第29話 緊急クエスト4
バンッ!
と言う、発砲音とともに、ゼンジューボーが放った弾丸が標的である海賊に向けて一直線に飛んでいく。
既にここから100メートルほどの距離まで近づいてきていたため、サクラたちは海賊を視認することができていた。
誰もが、音と共に放たれた弾丸は的確に奴を捉えるそう思っていた。
しかし…
「ったく、挨拶もなしに」
【遠視】を行っていたプレイヤーは海賊の口が動いたのを見た。【聴覚強化】という聴力を強化するスキルを持っていたプレイヤーはその僅かな声を聞き取った。
次の瞬間、海賊は腰に差していた日本の日本刀と思われる刀を抜き去り飛んできた弾丸をたたき切った。
「な、なんだと!?」
ゼンジューボーは思わず声を上げる。
銃弾の動きはゲームであるため現実の弾速よりは少し遅く設定されており、視力系のスキルを重点的に取得しているプレイヤーはその弾を見切ることができる。しかし、この100メートルほどの距離からの先制攻撃である。それに見切る事が可能とは言ってもそんなことができるプレイヤーはごく一部のプレイヤーだけであり、この海賊にできるなどとは思っていなかった。
「くっ!遠距離攻撃が可能なプレイヤーは直ちに総攻撃!時間を稼げ!」
サクラはあたりにいたプレイヤーに指示を出す。
あたりには、ゼンジューボーが連れていた、銃を扱うプレイヤー達が複数に加えて、魔法を扱うことのできるプレイヤーがヒョウとケイを含めた数人と、弓を扱うサクラ自身も加え、サクラの指示で一瞬動きの止まっていたプレイヤー達が一斉に攻撃を始める。それなりの数のプレイヤーによる遠距離攻撃は弾幕となり海賊の進行を遅滞させるのは勿論、かなりのダメージを与えるとサクラは考えていた。
が、それをあの海賊は自分に当たる分の矢や弾を叩き落し、魔法でさえも叩き切って進行してくる。あれだけの攻撃を受けてあの海賊は全くの無傷だった。
サクラがその結果に呆然としていると
「何だ!?始まったのか?」
騒ぎを聞きつけて、港の中や、離れた位置にいたプレイヤー達が集まってくる。
「おめえら!全員でタコ殴りだ!行くぞっ!」
血の気の多いプレイヤーを先導してどこの誰とも分からないプレイヤーが掛け声をかけると共に集まってきていたプレイヤー達が一斉に突撃を開始してしまう。
「だめだ!無暗に突撃しては!!」
サクラは必死にプレイヤー達を止めようとするがその波を止めることはできなかった。
「ま、お前が止めても俺が行かせてたさ、気にするな」
そう言い残してオスカーもその波に加わらんとして突撃を開始する。
後は、その海賊に一歩的に蹂躙されるだけだった。海賊は手に2本の刀を握り冷静に向かってくる人波を見つめ、その波が自分の刀の届く範囲に届くと、流れるように自然で、蒼く煌く刀を、見ているものに美しいとさえ感じさせる太刀筋でその波を断ち切って言った。前線で次々とプレイヤー達が切られ空いたスペースに後ろから来たプレイヤー達が押しよせ叩き切られる。
このプレイヤーの波は海賊に叩き切られ続けた、止まろうにも後ろから来るプレイヤー達が邪魔で誰も止まることができず、後ろにいるプレイヤーは前で何が起こっているのか全く分からずただ前へ進むだけで進軍を止めることができず、後方にから突撃に参加していたオスカーがこの事態に気が付き進軍を止めたころにはプレイヤー達は壊滅的な被害を被っていた。
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「で、何故こんなところに犯罪者である君があんなぼろ筏で一人でいたのかね?」
筏が沈没する寸前のところで救出された俺は目的の人物の目の前にいた。
「犯罪者って呼び方は気に入らないけど…あんたに頼みがあるんだ」
「無礼者!!レスター騎士団長様になんて口の利き方をするんだ!」
俺の言葉を聞いた周りのNPC達俺を非難する。
なるほどレスター騎士団長っていうのかこの騎士さんは。
「所詮は犯罪者だ、口の利き方を知らんのだろう、で?頼みとは?」
口の利き方をなんだかんだと言いながら、一応話しは聞いてくれたためにさっきからの俺に対する犯罪者という扱いをされていることを心の中で我慢しつつ俺は、大事な話を始める。
「海賊、エンディルが脱獄したのは知ってるよな?あいつが今すぐそこの港にいるて言ったらどうする?」
「何っ?それは本当か?」
俺の言葉にレスターは思わず声を上げる。
「海賊がなにやら船を出しているとの目撃情報からここに来ていたのだが…まさか、一連の海賊たちの動きはこのためだったのか!」
レスターは独り言のようにつぶやいた後、部下と思われるNPC達に号令を出す。
「直ちに船をだせ!目標は港町シフリートっ!そこで海賊エンディルを討つぞ!!」
号令に従ってNPC達が支度を始める。
コツコツ音をたてながらレスターが歩み寄ってくる。
「ふんっ、ひとまずは犯罪者である君に力を貸そうではないか。より重罪人であるエンディルを討つために…ね」
レスターはそんなことを言い残して俺の下から去っていった。
「嫌味な奴だなアイツ、友達いないだろ」
俺はひとり呟きながら、サクラさんにメールを送信して、港を見つめた。
「待ってろよ、エル!」
これからも引き続きよろしくお願いします。