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いろどり 前編

「僕の答えをいつまでも」のサブエピソードです。

今回は本編の彩ちゃんについてのお話です。

 あの日私は気付いたのです。私の世界に色が付いていなかったことに。


 今まで幼稚園、小学校、中学校ずっと女の子ばかりの環境で、これからも皆と過ごしていくのだと思っていた。


 だけど、中学3年生の夏休み前のあの日、その人と出会ってしまう。


 文化祭の実行委員だった私は、部活動をする子より少し遅くに帰ることになった。


 校門をくぐる頃はまだ、雲行きが怪しい程度だったのに。空模様は、いつのまにか黒くなり、ついにポツポツと降り始めてしまった。段々と濡れていくポニーテールを揺らしながら、足早に帰路を進む。


「どうしたら皆で作業出来るんだろう……。」


 この日も、いつもの雨の日と同じように悩んだ。今回のテーマは文化祭。塾や部活動で忙しい子が、どのようにしたら文化祭の準備に参加できるかを考えていた。けれど答えは出ない。アニメや漫画だったりの主人公でない私は、こういった時に答えを導き出せる子ではないのだ。それだけはわかっている。やはり雨は暗い気持ちになるので好きではない。


 周りに雨宿りする場所もない。家までは少し遠いけれど走って帰ることにしようかな。そう思って学校から3つ目の横断歩道を渡ろうとした時、「傘持ってないの?」と後ろから誰かが言った。


 え?私?

 振り向くと同じ年くらいの男の子が優しそうな微笑みで私をじっと見つめていた。


「傘、持ってないんだよね? 良かったら入ってく?」


 それは私に向けられていました。あまりに突然、馴染みのない男の人から声を掛けられるなんて。私が戸惑い答えを出せずにいると、私の周りの雨がくっきり止んだ。


「僕は用事も終わったし、送っていくよ」


 彼は自分が濡れるのを意もせず、傘に私を入れてくれる。


 それが私と優君の出会い。


 家族以外の異性から私だけへの優しさは初めてだった。


 帰り道、たくさんのお話をした。簡単な自己紹介で彼は同い年だったことを知った。電車で3駅ほど離れた中学生で、今日は幼馴染の子に買い物を頼まれたらしい。


 そして受験の悩み。私は中学校のコネクションが強い女子高に進学する予定だったがもっと上を目指した方が良いと言われたこと。私は何が正解か分からない。だから同年代の意見を聞きたかったのだと思う。


 それから今の一番の悩みである文化祭のこと。


「うーん。難しい問題だね」


「皆が忙しいのは分かるんだけど、最後の文化祭は皆で成功させたいの……」


「……気持ち。その正直な気持ちを皆にぶつけてみたらどうかな。何もしないより、きっと何かが動き出すと思うよ。」


「私の話、聞いてくれるかな?」


「きっと大丈夫。僕も話を聞いていて手伝いたくなったからね」


 私はそれに何も答えることが出来なかった。あまりにも純粋で素敵な目をしていて、私もその時は鏡のように見惚れていたからだ。


 やがて私の心を表すかのように空は明るさを取り戻していた。


「見ず知らずの人に家までっていうのも親御さんが心配しちゃうだろうしここらへんで――」


「あ……あの! よ……。よかったらこれ!」


 学校の文化祭は招待制。私は別れの挨拶になる前に招待カードを渡した。


「来れなくても全然良いので! ……でも出来れば来てほしいかも……えっと――」


「ありがとう! 是非行くよ! どんな発表になるか気になるし」


「き、気になるなんてそんな! 急に!」


「ありがとう。楽しみだよ」



 私が玄関のドアを開ける前、あるはずもない影を追い、視線の延長線上の空を見る。その青いキャンバスには淡い虹が架かっていた。


 そして私は「あなたのおかげで変われそうです」と小さく消えるように呟くのだった。


ここまでありがとうございました!


またよろしくお願いいたします。

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