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第26話 緊急クエスト

 ブーブー!!と、ブザー音、いや警報のような音がけたたましく頭の中に直接響くような感覚に襲われて目を覚ますと、目の前にいきなりディスプレイが表示される。


「緊急クエスト?」


俺の目の前に浮かんだディスプレイには確かにそう書かれていた。

試しにその文字を押してみると、


『  緊急クエスト発生!

商船を襲ったとしてとらえられていた海賊が一昨日、留置所を爆破し脱獄。

現在、港町シフリートに向かっていることが報告されました。近海に多数の海賊船が発見されていることからそこから脱出を図る模様。シフリートに滞在中のプレイヤーは直ちに港に向かい海賊を討伐せよ!


クエスト名:海賊を捕らえよ

参加条件:シフリートに滞在中

成功条件:対象の捕縛、討伐

失敗条件:逃亡を許した場合・全滅

報酬:10000G・貢献度の高いプレイヤーには特別報酬

特別条件:・クエスト中にHP全損をしたプレイヤーは復活後、クエスト参加者はクエスト終了まで港に立ち入ることができません。

・海賊団が港に上陸すると港の設備を破壊、略奪します。破壊、略奪をされると一定期間港が使用不可になり、物価が上昇、一部のものがNPCから買い取れなくなります。


参加しますかyes/no                                     』


と表示される。

 これを見た俺は跳ね起きて、すぐに準備を整えると廊下に飛び出す。すると、同じようなプレイヤーが廊下に飛び出してきているところだった。

俺は一度現在の時刻を確認すると午前4時32分。まだ外はうっすら明るくなってきてはいるがまだ暗いものだった

そこに、サクラさんからメールが入る。どうやら一斉送信で、俺とサクラさんのPTメンバー全員にあてたものだった。内容はすぐにニワトリ亭の玄関先に集合すること。と言う短い文だったが、こういった焦りやすい状況で冷静に素早く指示が出せるあたり、サクラさんはリーダーとして素晴らしい人だと思いながら、俺は急いで集合先に向かう。


 俺が行くと既にキースとサクラさんが玄関先で待っていた。その後全員が集まり次第、出発するとのことだ。それまでに俺は情報を少し整理する。俺はおそらくそのクエストの対象になる海賊が誰か知っている。恐らく、全プレイヤー中俺だけの情報だ。この海賊の格好と顔、それに使用する武器をも知っているのだ。俺の頭には、先ほどのメールの特別報酬と言う文を思い出す。

このゲームには、メニューにも存在しているようにクエストと言うシステムがある。今まで俺がクエストと無縁な生活をしていたから今回が初めてのクエストという事になる。このゲームのクエストは大きく2種類に分けられ、通常のNPCなどから受けるクエスト。そしてもう一つは今回のような緊急クエストと呼ばれるものだ。通常のクエストで得られる報酬が現段階では宿屋に一泊できればかなり割のいいクエストと言ったところで、今のところクエストだけで生活できるようなものではない。それに比べて今回の報酬額はなんと10000G…どんなプレイヤーでも金はあって困るものではないし、序盤に大量に資金を手に入れれば何かと楽にゲームを進めることができる。それに加えて特別報酬。どんなレアなアイテムが用意されているのか考えるだけでワクワクする。


 そんなことを考えていると全員がやってきたようだ。最後はどうやらリュウだったようだ。


「みんな、緊急クエストには参加したな?言わなくてもわかっているとは思うが、皆で協力して例の海賊を捕まえよう!」


サクラさんが、全員にこう宣言する。


「あの、すいません。

今回の緊急クエストの海賊なんですけど…実は俺どんな奴か知ってます」


「なにいぃぃぃ?」


声を上げたのはリュウだった。お前、そんなに驚くことかよ。


「時間がもったいないので事情と情報は港に向かいながら説明します。

今は、港に向かいませんか?」


「そうだな。事情も含めてしっかり聞かせてもらうぞ」


こうして、俺たちは港に向かうことになった。











「なるほどな、NPCとプレイヤーは犯罪を犯すと同じところに拘束されるのか…」


 港にたどり着くまでに俺はサクラさん達にあらかた事情と知っている情報をなるべく簡潔に説明した。

話していて留置所でのエルとの短いながらも楽しかったことなどが思い出されて、今からそのエルを倒すという事に胸が痛むが、ここでみんなを止めたり、一人エルの味方をすることはできなかった。

この、クエストは下手に俺が手を出して、海賊団の上陸を許したときに受ける損害が大きすぎるし、どうせ、エンディルを倒すことはほぼ不可能だからだ。


「にしても、日本刀の二刀流とはなんとも海賊らしくない武器を使うもんだな」


リュウが俺から聞いた情報を思い出し、自分の剣を見つめながら口にする。あいつは、海賊云々よりもその日本刀にあこがれているだけ、と言った目をしている。


「あぁ、そして敵は現状プレイヤー達の実力では束になってもとても相手にできないような強さを持っていると思っていい」


 俺は海龍リヴァイアサンのことについても説明しておいたのだが、現状ファイターラットに少し苦戦する俺達では相手にならない。サクラさんたちの話によれば現状、サクラさんたちのPTはほぼ最前線と言ってよいところまで到達しており、攻略組と呼ばれるこのゲームの早期攻略を目指しているプレイヤー達とほぼ同じところまで来ている。恐らく、まともな生産職のプレイヤーの数が絶対的に足りていない事と、生産職を志したプレイヤーが戦闘の難しさから初めの3日ほどはほとんど何もしていなかったことからくる純粋な火力不足と防御力不足が現状の課題とされているのだが…

 トップがこれでは力不足は覆せない。


と、なると、策を立てるしかない。か…


俺は頭をフル回転させて、策を考える。エンディルを倒せなくても海賊の上陸を阻むかエンディルを動けなくすればこのクエストは何とか成功に持っていける。


俺が、ふと顔を上げると、そこに、周りの船と激しい海戦を繰り広げている一艘の大きな船が目に映る。周りの海賊船が弓矢や投石を使って攻撃をしているのに対して、その大きな船は先ほどから

ドーンッと、音を立てて大砲を放っていた。


「ひょとして、あれは…」


俺の中に一つだけ、この状況でとることのできる作戦が思い浮かんだ。


「みんな!俺に考えがあるんだ!」


俺は作戦をみんなに説明する。




これからも引き続きよろしくお願いします。

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