01_王子様の秘密
その国には、亡くなった王妃様の後に一人もお妃を娶らないでいる、とても愛妻家で一途な王様がいました。
周りの仲睦まじい王様と王妃様の姿を知っていた者たちは少し老け込みながらもせっせと仕事をこなす王様に何も言うことができず、それでも最初のうちはそれとな~く新たな縁談話を出す者はいたのですが、やがて諦め縁談のえの字も出なくなりました。
理由は王様が隣国でも有名なくらいの愛妻家であったことももちろん大きかったのですが、何よりも王妃様が亡くなる直前に生まれた次期国王となる小さな王子様がいたことが大きかったのです。
最初はお世継ぎがお一人では何かあった時に色々と不安だ、と言う国民もいたのです。大臣たちだって形だけでも・・・の縁談話を持ってきてはました。
しかし、王妃様が亡くなった時はまだ歩けもしなかった王子様は今はやんちゃながらも国民や家臣を気遣うことのできる時期王に相応しい元気で優しい男の子に育ってくれ、そんな姿を日々見ていれば不安の声も一人また一人と消えていなくなってゆきました。
「小さな王子様。そんなに走ってばかりでは馬が疲れてしまいますよ?」
「では後で剣の稽古をしてくれ。僕はまだまだ遊び足りない!」
そう大きくないこの国では毎日のように外で見られる王子様とお付きの女剣士の会話です。
国のあちこちを小さな愛馬に乗って駆けていく日に焼けた王子様の笑顔は王妃様を亡くして沈んでいた王様や国中に住む者達を笑顔にする、国の何よりも尊い宝になっていました。
「優しい王様と王子様がいれば、この国は安泰だねぇ・・・」
走り疲れて体から湯気を上げる馬を引いて歩く王子を見て老婆が言いました。その近くにいる人々も老婆の言葉に無意識に首を縦に振って肯定していました。
「・・・・・・」
・・・しかしそんな中、ひとりだけ誰も気付かないようにため息を吐いている人物がいました。
王子様は、それはそれは素晴らしい王の素質を持っているお方でした。
体は風邪も知らない健康そのもので、大人の半分の身長も無いというのに小さな短剣で大人より素早い動きで国の名のある騎士とも手加減要らずで戦えるくらいに運動神経も抜群。
馬に乗れば自分の手足のように動かして険しい山もスルスルと登らせてしまうし、国を歩けば小さな変化も見逃さず発見する確かな観察力も持っていました。
さらに話も子供ながらに上手いので城の外にも中にも、さらには隣国の貴族や小さな姫君達にも人気者な王子様だったのです。
本当に、いずれ国を治めるにふさわしい器を幼いながらに全て持っていたのです・・・ただ一つを除いては、ですが。
「暑い!何故他の者は湖で水浴びをしているのに僕は城の風呂にしか入れぬのだ!?」
「王族は人前で服を脱ぐものではないのですよ王子様。万一襲われでもしたら大変ですからね」
「むぅ・・・ならば仕方ないな」
脱衣所で汗を吸った王子の服を脱がしながら付き人の女剣士は笑いました。
・・・何故、そろそろ年頃になる王子様の付き人が男ではなく女なのか?
彼女が王子の付き人になったのには、ちゃんとした理由があったのです。
女剣士の姉は現在の国王に見初められ嫁いだ、今は墓の下で静かに眠るこの国の王妃様でした。
自ら女らしい生活を捨て剣の道を選んだ自分とは違いおしとやかで美しかった姉が死に、寝返りがやっとできるようになった甥である王子様の世話役になるようと彼女が呼ばれたのは随分と前の事になります。
そしてその日、彼女は重大な秘密を王子様の父であり自分の義兄でもある国王様と王様に特に親しい家臣数人から知らされたのです。
「ほら、早く背中を流しておくれ」
「・・・あ、はい王子」
素っ裸でこちらを振り返る王子様は、馬や剣でついた少しの筋肉にのっぺりとした子供らしい凹凸の少ない胸やお腹をしています。
・・・そこまでは普通の男の子です。問題はそのさらに下でした。
「王子」には必ずあるはずのものが、無いのです。
王子様は、女の子でした。