗談はおやめください。できっこない願望は人前で言わないと約束したでしょう?」
「願望じゃないわ、事実よ!」
姫様は付き人の男剣士を頬を膨らませて睨みました。
付き人2人は聞く事を脳が拒否する耳でなんとか言葉をゆっくり認識して、老人以上に働かなくなっている状態の頭でその内容をじっくりと考えて、そして結局、何が何だかわからないと頭を抱えてしゃがみ込んでしまいました。
それと入れ替わりにようやく置物みたいな状態から生物に戻ってきた2人の父王が詰め寄ります。
「い・・・いやいや王子よどういうことだ?というか大体どうやってお前に子を作れるのだ?
まさか大臣が研究していた変な術か何かで 生えた のか???」
「そうだぞ姫よ!というかまずお前に 子を宿す機能自体そもそも無い だろう!!? 」
「「「「・・・・・・」」」」
「「「「???」」」」
王2人はしばらく見つめ合い、つい先程相手が言った言葉の内容と、自分が言ってしまった最大の秘密についてのことを子供そっちのけで考えました。
付き人2人も同じようで、頭を抱えたついさっきまでのポーズのまま顔だけ上げて互いの顔を見合わせました。
やがてお互い意を決して、恐る恐る口を開きます。
「ま・・・間違っていたのなら誠に申し訳ないのだが、もしやそちらの娘はアレか?あの、その・・・何と言うか・・・」
「まさかとは思うが・・・もしやそちらの息子も、なのか・・・?」
「王女様は王女様ではなく・・・?」
「そちらの王子様も王子様ではなく・・・? 」
「?」
「?」
2人の王様の様子が一変して互いの子供の結婚を認めると発表したのは、それからほんのすぐ後のことでした。