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第32話 緊急クエスト7

活動報告にも書きましたが、ストックがなくなりましたが毎日投稿を続けれるように頑張りますのでこれからも引き続きよろしくお願いします。

「まさか俺が助けられるとはね…」


レスターは今まで舐めてかかっていた加護持ちの少年とその周りのおそらく加護持ちと思われる仲間達に助けられた事実をしっかりと認めた上でそう呟きゆっくりと立ち上がる。


「助けられたことに関して礼を言う。ありがとう。それと、犯罪者呼ばわりしてすまなかったな」


レスターから今までの非礼を突然詫びられた俺は驚きながらも自分が少し認められたことに嬉しさを覚える。


「良いってことよ、今回俺はあんたに手を貸してもらってるんだ、困ったときはお互い様だよ」


俺は精一杯の照れ隠しをして、そう答える。

できればそんな風にしてずっと会話をしていたいがそうにも行かなかった。

俺たちの目の前にはエンディルと言う化け物じみた強さを持つ敵がいるのだから。

先ほどは上手く連携して死角から一撃を叩き込むと言うやり方で不意打ちながらもダメージを与えることに成功した。

一人一人が個人技に走ってエンディルに挑んではおそらく俺たちは簡単に全滅させられてしまう。それでもああして複数人でタイミングをずらし相手に反撃を許さないように連携していけば少しはこちらに分がある勝負に持ち込める。

それに、こっちにはレスターという以前エンディルに1度勝ったことのある強力な味方がいるのだ。俺たちは勝てる、と言う、希望を強く抱き始める。

レスターは先ほどは弾かれてしまった大剣を拾おうとして大剣を見つけると、すでに1人の男がその大剣を拾っていた。


「オスカーさん、その大剣はこの方のものです。拾っていただきありがとうございます」


「あぁ、わざわざ悪いな、礼を言うぜ」


オスカーと呼ばれたプレイヤーはサクラさんの知り合いらしく、そう声をかけられレスターの元へ歩み寄る。

わざわざレスターが俺たちから離れて1人武器もなしで大剣を拾いに行くと言う隙をエンディルに見せることなく安全に武器を手にする方法として、このオスカーの行動はありがたいものだった。

それに対してレスターは素直に礼を述べる。いたって普通の光景だったが何故か俺は嫌な予感がした。

オスカーの顔がニヤリと嫌な笑みを浮かべる。


「危ないっ!!」


俺はなんの根拠もないがその笑顔を見て本能的にそう叫んでいた。

次の瞬間、オスカーが手に持っていた大剣を振り上げてレスターの肩に叩きつける。


ガキィィ


と、金属が砕ける音がする。

エンディルの刀を持ってしても砕けなかった白色の鎧が砕けて行く。


「なっ!?」


レスターが驚き声を上げる。

俺たちは誰もが予測していなかったその光景に息を呑み何も言うことができず一瞬、思考すらも停止する。


「な、何をやっているんですか!!

下手な冗談はよして下さい!」



サクラさんが動揺の隠しきれていない声で叫ぶ。

と、同時にブーーっと、今朝聞いたものと同じブザー音が頭の中に鳴り響く。


「な?このタイミングでっ!?」


目の前に強制的にディスプレイが表示される。


『 緊急クエスト発生!

特別条件を満たしたため発動します。

現在、港町シフリートで行われている騎士と海賊で行われている戦いに海賊側で加勢せよ!


クエスト名:騎士を倒せ!

参加条件:緊急クエスト 海賊を捕らえよに参加中

成功条件:騎士の討伐・海賊の脱出

失敗条件:海賊の捕縛を許した場合・全滅

報酬:50000G・貢献度の高いプレイヤーには特別報酬

特別条件:・クエスト中にHP全損をしたプレイヤーは復活後、クエスト参加者はクエスト終了まで港に立ち入ることができません。

・本クエスト中に限り敵対勢力間での戦闘によるPKを容認する。


参加しますか?yes/no』



「クハハッ!これは良いな!このゲームはやっぱり最高じゃないか!ゲームは楽しむものだからな!面白くないとな!」


レスターの肩に食い込んでいた大剣を引き抜いてディスプレイを確認したオスカーが表示された内容を見て喜びの声を上げる。


「海賊さんよ!今から俺があんたの見方をするぜ!」


そう言って手に持ったままのレスターの大剣を満足げに見つめる。


「へぇ、NPCの持ち物は強奪が出来るのか…ペナルティーで、対象の友好度減少大…ね、関係ないねそんなこと」


「っ?」


オスカーが衝撃的なことを口走る。NPCから物を強奪できる。そんなことが事実だとしたらプレイヤー達がNPCに襲いかかるなんて事がまかり通るようになってしまうかもしれないのだ。加えて先ほどのPKを容認することによって身勝手なプレイヤーやこの状況を利用したいプレイヤー達によってかなりまずい事態が引き起こされることが考えられる。


「なんだかよくわからねぇけど、俺にとってよい風が吹いてきてくれたってことか」


エンディルはそう呟くとゆっくりとオスカーの方に歩き出す。


「っ!!貴様あぁぁぁぁあ!!!!」


レスターが怒りの叫び声を上げ大剣を奪い返そうとするも、丸腰では武器を持った相手に、まして左肩を満足に使えない状態ではまともに戦うこともままならなかった。


「ぐふぅっ??」


腹に大剣を叩き込まれレスターがくの字に折れる。そして、腹を抱えてその場にうずくまる。

トドメを刺そうとオスカーが大剣を振り上げたところでヒュンっと矢がオスカーの頬を掠める。

わずかに気をとられた間にアレックスが大盾を構えてレスターを守るように前線に出る。


「良い加減にしてくれ、オスカーさん、貴方は自分が何をやっているのか分かっているのか?」


思考の停止していた俺だったがここまできてようやくnoを選択して自分達がやるべきことを始める。

なんの理由があってもオスカーは今やってはいけないことをやっている。あの人はやってはいけないことをやっているのだから。


詰め寄られたレスターが口を開く。


「お前達は勘違いしてないか?俺達は楽しむためにこのゲームを買ったんだろ?だったら楽しまなきゃいけないじゃないか?例えこれがログアウト不可能のゲームだとしても、楽しまなきゃ損するだけだぜ?強いやつに立ち向かい強い奴をぶっ倒す。これが俺がこのゲームに求める楽しさだ。この男を今ここでみんなで囲んで叩き潰すよりも、俺はこの男ともっと強いやつに挑みたい、これは俺の純粋な楽しみたいって言う思いだ!お前達のこのゲームに対する早くクリアしなきゃなんて気持ちよりよっぽどゲームに対して崇高な意思を持ってる俺のこの決断にお前達は文句を言う権限はないね」


ゲームを楽しむ。確かにやつはそう言った。

俺もゲームを楽しむために攻略から離れて海に出ることを選ぼうとしていた。同じように自分がゲームを楽しむことを全体の攻略よりも優先することを選んだ。そう口走るオスカーに俺はなんの反論もできない。それをやつの言葉を聞いてはじめに自覚してしまった。


「…それでも!残してきたものがある人達の帰りたいと言う願いを邪魔する権限は貴方にもないはずです。邪魔をすると言うのなら…」


サクラさんは再び弓を構える。

次は眉間を打ち抜く。言葉にしなくてもその場にいたプレイヤー達はみんながサクラさんがそう心の中で言っているのが聞こえた。


「今回お前達の攻略の邪魔になるようなことを俺はしないさ、ここを破壊されなきゃあんたらが被る損害はほぼゼロだろ?それに…」

タッタッタッ

足音を立てて先ほど船に乗っていたレスターの部下が走ってくる。


「大変です!突如船が謎の一団に襲撃されてほぼ全滅状態です!」


「なにっ!?」


レスターの驚きの声とその報告を聞きオスカーがニヤリと笑い、エンディルは腹を抱えて笑い出す。


「別に俺が何かをやれって言ったわけでもない。俺以外にも今回、海賊を援助する緊急クエストに参加したやつが何人かいたってことさ、そいつらもきっと俺と同じ考えだろうさ…」


部下の報告と、オスカーの言ったことの意味を理解して俺達は愕然とした。

それとほぼ同時にそこらから起こり始めた悲鳴や怒号を俺は耳にする。考えなくても分かる。PKやNPCへの略奪が始まったのだ、と。



その後は大した反撃も足止めもすることなく、オスカーとエンディル、そして数名のプレイヤーと海賊を乗せた一艘の大型船がシフリートの港を去っていくのを俺たちは見送ることしかできなかった。

いや、見送ることで早くこのPKを容認するクエストそのものを終わらせてしまいたかったのだ。


急展開です。少しここで物語が動きました。


これからも引き続きよろしくお願いします。

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