第14話 NPC
「俺の名前はエンディル。みんなはエルって呼ぶからおめえもそれ頼むわ」
自分は海賊でエンディルという名前だ、と、目の前の男エルはそう名乗った。
海賊なんて自分から名乗るプレイヤーがいるとは、相当凝ったロールプレイをするプレイヤーなのだろう。
確かに改めてエルの装備を見てみると映画なんかでみたことのあるような海賊と同じような服を着ていた。
「へぇ、海賊ね、あんた面白いやつだな」
「なんでぇ、おめえは海賊が怖くねぇのか?」
海賊。と、言われたところでエルも俺達と同じプレイヤーである以上俺に乱暴は働けないし、そもそもそんなことをするメリットはエルにもないはずだから怖がる必要はどこにも無い。むしろ凝ったロールプレイをしている面白いプレイヤーとして興味がわいた。
「んで、おめえはなんてなめなんだ?」
「俺はカイゲン。よろしく」
俺がなのり、手を差し出すとエルもスッと手を出して握手をする。
「こんなところで会ったのも何かの縁だ犯罪者同士仲良くしようぜ」
俺はエルとフレンド登録をしようとしてフレンドの欄を開いたがフレンド登録のやり方がわからないことに気が付いた。
「すまないエル、フレンド登録をしたいんだけどやり方がわからなくてな、エルは知ってるか?」
「あぁ?フレンド登録ぅ?なんだそれは?」
エルが怪訝そうな顔で俺を見る。
エルは海賊なんておかしなロールにこだわっているプレイヤーだし、ひょっとしたら俺と同じで案内係から説明を受けていないのかもしれないな。それなら、フレンド登録を知らなくても無理はない。
「メニューを開いたらフレンドってコマンドがあるだろ?」
エルは全く俺の言ってることが理解できないという顔をする。
「おめえの言ってることが俺には理解ができないんだが」
「は?エルお前メニューの開き方も知らずにここまでやってきたのか?あの日以来どうやってすごしてたんだよ?プレイヤーならこれを知らないってのは死活問題だぞ?」
「プレイヤーってなんだよ?俺は海賊だ。プレイヤーなんかじゃないぜ?それにあの日ってなんだ?俺が商船を襲った昨日のことか?それとも海龍とやりあった半年前のことか?それとも海賊になった15年前のことか?」
「は?」
俺はここで一瞬思考が停止する。
エルがプレイヤーでない?だとすればNPCだ、とでもいうのか?
確かに、今思えばエルがここにぶち込まれた時にも俺のように死に戻りをしてここに転送されたのではなく、直接ここに運び込まれたことに少し違和感を感じる。
それに装備品の異様な風化と劣化後は青い髪や目が異常なほどになじんでいることにも確かに違和感を感じる。エルが日本人でなく海外の国の人ならば青い目が似合うのは納得がいくがさすがに髪の毛まで青というのはかなり特殊だろう。
そしてメニューを知らないことや俺の知ってる常識が通じないこと、そして何よりも俺たちがここに来る前の3日以上前の出来事について語ったこと。俺達は誰も3日以上前にこのゲームをプレイしたことなどないのだから。
「エル、お前まさか本当にNピー…海賊なのか?」
俺はNPCという言葉を飲み込む。彼らNPCは自分のことをNPCと理解しているのだろうか?
町にいたNPCの人たちはエルのようにこんなに自由で過去の設定など細かくされているのだろうか?
そうだとしたら、俺たちはNPCのことを何も考えずにただプログラムの一部としか考えていないプレイヤーがほとんどだ。いつか問題が起きるのではないか?
今までエルのように設定にとらわれない振る舞いをしたNPCと俺は出会ったのだろうか?
俺は様々な考えに思いを巡らせる。
そういえば宿屋の女将がサービスうんぬんといっていた気がする。あれがもしプログラムでなく自我の一部だとしたら?あの後のリュウに対する起こし方もNPCの行動パターンとしたら少し違和感を覚えるものだ。
「どうした?難しい顔して。
なんか変なものでも食っちまったか?」
黙り込んでいろいろなことを考えていた俺をエルが心配そうな顔で俺のことをのぞき込んでいた。
「あぁ、なんでもない」
俺は手をひらひらと振り何でもないとアピールする。
しかし、NPCにも自我がある。もしくは個別にAIが組み込まれていて個々で違う記憶を持っていて意志を持って行動している可能性がある。というか、本当にエルがNPCであった場合、ほぼ確定だろう。
これが特定のNPCのみの設定というパターンもあるが、今はその確証もえられないからな、たぶんすべてのNPCに普通にプレイヤーと接するようにすることに越したことはない俺はそう結論付け、俺が考えたことを分にまとめてメールでリュウに送信する。
これはえらい発見をしたな、と思っていると
「へぇ、さっきの薬草の出し方といいやっぱりおめえは<加護持ち>か」
「加護持ち?」
エルが俺のほうを見ながら訳知り顔でそう聞いてくる。
「おめえみたいに神様かんかの加護を受けて死んでも死なないそれにアイテムやらなんやらを別のどこかにしまったり遠くの誰かと瞬時に連絡を取れる力を神様から与えられた連中のことさ。
俺の見立てじゃ、おめえもその一人と見たわけだが違ったか?」
「ぁ、ああ!そうさ俺は加護持ちだ」
どうやらNPCは俺達プレイヤーのことを<加護持ち>と呼んでいるらしい。
これは、たぶんプレイヤーは誰も知らない情報だろう。ひょっとしてNPCと会話すればこの世界に関する情報で有益なものや、目指す方向が明らかになっただけで目標が明らかにされていないこのゲームのクリアの仕方も明らかになるかもしれない。
「そうだ、エル聞きたいんだが…」
そうして俺はこの部屋に滞在している時間を情報収集に絶やすことを決めた。
これからも引き続きよろしくお願いします。