第28話 緊急クエスト3
今回も前回と同じで、前半と後半で視点が違います。
俺が乗った筏は順調に目的である船へと距離を縮め、その周りを囲んでいる海賊船とは目と鼻の距離のところまで来ていた。
「クッ!ぬっ!」
しかし、俺の作った筏が安定性に欠けていたのか、それとも海の荒波を全く考えていなかった俺の想定不足なのか、沖へ進むにつれ波にあおられ飲み込まれる寸前まで来ていた。
なんとか、帆の支柱に捕まって耐えているがいつ海に投げ出されてもおかしくない状態であった。
「あんなところに筏が流れてやすぜ!」
「新手か?だかがボロ筏1つでなんのつもりか知らんが叩き潰せっ!!」
そんな叫び声が聞こえると同時に俺めがけて矢や石ころが放たれる。
「まじかっ!?やべぇっ!」
俺は船にたどり着ければ良いとだけ考えていてその周りの海賊を突破する方法や、攻撃される可能性なんていうのは全く考えていなかった。
とっさに身をかがめて少しでも当たらないように努める。
「っう!!」
いくら身をかがめたところで、数打ちゃ当たるの要領で放たれた矢や石が俺の肩や足をかすめて、俺のHPはかなりのスピードで削られて行く。
これは、ここで俺はリタイヤかもしれない。
と、ほぼ諦め欠けていたその時、
「まずいぞ、皆!海に逃げろ!!」
と、先ほど俺を打つように号令をかけていた男が今度は、海に逃げろと号令をかける声が聞こえる。
と、同時に
ドォォォォーーン
と、大きな音がなり俺は思わず支柱に抱きつくようにしがみつき頭は体に丸め込むようにして身を守る。意識してやったことではない。反射して俺はこの体勢をとる。
次の瞬間バキィ、と木の砕ける音と共にザッパーンと、何か重たいものが水に打ち付けられた音がする。
大砲だ。
俺はわずかに見える前方に船が沈み大きな水しぶきと大きな波が発生するのを捉える。
俺は、何かをする間も無くその大きな波に飲まれる。一瞬、呼吸ができず苦しさにしがみついてる手を離しそうになるがなんとか我慢してしがみつく。上も下も分からなくなるような感覚にとらわれながらも波に耐え抜いた俺が見た光景は、俺の筏以外の全ての船が波に飲まれてひっくり返り転覆している光景だった。
「あっぶねー…」
今回俺がこの砲撃で生き残ったのは奇跡と言える。これは間違いない。
俺のHPはもう5分の1ほどしか残っていないし、筏の耐久に至ってはもはや、13しか残っていなかった。
「って、まずいぞ、このままだと沈んじまう!」
ここまでくる間にどれくらいのペースで耐久を消費していたのか見ていなかった事を悔やみながらも俺は耐久が徐々に減って行くゲージを見る。
波に揺られて少しずつ移動するたびに耐久は減って行く。
もともと不安定だった結び目がほとんどほつれてもう船はバラバラになる手前と言ったところだ。俺のしがみついていたマストはもはや、上から半分は折れて海に流されているような有様だった。
「おーい!そこの少年!大丈夫かぁー?」
1艘の小舟が俺めがけて接近しながら声をかけてくる。
「はぁ~~…」
助かった。その、声に俺は深くため息を漏らした。
「たすけてくれーーーー」
俺は大声で叫び返した。
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サクラは目の前で今起こっていることを、認めたいと思えなかった。
文字通り人が波になって一人の男に向かっていく。
男は、手に2本の刀を握り冷静に向かってくる人波を見つめている。そして、その波が自分の刀の届く範囲に届くと、流れるように自然で見ているものに美しいとさえ感じさせる太刀筋でその波を断ち切る。
たったの一振りで、その軌道上にいたプレイヤー達は光の粒になって消えていく。
「こんな…こんあことがあっていいいのか…」
サクラは呟きながらも、ふと、こうなってしまった過程を思い出していた。
「俺に撃たせてくれ!後生だ!」
一人の男がサクラに頭を下げていた。横にいるオスカーは俺は知らないぞ、とでも言わんばかりにそっぽを向いていてサクラが困っているのを助けようとしなかった。
頭を下げているプレイヤーはゼンジューボーと言う名のプレイヤーで、武器は銃を使うプレイヤーであった。このゲームおいて銃は不遇うな武器としてこの1週間で認識されてしまった武器である。
戦闘では、自分が扱う武器のマイスタースキル以外にもその武器を扱うことを補助する働きを持つスキルや、単純に身体能力を上げるスキルを持っていないと苦戦してしまう。カイゲン君が良い例だ。
しかし、この銃を扱うプレイヤーはさらに求められるものが多い武器だった。
【銃マイスター】はもちろんのこと【弾薬製作職人】を取らなければ、弾の補充もままならず、銃そのものの威力の低さと命中率の低さから、それらを補うスキルや射程を伸ばすスキルがないと遠距離で扱うはずなのに30メートルほどしかろくに飛んでくれないなどさんざんなものであった。
これらの事実が分かったのはゲームが始まってからであり、銃を初期武器として選んだプレイヤーはことごとく全く関係のないスキルや、補助系統のスキルを入れてしまったため銃を扱うプレイヤーはここまで良い扱いを受けてこなかったのだ。
しかし、このゼンジューボーという男はこの1週間でかなり努力したらしく必要とされるスキルを自力で揃えることに成功したらしい。
「ここは、貴方に任せてみます」
サクラは、自らも遠距離攻撃が可能な弓を扱っていることから先制攻撃を自分が行うことも考えていたが、ここはこの苦労人に花を持たせよう。
そう考えて、ここはゼンジューボーに先制攻撃を任せたのだった。
ここでもしサクラが先制攻撃を行っていたら結果は変わっていただろうか?
答えは否である。
それでも、サクラはこの悲劇の始まりをどうにかして自分は回避できたのではないかと思ってしまう。
ゼンジューボーが銃の引き金を引いた時、この場にいた多くのプレイヤーは絶望感を味わうことになったのだった。
これからも引き続きよろしくお願いします。