第30話 緊急クエスト5
今回は視点が2回変わります。
三回目の視点はかなり短いですが、都合でここにいれました。
よろしくお願いします。
「そうか、カイゲン君は作戦を成功させたのか…こちらは作戦失敗といった感じだがな」
サクラはカイゲンから受け取ったメールを読み、海を見つめる。カイゲンが呼び寄せた船がこちらに向かていることが確認できる。
が、しかし、こちらの被害は甚大で今もオスカーが一人奮戦して海賊を食い止めているといった状況で、それもいつオスカーがやられてもおかしくない。サクラはこの現状を包み隠さずカイゲンにメールで伝える。
オスカーはプレイヤー達の波を止めた後、自らその最前線に立ち海賊と一騎打ちを行なっていた。オスカーが大剣を振りかぶり、文字通りその大剣を海賊めがけて叩きつける。誰もが捉えたと思うほど早く、強烈な一撃を目の前の海賊はギリギリまで引き付けてから、二つの刀を大剣の優しく突き当てて軌道を斜めにずらす。先ほどから一方的にオスカーが攻めてはいるものの、その全てをこの海賊はまるで子供をあやすかのような目で否していた。
「お前さん、筋はいいがまだまだってところだな」
オスカーにしか聞こえない声で先ほどからこの海賊はオスカーにアドバイスを送っていた。
「動きがまだまだ単調だ、それに装備も貧弱だな、良い武器職人でも紹介してやろうか?」
「そいつはっ、ありがたいっ、ね!!」
オスカーは相手のなめた態度にいらいらしながらも三連撃をしつつしっかりと目の前の強者に返事をする。ここまでの攻防を見る限りおそらくこの海賊は俺を他のプレイヤーと同じように一撃で葬ることもできたはずだが、ここまでそうせずに俺を活かしてくれている。その意図は分からないが、これはオスカーを除いたカイゲンの帰りを待つプレイヤーにとっては好ましい状態であった。当の本人であるオスカーは先ほどの殲滅劇を行ったこの強者との戦いで時間を稼ごうとなど全く思っておらず、余裕を見せてくる奴にいらだちながらもこの状況を楽しんでいた。
「なんの魂胆かは知らないが、アンタとの戦いは楽しいからよ、感謝しとくぜ」
「まあ、俺ももう少しの間は暇そうだからなぁ、それまでの暇つぶしに付き合ってもらってるのさ」
暇つぶしに自分を使っていることにもいら立ちを覚えるがすぐに楽しさがオスカーのいら立ちをかき消す。オスカーは、前線組と呼ばれる攻略の最前線に位置しその中でも随一の実力を誇りながらも、周りの前線組のプレイヤーとは決定的に違う点が1つだけあった。
それは、オスカーはクリアすることを目標にしているのではなくこのゲームを純粋に楽しむこと。
そんな奇特な考えを持つプレイヤーだが、実力は折り紙付きでなおかつ強い敵を求めているオスカーと少しでもゲームを早く進めたい前線組との利害が一致してオスカーは前線組と呼ばれる集団に属しているに過ぎなかった。
「いけない!オスカーさん!今すぐにその場を離れるんだ!!
他のプレイヤーも今すぐにその場を離れろ!!急げ!!」
今までに巡り合ったことのない強者との戦いを楽しんでいるオスカーにサクラが大声でそこから逃げるように言っている。オスカーはそれを無視することもできたが、その声の必死さに、ここは一度引くことを決め引こうとした時だった。
ドォォーーーン、と大きな音がオスカーを含む港手前で防衛にあたっていたプレイヤーの耳に聞こえた。
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「な!?何やってんだっ!まだ俺の仲間がいるって言っただろ!」
「君の仲間がどうなろうと知ったことではない、君の話が真実なら彼らは皆、加護持ちなのであろう?」
「っ?!だからと言って、やって言いことと悪いことがあるだろ!」
俺は、目の前で俺の仲間たちもろとも大砲でエンディルを吹き飛ばそうとしたレスターに向けて怒鳴り声をあげた。発射の寸前にサクラさんにメールを送りはしたが間に合ったかどうかは分からない。
「心配はいらんさ、海賊エンディルはこの程度の攻撃では全くの無傷だろうよ」
そう言いながら、レスターは望遠鏡を使って着弾の瞬間を確認させていた部下を呼び寄せる。
「どうであった?やったか?」
「ハッ!奴は砲弾を切り伏せ全くの無傷であります!なお周辺の被害もゼロのようです」
この報告を聞き、俺のほうを見てレスターはいやらしい笑みを浮かべてから、部下に指示を出す。
「このまま、港に船を着けろ!上陸する!船は沖に対して平行に着けろ!港を封鎖して船を寄り付かせるな!近づいてくる船は撃ち落とせ!」
俺は、この男を利用する自分の案が本当に正しかったのか疑問を覚えながらも、どうすることもできず船が到着するのを待つしかなかった。
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「たくよぉ、めんどくさいやつがやっぱり来やがったか」
エンディルは飛んできた砲弾を叩き切り、この砲弾を撃ってきた船を見る。
「よお、おまえら無事かぁ?」
そう声をかけられたオスカーは目の前で大砲の砲弾を切り伏せたという現実にあっけにとられて何も返事ができずにいた。
「ま、これで暇つぶしも終わりってところだが、まだやるかい?」
今までのお遊びのような雰囲気ではなく背筋が凍るほどの殺気を放っている男を前に誰一人として、返事をすることができず、エンディルはバリケードを難なく突破していった。
これからも引き続きよろしくお願いします。




