表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/33

14.ハールの祠(3)

 それから少し休憩した後、再びホムラに呼び出された。

 心なしか、ギャラリーが少し増えている。


「じゃあ、二番目は……石割りだ!」

「石……割り?」

「そこを見ろ」


 ホムラが指差した方を見ると、砂浜と林の間に岩がゴロゴロ積み上がっている。


「ここから同じぐらいの大きさの石を二つ選んで……どちらが早く割れるか勝負だ。俺は拳と剣を使う。お前も好きなものを使っていいぞ」


 これは、石じゃなくて岩って言うと思うんだが……。

 まぁ、これは俺に分があるな。


「……俺は弓を使う」

「わかった」


 ホムラと手下があーだこーだ言いながら二つの石を選んだ。

 あまりごつくない……墓石ぐらいの厚さの岩だ。どちらも同じ色だし……多分、固さも同じなんだろう。

 卑怯なことしそうにないもんな、ホムラって。

 俺は深呼吸すると、ダンさんが新しく作ってくれた鉄の矢を取り出した。

 そして岩山を駆け上がって林の手前に陣取る。


「おい……そこから撃つのか!?」


 ホムラが驚いたように大声を出すと、俺を見上げた。

 多分……岩からは二十メートルほど離れている。


「そうだ!」


 俺も大声で返事した。

 上から打ち下ろす格好になる。でもこっちの方が、重力も考えれば威力が出るはずだからな。


 手下が俺たち二人を見比べると、

「じゃあ……始め!」

と号令をかけた。


 俺は深呼吸をした。意識を集中する。

 弓を引き絞り……思いきり放つ。

 カッ……という音がして、矢が岩に刺さった。だいたい、思い通りの場所に行ったと思う。

 二射目……一射目のわずかに下。手応えがある。

 何となく……岩の真ん中を捉えている気がする。

 そう思った瞬間、岩にビシッと亀裂が入った。

 俺は意識を集中すると、続けて三射目を放った。

 三射目が亀裂を捉え……岩が真っ二つに割れた。


「うおー!」

「すげー!」

「弓ってカッコいい!」


 見ていた子供たちの歓声で、ふっと我に返る。

 岩山をゆっくり降りながらホムラの方を見ると……亀裂は入ったものの、まだ割れてはいなかった。


「……俺の勝ちだな」


 砕けた岩から矢を取り出す。


「正直……驚いたぜ。弓にこんな威力があるなんてな」

「ダンさん特製の鉄の矢のおかげだ」


 汚れを落とす。矢尻を見たが……ヒビが入ったりはしてないようだ。

 確か、セッカが石を割るのに鉄の矢を使ったりしたと言っていたからな。イケるだろうとは思った。

 俺はダンさんに感謝しつつ、鉄の矢を矢筒に戻した。



 再び休憩を取る。

 その後砂浜に戻ってくると……ギャラリーがびっくりするぐらい、増えていた。


「……何だ?」

「ソータがカッコよかったって話が回って……最後の勝負を見にきたみたい」


 セッカが半ば呆れたように言った。


「まったく……お祭り騒ぎが大好きな集落みたいね」

「……ホムラらしくていいんじゃないか」


 そんなに長い時間過ごしたわけではないけど……何となく、ダンさんがホムラを気に入っている理由が分かった気がした。


「さーて、三番目をやるぞー!」


 ホムラがガハハと笑いながら陽気に現れた。


「何をするんだ?」


 俺が聞くと、ホムラはニッと笑ってロープを取り出した。砂浜に円を作る。

 これは、もしや……。


「おい……相撲か?」

「スモーって何だ?」

「何て言うか……組み合って押し出されたり、倒された方が負けっていう……」

「おお、それだ」

「おい!」


 俺はさすがに抗議した。


「どう考えても体重差があり過ぎるだろ!」


 しかもホムラは腕一本で木刀を凌ぎ、砕けさせた怪力の持ち主だぞ。


「だから、ハンデをやる。俺は真ん中から一切動かないし、お前に攻撃したりもしない。お前は俺を殴ろうが構わない。俺を倒すか押し出せば勝ちだ」

「……」

「やっぱり最後は身体と身体のぶつかり合いだろ。それが一番、分かりやすいしな」


 ……ホムラは、意気込みを見せろと言っていた。俺の本気をぶつけてこいってことなんだろうな。

 しかしな~。これはさすがに厳しいが……。ま、やってみるか。

 体育の柔道……もう少し真面目にやっておけばよかった……。

 今まで適当に過ごしてきた自分自身が悔やまれる……。

 ――そうか。俺のこういうところを、親父は心配していたのかな。


「用意はいいか?」


 ホムラが円の中心に立って腕組みをしていた。


「いいぞ」


 俺は上着を脱ぎ捨てて、上半身裸になった。服とか掴まれて阻まれると面倒だからな。

 本当はズボンも脱ぎたいところだが……さすがにそれは無理。


「じゃあ……始め!」


 砂時計を持った手下が声を上げた。


「うりゃあ!」


 俺は思いきり突進すると、ホムラの腰にしがみ付いた。

 うわっ……やっぱりでけぇ! 二メートル近くあるな。

 頑張って踏ん張って押してみるが……ビクともしない。

 この身長差だし……下に潜り込んで足を持ち上げてみるか。


 俺はさっと離れて距離を取ると、もう一度ホムラに突進した。ガッと左足を掴む。

 そのまま持ち上げようとしたが、ホムラは

「おっとと……」

と言って、体が持ち上がらないようにうまく体重を移動させた。巨体だけど、かなり細かいバランス感覚の持ち主だ。

 でも……今の動きで分かった。ホムラの軸足は右だ。右足を攻めた方がいいかもしれない。左足の方が、脆いはずだ。

 それに……あの、膝カックンだっけ? 子供の頃に友達とかによくやった、イタズラがあったよな。

 背後から右膝の裏を攻めてバランスを崩したところを持ち上げる、というのはどうだろう。


 俺は素早くホムラの背後を取ると、思いきり右膝の裏を拳でどついた。


「うおっ!」


 ホムラがバランスを崩す。俺はすぐに右足を取ると、思いきり持ち上げた。ホムラの身体が仰け反る。


「うおっとー!」


 ホムラは左足一本で自分の身体を支える。ここで思いきり右足を上げれば……!


「うおぉぉー! よいしょ!」


 急にホムラの右足が重くなり、地面についてしまった。その勢いで、俺の方が吹き飛ばされてしまう。


「くそーっ! いい作戦だと思ったんだけどなー!」


 思わず叫ぶと、ホムラがニヤッと笑った。


「お前、やっぱり見る力はあるな。すげぇぜ」

「ちっ……余裕ぶっこきやがって!」


 俺の頭の中では、左腕の痛みとか、船を借りなきゃいけないとか、何だかどうでもよくなっていた。

 ただがむしゃらに、ホムラに向かっていて……気が付いたら、時間切れになっていた。



「はー……」


 藍色の空を眺める。何だか体中が痛い……。


「あの冷静なソータを、ここまでムキにさせるなんて……ホムラの体力バカも、捨てたもんじゃないね」


 セッカが俺の背後から現れた。水那も隣にいる。

 三番勝負が終わったあと……集落の皆が俺たちに料理を振る舞ってくれた。

 やっぱり……俺が指摘した通り、最近海の獣が荒れていて漁がうまく行かない日が多かったようだ。

 それで結構沈みがちで……要するに、士気が下がっていたらしい。

 でも、今日の三番勝負がすごく盛り上がったから、久し振りにみんな楽しめたようだ。


 勝負が終わったあと、いろいろな人が俺のところに来て激励してくれた。

 ……近寄ろうともしなかったのは、やはり、あの赤毛の男だけだ。

 ついでにいろいろな人に聞いてみたが……赤毛の男はホムラの幼馴染で、この集落ではいわゆるナンバー2的な位置にいるらしい。

 闇に囚われてるということは、裏切り者である可能性も高いと思うが……ホムラも集落の人も、かなり信用しているようだ。

 どう伝えたものか……と考えているうちに、結局言えなかった。


 ホムラは俺たちを使っていない小屋に案内してくれた。

 ホムラが寝泊まりしている小屋よりは少し広くて……どうにか三人寝られそうだ。

 ホムラは豪快に笑って「じゃあ、明日船を出してやるよ」と言って帰って行った。


 三番勝負で意気込みを見せろなんて言ってたけど……多分、集落を盛り上げるきっかけになれば、とでも考えていたのかもしれないな。

 それに……余所者の俺たちが馴染みやすいように、という思いもあったかもしれない。

 ――いや、そこまで考えるタイプじゃないな……多分。何となく、いいと思ったことをドンドンやっていっただけなのかも。


「そうだな……。今まで適当にやり過ごしてたからな……」


 セッカと水那が俺の隣に腰を下ろす。


「がむしゃらってのは……忘れてたな。いい機会になったよ」

「適当って?」


 セッカが不思議そうに聞いてくる。

 まぁ……セッカにも、縁のなさそうな言葉だよな。


「真面目にやってたのは弓道……弓だけでな。あとは……勉強も……人付き合いもなすがままというか……」


 さすがに女、と言ってしまう訳にはいかん。


「ふうん……。あ、そうだ。集落の女の子たちが何か騒いでたけど……間違っても相手しないでよね」

「分かってるよ。今はそれどころじゃねぇっつーの」


 元いた世界の同級生の女子を思い出す。

 適当に流してた俺に対して……あれはあれで、すごく一生懸命だった子もいたんだろうな。

 中途半端な対応して、悪いことしたよな……。


『……ん……』


 水那が胸を押さえながら少し呻いた。


『どうした? 具合が悪いのか?』

『……少し……』


 この海岸は、デーフィに比べると闇が濃い。水那の身体にはキツいのかもしれない。


「明日には闇を回収する。それで……兄弟間の争いも治まればいいんだけどな」

「そうだね……」


 セッカが水那の肩を抱いて背中をさすってやっている。

 闇にはあまり関係ないだろうが……人の温もりをあまり知らない水那にとっては、いいのかもしれない。


「あ、そうだ。多分、ミズナも気づいていると思うが……一人だけ、闇にとり憑かれている人間がいる」

「えっ!」


 セッカが素っ頓狂な声を上げた。水那は小さく頷いている。


「あの、ホムラの手下三人衆の……赤毛の男だ」

「本当に!?」


 叫んだあと、セッカは何やら黙り込んだ。


「明日、闇を祓って……なくなればいいんだが。ホムラもかなり信用しているみたいだし、どう切り出したらいいか……」

「……そう言えば」


 セッカはじっと俺の顔を見た。


「あの……今日の昼間、絡まれたじゃん。アブルの手下とかいう奴らに」

「そうだな。あいつらも闇にとり憑かれてたぞ」

「あの時さ……あいつら、右の林から現れたよね? 左側がアブルの領地なのに……」

「……ん?」


 俺はその時のことを思い出した。確かに……そうだったかも。


「その……ソータが言っている赤毛の男と……通じてるってことじゃない?」


 セッカの言葉に……俺たち三人は、思わず顔を見合わせた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「旅人」シリーズ

少女の前に王子様が現れる 想い紡ぐ旅人
少年の元に幼い少女が降ってくる あの夏の日に
使命のもと少年は異世界で旅に出る 漆黒の昔方
かつての旅の陰にあった真実 少女の味方
其々の物語の主人公たちは今 異国六景
いよいよ世界が動き始める 還る、トコロ
其々の状況も想いも変化していく まくあいのこと。
ついに運命の日を迎える 天上の彼方

旅人シリーズ・設定資料集 旅人達のアレコレ~digression(よもやま話)~
旅人シリーズ・外伝集 旅人達の向こう側~side-story~
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ