いろどり 後編
「僕の答えをいつまでも」のサブエピソードです。
今回は本編の彩ちゃんについてのお話後編です。
「お願いします!」
気持ちを素直に伝える。こんなに簡単なのに難しいことは初めてだ。それでも皆は私の想いを少しずつわかってくれた。部活動を引退した人は後輩の指導より優先的に、勝ち進んでいる人は家でも出来る音源探しなどをしてくれたのだ。それぞれが最後の文化祭を良いものにしようと動いてくれたのだった。
そして文化祭当日。
文化祭で劇を終えた私たちは集合写真を撮る。その時、少し遠くの方で優君を見かけた。撮影後、私は友達との会話もそこそこに後を追う。
「あの! どうだったかな!」
私は急ぐ息を整えてから彼に問いかける。
「あ! 今日はありがとう。上手くいったようだね」
「うんうん。特に主人公のキャラが最高に面白かったわね!」
自信たっぷりの綺麗な声色で具体的な評価をしてくれたのは、彼の隣にいる女の子からだった。「あの、隣の子は?」と聞く前に彼は紹介してくれる。
「前に話した子の春香だよ」
「えっと……ありがとうございます春香さん。私は彩って言います」
「よろしくね!彩ちゃん!」
私より少し短めの髪の毛をフワリと揺らし握手を求められた。彼女の透き通った眼はこれからの未来を描き、屈託のない笑顔は周りを巻き込んで幸せにさせる。そのような力を持ち合わせているような不思議な感覚が流れてきた。
「あ!! そういえばこの後買い物行かなきゃいけないんだった! またね! 彩ちゃん!」
「僕には挨拶ないの?」と彼が言い終わる前に彼女は行ってしまった。忙しい人なのかな。
――
私は帰りの準備を済ませ、校門で待ってくれている彼とあの日のように隣通しで横断歩道を歩く。今日のお礼として「送っていくよ」と言ってくれたのだ。今度はお礼と悩みじゃない私の意志を聞いてもらう。
「私……同じ高校を受験しようかな」
「え? でも彩ちゃんの家からじゃ遠いんじゃない?」
「電車に乗れば大丈夫……だと思う」
「ああそれもそうか」、と彼は頷く。それ以上は何も聞いてくれなかった。二人の間に少しの静寂が流れ、私がそれを破る。
「と! ……ところで優君はなんで?」
「えっと、心配なやつがいるんだ」
「もしかして春香ちゃんのこと?」
「そうだよ」と彼が言う。
「彼女だから?! かな……」
私はたまらなく気になり1拍おいてから彼の顔を見ずに言う。どう表現して良いかわからないけど、答えを聞くのが怖かったんだと思う。
「ええ!? 全然違うよ! ただの幼馴染。ガサツなアイツが心配なんだ」
彼は何かを思い出したかのように口元を緩めていた。
「そっか……うん。ありがとう! 今日はここで大丈夫だから!」
「ん? 何か用事があった? ごめんね」
「ち……違うの! またね、優くん!」
私は彼の顔を見て言うことが出来なかった。
「え? うん。またね」
そう彼が驚き混じりで言うのを聞いて、私は少し早歩きで帰ることにする。それに彼の視線から逃げたくてすぐの角を曲がる。少し遠回りをした。
彼とまた会うために。
今度は私を変えてくれた人に素直な気持ちを伝えたいから。
――
「……またね」
僕は彼女の影があったところを呆然と眺め、しばらくして帰宅の途に就くのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
また本編と共によろしくお願いいたします。