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30 突然の被疑者

 さあて、大変なことになった。

 何が大変って?

 それは慌てて助けを呼びにいった私が、現在第一発見者&第一容疑者として拘束されてしまったことだ。


「人気のない場所でナターシャ様とエルザ様にお会いして、咄嗟に殺意が湧いたんじゃないですか? 聞けば、その特異な制服も元は彼女たちの嫌がらせで切り裂かれたものらしいですから」


 顔も見たことのなかった偉い先生方が、先程から私を取り囲み尋問している。

 ナターシャとエルザ(一緒にいた取り巻きの名前だ)は、学園の医務室に運ばれていった。

 もっと設備の整った学外の医療施設に送るべきなのではと進言したのだが、学園には研究も兼ねて最新鋭の設備が備えてあるからと突っぱねられてしまったのだ。


「困るんですよ。学内でこんな事件を起こされるなんて。ナターシャ様は他国からの留学生でいらっしゃると言うのに、母国に知れたら国際問題になる」


「こんなことが外に知られてみろ! 学園の権威が失墜してしまう」


 いらだたしげに呟かれた言葉が、彼らの本音を端的に表していた。

 要は早急に犯人を確保して、事態の収束を図りたいのだろう。

 気持ちはわかるが、いくらなんでも助けを呼びにいった私を拘束するなんて、言いがかりも甚だしい。

 サラは先程から怒りで爆発しそうになっているし、ウィンだっていつ室内に豪雨を降らせるかわからない。

 今のところ、状況が分かるまでは大人しくしていてという私の願いを聞き入れてくれているが、その我慢もいつまで保つのやらだ。


「聞けば、その特異な制服も元は彼女たちに切り裂かれたことが原因なのだろう?」


 ナターシャたちのいじめを知っていて放置していたのかと、頭がかっとなった。

 しかし一方で、第三者から見たら動機の面でも私が犯人に思えるだろうなと、どこか冷静に考えている自分がいる。


「だからと言って、私はあんなことはしません。実際、研究生になったことで彼女たちのいたずらもなくなっていましたし……」


「しかしねぇ、アリス•ド•ブロイ。それは言い換えれば、彼女たちのせいで研究生にならざるを得なかった、ということでは? 他の生徒たちと隔離されて、さぞ悔しかっただろう」


「いいえ全く。むしろ人間関係に煩わされることがなくなって、清々していましたわ。ですので、想像と憶測で私が犯人であるかのように扱うのはやめてください!」


 自分でも意外なのだが、私はこんな状況でも自分の悲劇に浸らず、落ち着いて受け答えすることができていた。

 きっとこの学園に来たからの様々な出来事によって、心が強くなったのだろう。

 そして絶対的に私の無実を知っている精霊たちの存在が、私を勇気付けていた。


「だが、先日君は食堂で、自分こそが殿下の婚約者だと宣言したそうじゃないか? つまり、他の婚約者候補であるナターシャ殿が目障りとなって―――」


「待ってください! 私はそんなこと言っていません。それは殿下が勝手におっしゃったことで、私自身は了承していない事実です」


 私が言い返すと、取り囲む教師たちの間に白けた空気が流れるのがわかった。

 おそらく彼らは、王子が男爵令嬢相手にそんなこと言うわけないだろうとか、そんな失礼なことを考えているに違いない。

 でもそれにしたって、あの日クロードの方が私を婚約者だと公言したのは事実だ。ひどい事実の歪曲もあったものである。

 どう言えば彼らが納得するだろうかと考えていると、突然の部屋の中に飛び込んでくる人影があった。


「失礼! うちの研究生が拘束されていると言うのはこちらですか!?」


 飛び込んできたのはマティアスだ。

 ノックも挨拶もない入室に、私を含め部屋にいた全員が呆気に取られていた。


「ーーー拘束とは、人聞きの悪い。我々はただ、彼女に詳しい事情を聞こうとしていただけだ。その証拠にほら、彼女の手足を縛ったりなどはしていないだろう?」


 いち早く冷静さを取り戻した一人が、マティアスに反論する。

 確かに縛られてはいないが、私が部屋から出られないよう周囲を取り囲んで威圧していたじゃないか。

 言い返したくなったが、まだ状況がどうなるのかわからないので必死に口を閉じていた。


「でしたら、事情は私の方で聞いておきます。今日は彼女も疲れているでしょうから、研究室に連れ帰ります」


 マティアスは早口で言うと、教師たちの間に突っ込むようにして私の手を引っ張った。


「待て! 彼女にはもっと聞くことがっ」


「そうだぞ。大体君がそんな娘を研究生にしたからこんなことに……っ」


 さすがに言いがかりが過ぎる。

 マティアスもそう思ったのか、足早に扉へと向かっていた足をピタリと止めた。


「……そう言えばご報告がまだでしたが、クロード殿下も魔法学の研究生になられるとの仰せです。彼には十分な才覚があると感じましたので、私もそれを了承致しました。なんでも、己の婚約者と片時も離れたくないとの仰せで、いやぁ若さというとは眩しいですな」


 マティアスが皮肉げに言うと、室内にいた男たちの顔色が明らかに変わった。


「なに!? それは本当か!」


「聞いていないぞ! ではその娘は本当に……」


 彼らが慌てている間に、マティアスは私を強引に部屋から引っ張り出して言った。


「詳しいご報告はまた明日。それではみなさん御機嫌よう」


 彼が力任せに閉じた扉が、バタンと今にも壊れそうな音を立てた。

 サラとウィンは、部屋に向かってベーと舌を出している。

 とにかくあの部屋で火事と洪水が起こる前に出られてよかったと、私はマティアスに引っ張られながら思ったのだった。

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